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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

リアクション


【16】



「……人間の戦いとは思えないわね。近代兵器が玩具みたい……」
 空間が歪曲し、大地が割れ、焦土となった眼前の様相に、ルカは呟く。
 淵が咄嗟に展開した救済の聖域のおかげで、ダリルの部隊は半分守られたが、半分は塵に。
 ダリルは生き残った部隊を再編成し、防衛線を維持するべく、指示を出し続けている。
「行くのか、ルカ。あの中に……」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は彼女の背中に声をかけた。
「うん。伝えたいことがあるのに、ここから声を出しても、彼には届かないでしょ?」
「止めても無駄なようだな。わかった、一緒に来い。俺が突破口を開いてやる」
「ありがとう。カルキ」
「なぁに。あとで旨いもんでも振る舞ってくれりゃいい。あ、でも野菜は勘弁だぞ?」
 くすりと笑い、それから2人とも潜在解放し、レベルを跳ね上げた。
 今の彼らの戦いに付いていくにはこちらも常人ではいられない。人を超えなくては。
「神に近い者を止められるのは同等の者だけ……!!」
「解放された龍の力、とくとくらいやがれ!」
 カルキはアンダーテーカーで空間を切り裂きブラックホールを発生させる。
 周囲を巻き込む、涼司とアルコリアの攻撃……龍の吐息と衝撃波を一気に吸い込む。
 龍の祝福で更に自己ブーストし雄叫びをあげる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーっ!!」
 サモンオリジンの4匹の龍とドラゴンズラス!
 そして、レギオン・オブ・ドラゴンで龍の軍勢を虚空から召喚!
「ちっ……!」
 上から押し潰すように繰り出される攻撃に、涼司は飛び退く……その瞬間、仕掛けた罠が発動する!
 先ほど掘った落とし穴が口を開き、彼を深淵へと引きずり込む。
 涼司は滑り落ちる地面を渡り、外へと脱出使用するが、ここでもうひとつの罠が牙を剥く。
「爆弾点火!」
 白竜は腕を真横に振り、部下に合図を送る。
 渓谷に埋め込まれた機晶爆弾が爆発し、崩れた氷の大岩が落とし穴へと降り注ぐ。
「こんなもので!!」
 涼司は闘気の爆発によって大岩を吹き飛ばし、天高く飛び上がった。
「乗れ!」
 ドラスティックフォーゼしたカルキの背に乗り、ルカは涼司に接近する。
 攻撃と罠の間隙を縫って、ルカは飛んだ。
 行動予測活用とポイントシフト、アクロバットと超加速で、彼女は彼の眼前に現れた。
 飛びつくように涼司に迫る。
「ルカ……!?」
「涼司! 目を覚ますのよ!」
 渾身の力で肩を掴み、その勢いを味方にして頭突きをお見舞いする。
「がぁっ!」
「本物の花音の気持ちは貴方が一番分かる筈でしょ!」
 その目をまっすぐに見つめ、瞳の向こうにあるその魂に、エンド・オブ・ウォーズをぶつける!
 闘気の霧散した涼司をそのまま地面に叩き付けた。
「よく考えて。花音は交換条件を持ち出すような子じゃない。花音の本当の願いを思い出すの」
「や、やめろ……! 言うな!」
「そして、背中の悪魔の正体を、振り返って、自分の目で、見てみなさい!」
「う、ぐ……」
 涼司の力が抜ける。
 すると、彼の背中の光が弱々しくなり、光の中に人影のようなものが見え始めた。
『騙されないで、涼司さん! 私は花音です! 悪魔は彼女のほうです!』
「まだ涼司をそそのかそうとするの!」
 ルカは光を睨み付ける……と、涼司は彼女を振り払った。
「りょ、涼司!?」
「信じていいんだよな……お前は花音なんだよな? またお前と会えるんだよな……?」
『そうです。あと少しです。頑張って下さい』
「だめ!」
 涼司は立ち上がり、歩き出す。
 ルカはもう一度前に出ようとしてその足を止めた。彼女より先に出た者がいたからだ。

「涼司くん……!」
「か、加夜……。お前も俺を止めに来たのか……」
 けれどそれには答えず、加夜は歴戦の回復術で彼の傷を癒した。
「加夜……?」
『何をしてるの、涼司さん! 立ち止まっている場合じゃありません、早く出口に……!』
「まずは怪我の治療。花音ちゃんならそう言うはずですよ」
『う……』
 光は声を詰まらせた。
「……加夜、すまない。だけど俺は……」
「花音ちゃんは優しい子でしたよね」
 そう言って、懐かしむように加夜は微笑んだ。
「いつも涼司くんのことを心配して、きっと消えた後も涼司くんのことを心配していると思います」
「え?」
「だから、今の涼司くんの姿を見たら心配すると思うんです。あなたが傷付くのを望む人じゃないもの」
「それは……」
『涼司さん、だめ。耳を傾けないで』
「ルカさんも、歌菜さんも、コハクくんも………皆、皆、あの子がどんな子だったか覚えてます。あの子と直接会ったことがない人も、どんな子だったか、皆の話に出てくるあの子の姿で知っています。明るくて優しくて、ちょっと思い込みが激しいところもあるけれど、いるだけでまわりが笑顔になるような子でした。それは誰よりも、私よりも、涼司くんが一番知っているでしょう?」
「ああ、わかってる……、目を閉じれば、今でもあいつが笑ってるところを思い出すよ」
 その様子に、佳奈子とエレノアは頷き、2人の元に向かった。
 あの日、預かったものを返すその時が来た。
「……山葉さん、ずっと預かっていたものを、今、お返しします」
 佳奈子は、エレノアの胸から覚醒光条兵器を引き抜いた。
 それはかつて山葉の持ち物だった剣だ。刀身は出せず、柄だけの存在になってしまったものだ。
「この剣は……」
 涼司はおそるおそる手を伸ばし、その柄を掴んだ。
 彼の手を離れしばらく経つが、剣はしっくりとその手に馴染む。
「花音の想いが込められた剣は、きっとこんなことを望んでいないんじゃないかな……?」
 エレノアに続き、佳奈子は言う。
「現実を冷静に受け止めることが大事だと思う。そうしたら、花音さんの遺したメッセージを受け取ることもできると思うし。それに、花音さんが絶対に戻ってこないとも限らないよね……?」
「どうして私たちがあなたを引き止めようとしているか、その理由をあなたは知らないでしょう?」
「メルヴィアが会ったの。あなたを止めて、と訴えるに」
「光だって……?」
「もしかしたらあれは……あれこそが花音さんだったのかもしれない……」
「花音ちゃんを助けたい気持ちは皆一緒です。今、探索隊の人があの光の行方を追っています」
 そう言って、加夜は涼司を抱きしめた。
「だから、一人で抱えないで下さい……」