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第二章:遺跡探索

 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)達は、アディティラーヤが堕ちた際に、それほど大きなダメージを受けなかった巨大な遺跡へと賞金首の『テツトパス』を求めて、地上にも地下にも伸びるダンジョンを進んでいた。

 鉄下駄をカランカランと響かせながら先頭を行く甚五郎が百獣の剣で、首を伸ばして襲い掛かってきたオオカミを切り飛ばす。壁に当たってバウンドするオオカミの首。

「うおおお、これは確かに大掃除のやりがいがあるぜ!!」

 人間関係以外は気合で乗り切ってしまう。筋肉バンカラ男の甚五郎に前衛を任す羽純がサイコキネシスで、もう一体のオオカミの動きを止めながら呟く。

「ふむ、一度突破した場所にまだこれだけのモンスターがおるとはのぅ……これ、そなた、蟲くらいで取り乱すではない」

 羽純の袴に捕まってブルブルと震えているのは、先ほどまで「テレビで見た探検隊みたいで楽しそうですー。いかなる危険があるかわかりませんから、注意して進みましょー!」と、元気よく先頭を歩いていたホリィである。

「だだだって、Gですよ!? あのカサカサ動いて艶のある黒色の生き物ですよ!? どうしてこんな遺跡に居るんですかぁぁ!?」

「あいつらの生命力と伝統を舐めてはいけない、ということだろう。それにそなた、お茶や食料を持ってきておるであろう?」

「そ、それは、腹が減っては探索できないですし……」

「それはGとて同じであろう」

 羽純とホリィが会話する中、金剛力を仕様した甚五郎が、敵に向けて剣を振るう。

「おぬしら、ちょっとは手伝え! しかし、このオオカミ……首が伸びるのか……古代で絶滅しなかった生命力は見事だぜ、なぁブリジット?」

「ごもっともなご指摘です。甚五郎」

 古い遺跡の中で活動停止していたが、回収・整備されて現在に至るブリジットが甚五郎に同意する。

「こんな謎だらけの場所を宮殿に改造するとは、チャレンジ精神旺盛ですね。その建築家という人は」

 甚五郎が豪快に笑う。

「宮殿に改造するとか言ってるが、野良モンスターに加え賞金首までいるとはな。大掃除が必要なわけだ!」

「そう言えば、今回の妾達はの目的は掃除じゃ、殲滅上等じゃ、全力戦闘じゃ……と言えば……」

 羽純は、フゥと息をつき、好戦的な目付きで目の前のオオカミ達を見やる。

「は……羽純!? 駄目ですよ! 羽純の『お掃除』は……!!」

「今回は建築家殿もおるのじゃったな? なぁに、改築すると思えば多少の破損は好都合じゃろ……」

 掃除が伝説級に下手というか危険で、なぜか紙屑を拾おうとして家が焼失したりする羽純。そんな彼女が手を掲げ、一気に魔力を集中させる様にホリィが悲鳴をあげる。

「我は射す光の閃刃!」

 空間に浮き出た無数の光の刃がオオカミ目掛けて飛び、炸裂する。

「「「グゥオオオォォォ!?」」」

「ははははっ! 妾はやはりこうでなくては!」

「おわっ!? 危なッ!?」

「キャー、キャーッ!!」

 敵味方関係なく襲う光の刃に甚五郎とホリィが逃げ惑う中、例え自爆してもコアが無事なら再生できるらしい機晶姫のブリジットは比較的冷静に、壁際でトラップ等を調査する。

「ともかく、未探索の場所もあるとなればトラップ等の仕掛けも生きていると考えるべきでしょう。警戒して進みましょう」

 振り返るブリジットだが、甚五郎とホリィには聞こえていないようであった。当然、高笑いをするノリノリな羽純にも……。





「各員、銃型HCは行き渡ったか? 弐式なんぞ出て若干旧型だが、マッピングでの使用には問題ない。とにかくまずは怪しいと思える場所を調査するぞ」

 遺跡内へ突入した直後、相沢 洋(あいざわ・ひろし)は後方に続く一同に呼びかける。洋達は久しぶりの調査を開始していた。

「銃型HCかあ……弐式出たんだし、手に入らないかなー。ちなみにオレッチは七式改を使ったことあるよ」

 と、ユビキタスで銃型HCをいじり、マッピングを済ませた相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)が周囲を警戒する。

「……ちなみに発破はするぞ。久しぶりだからな。洋孝。爆薬の調達はいいか?」

「ああ、じーちゃんに頼まれていた高性能軍用指向性爆薬の詰め合わせと電気雷管、発火装置、その他もろもろ、一式全部用意してきたよ」

「完璧に戦闘工兵モードですね。しかも洋孝に根回しで用意させたのは高性能指向性爆薬……よくもまあ、手に入れてきましたね」

 洋孝に背負わせているC4爆薬を見てため息をついたのは乃木坂 みと(のぎさか・みと)である。

「国軍補給部隊が困惑していたよ。こんなにどこで使うのかって……」

 背中に背負った爆薬を、みとに見せて肩をすくめる洋孝。

「個人的にはこの種のダンジョンは嫌いではないのですが……まあ、お宝目当てに行動するのも悪くないでしょう。以上」

弓を手に周囲を警戒するエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が、あまり抑揚のない声で呟く。

「あのセルシウスが悩んでいるんだ……今度はきちんとしてやらんとな。マッピングをしつつ、作戦を開始するぞ!」

 実は洋はセルシウスとは面識があった。かつてコンビニや蒼木屋で巡回警備のバイトをしていた時、セルシウスとは短い時間だが色々話をしたのだ。今回はそんなセルシウスが宮殿造りを担当すると聞いた洋は、目に見えぬところで彼を助けてやろうと考えていた。

 ともあれ、トレジャーセンスで金品を探し、索敵しながらトラップがないかチェックしていく洋達。

 とある壁の前で立ち止まった洋は、無言で溜まった埃を手でどける。

「あったな。いかにも隠し扉らしい感じだが……開くか?」

 洋は周囲をチェックして作動する仕掛けがないか確かめる。

 遺跡内部はニルヴァーナ文明が非常に高度な機晶技術を使っていたため、今まで見かけたこともない仕掛けが多くあったものの、それらの装置は殆ど死んでいる状態であった。

 エリスが念入りに調査する洋に警告する。

「基本的にはこの種のトラップは殺害か捕縛かいずれかが目的です。この通路は危険と判断します。以上」

「危険だからと下がっていては、内部マッピング等出来ない……が、危険なところにこそ宝があるとも読める」

 洋は仕掛けを探すことを止め、洋孝に言う。

「洋孝、爆薬セットするぞ」

「爆薬? わかった……っと」

 背中に背負った爆薬を素早く取り出す洋孝。周囲への被害を抑えるため、的確な量の爆薬を洋に渡す。

「電気雷管設置、導火線よし……皆、下がれ」

 一同と通路の端まで退避した洋がスイッチを握り、

「よし! 爆破!」

 洋が通路を爆破する。

「ドオオォォーーンッ!!」

 巨大な音と振動が多量の埃を撒き散らす。

 爆破された穴から内部の様子を伺う洋。部屋の中央に木箱をいくつか見つける。

「……どうみても宝箱かな……トラップに注意しろ。特に床が怪しい……」

 洋はトラップ解除の能力を駆使する。

「トラップのタイプ……確認。物理型か。ならば解除可能だな」

 先にある宝箱に向けて、床の異変に注意しながら歩み寄ろうとする洋。

「洋!! 前です!!」

 みとが声をあげる。

「前……クッ!?」

 何かがが洋の肩をかすめていき、教導団軍服の肩口がザックリと切れる。

「洋!」

「心配ない。かすっただけだ。あれは何だ?」

「鳥……巨大な鳥です。以上」

 エリスが指差した先には、『白銀の鳥』が一体こちらを見ている。

「敵と遭遇だ!! みと、ブリザードで凍らせろ。洋孝は放電! エリスはサイドワインダーで狙撃。そして私は……こうする!」

 洋はミニガン状態の光条兵器を召喚し、鳥に狙いを定める。

「みとのブリザードの後、各員一斉攻撃で仕留めるぞ」

 洋の言葉に、みとが頷く。

「分かりました……凍てつけ! ブリザード!」

 強烈な冷気が、目標目掛けて放たれる。

「クゥエエエェェ!!」

 鳥は大きな羽を広げ、勢い良く羽ばたく。

 それと同時に強烈な氷の嵐が押し戻される

「嘘!?」

「耐性があるみたいだ! チィ!」

 洋孝がすかさず放電実験で周囲に電撃を放つ。

「「はいはい、邪魔邪魔。とっとと痺れろ!」

 放電の影響で一瞬眩しくなる室内。洋は敵が『白銀で出来た機晶ロボットの巨大な鳩』であることを確認する。

 放電は効果があったようで、鳥は一瞬動きを止める。

「エリス、(う)てぇッ!!」

「接敵しました。作戦通り狙撃します。以上」

 セフィロトボウを構えたエリスが、回避できないサイドワインダーで連続して敵を狙い撃ち、足止めを試みる。

 しかし、敵に対して矢は大したダメージになっていない。

「敵は予想以上の硬度だと確認。以上」

「任せろ」

 洋はミニガン状態の光条兵器を炸裂させる。

 凄まじい威力で発射される閃光。

 爆発音が周囲に響く。

「……やったの?」

 みとが洋に問いかける。

「いや……逃した」

 光条兵器を収めた洋が呟く。

 鳥は、洋の光条兵器を寸ででかわし、壁に空いた大穴から逃げ去った模様だ。

「機晶ロボットのようだね……じーちゃん」

 洋孝が落ちていた敵の羽らしきものを一枚手に取る。

「耐魔法用のコーティングがされています。古代の遺物でしょう。以上」

 エリスが冷静に分析する。

「よし、ひとまずは完了か。マッピング情報を更新、情報は可能な限り取るぞ」

 洋は銃型HCに罠、隠し扉、隠し通路、敵などと遭遇した場所も明確に記録した後、木箱からトラップ解除とピッキングで中身を取り出そうとする。

「セルシウスには悪いが……お宝ゲットだぜってか。いいものだ……ん?」

 木箱を開いた洋が首を傾げる。

「宝物ですか。まあ、少しぐらいなら褒美にもらってもいいでしょう」

 みとが興味津々に木箱を覗く。

「宝を入手ですか? 問題は価値と使い道ですね。刀剣の類であれば洋様でしょうか? 弓であれば私も候補になりますが……もっとも、そんなに使えるものがあるとは思えませんが。以上」

 エリスも何だかんだで中身に興味があるようだ。

「……これは、おもちゃだな」

 秘宝の知識を持ってそれの鑑定を行っていた洋が呟く。

「え? おもちゃ?」

 洋が手にしていたのは、金属で出来たロボットや、人形、そして、古代の絵本やノート等だ。

「恐らく、誰か有力者の子供か何かがおもちゃ箱として使ったものだろう。

「なんだ……ガラクタね」

 みとが肩を落とすと、洋は首を振る。

「いや、これらは過去を知る重要なものだし、その子供にとっては宝物だったのだろう」

「過去?」

「私の推測だが、2つわかったことがある。1つは、アディティラーヤ自体がかつては、空中都市として栄えていたということ。2つめは、この宮殿にしようとしている遺跡は、空中都市の平和を象徴する建物だったということ、だ」

 洋が見せた少年の絵日記みたいなものには、確かに空中に浮かぶアディティラーヤと、そこで人々が平和に暮らしていたような様子が描かれている。

「そんな平和の象徴が、どうしてこんな有様になるんでしょうね……」

「……さぁな」

 洋は立ち上がり、眼鏡をクイとあげる。

「よし、我が隊は一旦帰還する。情報を途中で遭遇したやつらに渡すぞ」

「何だよ、じーちゃん、もう帰るのかよ!?」

 洋孝が口を尖らせる。

「日もあるし、探索者は他にもいる。私達の情報を共有することで、誰もが安全に進めるルートを増やす方が効率的だ」

 洋はそう言って踵を返す。

「(ひょっとしたら、さっきの鳥……この絵本に描かれている鳩だったら、あと何十匹と生き残っているだろうしな)」

 洋の嫌な予感は当たった。

 その後、帰還していた洋達は、通路でばったりと甚五郎達と出会う。

 洋は甚五郎達に、「巨大な鳩の敵に気をつけろ」とアドバイスするが、甚五郎達は目標の『テツトパス』と出会う前に、その『平和の象徴として動いていた金属製の白銀の鳩』と遭遇し、一体は倒すものの、その他大勢の鳩に追いかけられて遺跡から命からがら逃げ延びた模様である。