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リアクション
13.はちゃめちゃ工房。
クリスマスイブ。聖なる夜。恋人たちがラブラブイチャイチャする日。
「リア充と呼ばれる方々は爆発されればよろしいと思います」
高務 野々(たかつかさ・のの)は、独り言のようにそう言った。
それからリンスと目を合わせ、
「つまり、レイスさん爆発しろ、と」
にっこり。
言われたリンスが、
「意味がわからない」
と疑問符を投げてくるので、わざとらしくため息を吐いてやった。
「わかりませんか? 非常に愛らしく魅力的な女性であるクロエさんと一緒に暮らし、こんなにたくさんの人が貴方に会いに来ている。これがリア充じゃなかったらなんだというのです?」
「そうか。俺はリア充だったんだ」
「はい。なので爆発しろ、と」
「ふうん……じゃ、高務は?」
「はい?」
「高務はリア充じゃないの?」
リアルが充実しているかどうか?
しばし考える。手持無沙汰の手を動かしつつ。
「私にとってはメイドこそが本懐。なので私は――あれ?」
本懐を遂げ、そしてその仕事ぶりを評価もされ……つまりは、
「リア充だね」
なんということか。
「わ、私『も』爆発しなければダメってことですか!?」
「俺に爆発しろって言ったしね。それに」
リンスの視線が、野々の膝の上に行く。
「非常に愛らしく魅力的な女性であるクロエを膝の上に乗せてその頭を撫でくりまわして幸せそうにしているわけだし、これがリア充じゃなかったらなんだっていうの?」
「わざわざ私のセリフを改変して追撃をかけなくてもよろしいですよ、まったく性格が悪い。クロエさんを見習ったらどうですか」
自分の話になったからか、クロエがくるりとした大きな瞳を野々に向け、見上げて来た。ああ可愛い。思わず再び頭を撫でてしまった。
「ののおねぇちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「わたしも、しあわせなんだけど……りあじゅうなの? ばくはつしなきゃだめなの?」
……不安そうに、言われてしまった。
野々としては、リンスにちょっかいをかけて弄って遊んで軽口合戦、が目的だったため、クロエにこんな表情をさせるつもりなんて欠片もなく。
「あ、いや、クロエさんは爆発しなくても良いんですよ……!?」
慌てに慌てる。
それを見ていたリンスが「馬鹿だなあ」と少し楽しそうに言ったから、
「鬼! 悪魔! レイスさんは非道です、こんなトラップに私を嵌めるなんて……!」
どうやら今回は負けのようだ。
「と、まあこの辺にしておきましょう」
なので、話を切り変える。
「最近とても寒くなってきたので、もしかしたらレイスさんが凍っているのではないかと思って、その面白現場を見に来たわけなんですけどね」
「凍ったら人形作りできなくなるから気をつけてる」
「ええ、若干残念です」
「期待に沿えなくて申し訳ないねー」
「うわあ。ものすごく棒読みですね」
まあ、さすがに凍っているとは思っていないが。
だって職業柄、手を大事にするだろうし、とすれば注意もするだろうから。
「これで根を詰めすぎて寒さを忘れて、体調を崩すとかやってたら大笑いして差し上げますけれどね」
「各方面から怒られそうだから、やだ」
「真っ先に大笑いしたいところですが、レイスさんが嫌がるのでしたらひとしきり笑った後に怒って差し上げてもよろしいですよ?」
「お心遣い感謝しつつ、却下」
――はっ。
気付いたらまた掛け合い方向に話が転がっていた。
違う違う、掛け合いを楽しんだりするのもここに来た目的の一つだけど、他にも目的はある。
こほん、と咳払いを一つして。
「そんなわけで、スープを作ってきました。以前、お約束しましたし」
取り出したのは、ミルクパン。
「まあ、何の変哲もないミネストローネです。ですが、栄養満点でぽかぽかですよ」
豆、野菜、パスタ。
様々な具材を入れて煮込んだ野々自慢のスープだ。
「それからこちらはお好みでどうぞ」
テーブルに鍋を置き、その隣に赤唐辛子と粉チーズを置いて。
「あ、そうそう」
言い忘れていた。定番の言葉を。
息を吸って、声音を意識して。
「べ、別にアンタのために作ってきたわけじゃないんだからね!?
たまたま作ったブイヨンが余っただけなんだから! この私の手料理が食べられることを感謝しなさいよね!!」
いつもより高めの、作り声。
言い終わると、場に落ちるは沈黙。クロエでさえぽかーんとしている。
「うん。これでよし」
「……なんの真似? それ」
「ツンデレですが、何か?」
しかもただのツンデレではない。
さりげなく、ブイヨンから作った事もアピールしている。あざとい。このあざとさはまさにツンデレ新機軸。
「あのね高務」
「はい、何でしょう?」
「気持ち悪い」
「…………」
――いや、まあ。
「わかっていましたが、さすがに面と向かって言われると軽く凹みますね」
どうやらツンデレには向いていないようだ。
まあ実際、あれだけ特にツンもデレもない日常会話という名の軽口合戦を応酬させている間柄なのだし、頷けるが。
「それと」
「なんです? 追撃ですか? 受けて立ちますよ」
「嬉しい。ありがとう」
「……『それと』を接続詞にするのはおかしいかと」
無駄に身構えてしまったじゃないか。
「狙った」
「あざといですね」
「あざとい人が多いからね、真似してみた」
――あーあ、本当にこの人は。
「飽きないですねぇ」
*...***...*
「ルシェンが行ってみたかったお店って、人形工房だったんだ」
工房までの道を歩きながら、榊 朝斗(さかき・あさと)はやや前を行くルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)に声をかけた。
少し前から、冒険屋の面々が話題に出すようになった、『人形工房』。ノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)達から、リンスの話も聞いていたが、
「まさかルシェンがその人形師に注文していたとはなぁ……」
意外と、人と人がどこで繋がっているかなんてわからないものである。
今日、ルシェンは受け取りに行くと言った。なので、良い機会だと挨拶も兼ねて一緒に行くことにしたのだけれど。
「ねえルシェン。一体何の人形を頼んだの?」
「秘密です♪」
何を頼んだのか、全然教えてくれないのだ。
それを疑問に思いながら、工房のドアを開ける。
――ばっちり、です……!
ルシェンは受け取った人形を抱いて、ぷるぷると歓喜に震える。
その人形は、以前写真に収めた猫耳メイド姿の朝斗を模していた。
肩まで伸びた黒い髪。薄いピンクの耳と尻尾。ふりふりのエプロンドレスに、青いリボン。オプションで銀色のトレイ。そして何よりも、愛らしい表情。
全長40センチほどにデフォルメされていたのだけれど、それでも朝斗とわかる。
「猫耳メイドの、ちびあさにゃん……! 素敵です……っ」
朝斗の女装姿が何よりも大好きなルシェンとしては、垂涎もの。
「リンスさん、想像以上の品をありがとうございます」
ぺこり、深深お辞儀をしてから。
うふふふふ、と笑いながら、朝斗に近付く。
朝斗は商品棚を見ていてルシェンに気付いていないようだ。
そっと後ろから忍びより。
ぽん、と頭に人形を乗せた。
「?」
違和感に気付いたのか、朝斗が振り返る。
――……っ!!
その瞬間、ルシェンは衝撃に胸を打たれた。
――なんて……なんて可愛らしいの!?
この愛らしさも、想像以上だ。
「あ、もしかして今頭の上に乗ってるのが作ってもらった人形?」
頭上に置かれたそれが、どんな人形なのかわからない朝斗が手を伸ばす。
取って間近で見ようと思っているのだろうが、
「だめ! お願いそのままでいて、お願いだから! 取らないで!」
思わず裂帛の声を上げる。
だって、
「これは写真に撮らなきゃ駄目な気がするの! 絶対よ、絶対。すぐに撮るからじっとしていて!」
「なっ、え、えぇ!?」
「朝斗と猫耳メイドちびあさにゃん……!」
「ルシェン、目が怖い目が怖い! 息も荒いよちょっと!? ていうかいつのまにカメラ――」
朝斗の叫びなど、知るものか。
パシャパシャパシャパシャ、力の限り、データ容量が許す限り、撮りまくってやる。
そうやって、朝斗とルシェンが戯れているのをアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は静かに見ていた。
「制作途中に、魂が宿る……でしたか」
そしてぽつり、呟く。
「ならば、ああいった状況にある場合、トラブルに発展するケースがお約束」
猫耳メイドのちびあさにゃんは、どうなのだろう。
――まあ、どうあろうと私には関係ありませんか。
それよりも気になることは、リンスの持つ不思議な力。
「人形が、動くのですか?」
問いかける。
「人形にも、感情や心が……宿るものなのですか?」
――私と、違って。
アイビスは、自分が兵器だということを重々理解している。
「まあ、私には関係ないことなのですが」
それなのに、どうしてか。
何かが引っかかるのだ。
――何か……似たような、記憶が。
「人形に感情が宿るかどうかは知らない。だって、俺の場合は魂宿しちゃってるわけだから。
でも、宿ってもいいんじゃないかな。感情だとか、心だとか」
「それは、なぜ?」
――ただ、使われるものでしょう? 人形なんて。
「訊かれると上手く答えられないけど。俺、人形と人間にはあまり違いがないと思ってるから。だから、人間が感情を持つように、人形がそうなったっていいんじゃないのって勝手に思ってる」
いろいろな考えがあるだろうけど、と補足をして、それきりリンスは口を閉ざす。
――人形と人間の、違い。
あまりない、と言っていた。そうなのか。どうなのだろう。考えたことがなかった。
――違いがないなら、感情や心を持っても良い?
自問自答には答えが出ない。
「わああ、あさにゃんが動いた!?」
『にゃー!!』
「猫の声……! あさにゃんがにゃんにゃんで、ああ可愛い……♪」
「ルシェン、喜んでる場合じゃないよ!? 止めなきゃ!」
考え込んでいると、朝斗とルシェンは変わらずに戯れていた。お約束を地で行ったようだ。
それを見たリンスが、「……また抜けてなかった……?」と、何事かを呟いていた。
――まあ、私には。
関係の、ないことだ。
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