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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

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【14】



 渓谷の先で激しい戦闘音が聞こえた。
 涼司と戦闘を繰り広げていた探索隊が、雪崩れ込むように最終防衛線に撤退してきた。
 歌菜と羽純は聖邪龍ケイオスブレードドラゴンの背に乗り、上空から涼司に近付く。
「山葉さんは光条世界の出口へだけ、視線を向けてるみたい……という事は、頭上はがら空き?」
「猪突猛進な奴だな……」
 降下して距離を縮める。他の探索隊との戦闘に気を取られてる隙に、彼の上空10mを位置取る。
「今だ、歌菜!」
「山葉さん、思い出して。あなたは1人じゃない。あなたを想う人がたくさんいるってことを……!」
 歌菜はクリエイト・ザ・ワールドを発動させ、彼の周囲に人のイメージを創り出す。
 創造したのはコスプレをしたたくさんの加夜。
「!?」
「え、ええーー……!? 私、コスプレなんてしたこと……うん、けっこうありますね……」」
 これには加夜も赤面した。
「加夜……な、なんでたくさん。なんでこんなに増えた?」
 それから、山葉聡、御神楽環菜、馬場校長……彼に縁のある人物を創り出した。
『おい、涼司! なにお前こんなところでいじけたことやってんだよ? そんなやつじゃねぇだろ?』
『しっかりしなさい。仲間を薙ぎ倒して進む先に、本当にあなたの求めるものは存在するの?』
『視力矯正には成功したが、その眼は曇ったままだな。心の目で真実を見極めろ。闇に飲まれるな』
「く……っ、なんだ? 幻か……?」
 彼らの幻影に紛れ、コハクが前に出た。
「山葉さん、目を覚まして下さい。僕ももしあなたと同じ境遇なら、と考えると、あなたの苦悩は痛いほどわかります。でも、だからといって、そんな罪悪感にとらわれ、暴走し、さらに大切な人たちを傷つけるというのは……それは涼司さんにとって、本当にいいことなんですか!?」
「お前だって俺と同じなら、同じことをする……」
「それは……」
「そこに一縷の望みがあるのに、みすみすそれを捨てることがお前に出来るのか……!?」
 涼司は闘気が放出させた。
「俺が不甲斐ないばかりに命を落としたあいつを、諦めることなど俺には出来ないっ!!」
「……なんて悲しい気なんだ、山葉さん。やっぱり僕はあなたを止めなくちゃならない……」
 コハクは流派・天宝陵万勇拳の構えをとる。
 セラフィックフォースの光がコハクから溢れ出し、巨大な光の天使となり、彼の後ろにそびえ立つ。
「その目に幾千年の技の到達を焼き付けろ! 天宝陵万勇拳が究極奥義『壊人拳』!!」
 その拳が目に留まらぬ早さで閃く。その拳は閃光の如し。流星のように降り注いだ天使の拳は、涼司の上に、地形を変えるほどの破壊を伴って降り注いだ。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
 しかし涼司はその技を受けきる。
 大地を割る光の拳にダメージこそ蓄積されているが、膝を突くことなくむしろ拳を撃ち返してきた。
 そのパンチの威力は、天使と同等、いや、それ以上だ。一発繰り出すごとに衝撃波が生まれ、まわりにいる隊員は吹き飛ばされ、亀裂の走る渓谷がみしみしと悲鳴を不協和音のようにあげた。

「なんという肉体の強度だ……」
 メルヴィアは目のまで起こる凄まじい攻防に息を飲んだ。
「いや、執念か……」
「コハクの攻撃じゃ倒しきれない……!」
 美羽はオイルヴォミッターを持って、涼司の攻撃に巻き込まれないよう、メルヴィアの後ろに隠れた。
 なんだなんだ、と目を白黒させている彼女の後ろで、美羽はオイルを撒き散らした。
 涼司の足元がオイルで満たされる。
「ころべー」
「ころべーじゃないっ! 人の後ろでオイルを撒き散らす奴がいるか! この無能が!!」
 背中からオイルをかぶって、びしょびしょになったメルヴィアが鞭を突き付けた。
「あ、ごめん。メルメル」
「メルメルと呼ぶなっ! まぁ借り物のコートだから、被害は軽微だが……」
 叶少佐……。
 そして上空から歌菜も援護する。
 シュトゥルム・ウント・ドラングで叫びながら……。
「山葉さんのバカ!! これだけ皆で止めようとしてる状況で……本当は分かってるんでしょ?」
「な、何を……」
「それでも、まだ、幻の方に囚われるの?」
「やめろ……!」
 トリップ・ザ・ワールドで防御を固め、涼司から飛んでくる衝撃波から身を守る。
「貴方はそんなに弱い人じゃない! 花音さんが守った、皆が信じる貴方はそんな人じゃないでしょ!」
 歌菜はクリエイト・ザ・ワールドを発動する。
「振り向いてっ!」
 創り出したのは、足を引っかける縄の罠。
「!?」
「今だよ、羽純くん! 山葉さんの体勢が崩れた!」
「まかせろ!」
 羽純はドラゴンから飛び降り、マルチ・エアレイド。ドラゴンのブレスと、彼の槍による波状攻撃。
 体勢を崩した涼司に追い打ちをかけ、後ろ向きに倒れるように攻撃を加える。
 ところが、
 ぶちっ
 と音がしたかと思うと、涼司の足元にかかった縄がちぎれた。
「……あ! きょ、強度が!」
「ならば……このまま押し切る!」
 猛攻撃に更に体勢を崩し、踏ん張ろうと踏み込んだ……その瞬間、涼司はオイルで足を滑らせた。
「うおっ!」
 美羽がガッツポーズを取りかけた……がしかし、涼司はすぐさま足を地面に突き刺した。
 大地を貫き、がっちりコケないように姿勢を保った。
「あ、ああー……」
「お前、私にオイルをぶっかけておきながら失敗するなど……」
 メルヴィアはジロリと美羽を睨んだ。
「……メルメル、風邪引かないでね」