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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 狼と子羊
 
 
 
 実家の門をくぐると、別世界のような静謐な雰囲気が漂う。
 その空気に、帰ってきたのだという実感が湧いてきた。
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)が実家に帰省するのは、パラミタに渡ってからはじめてのことだ。これまでも長期の休みには帰ろうかと思ったことはあったけれど、あれこれとばたつくことも多くてついつい帰りそびれていたのだ。
 帰宅できるおおよその時間をあらかじめ実家に伝えておいた為か、玄関前では綺人の異母兄の神和 武瑠が、今や遅しと綺人の帰りを待っていた。
 そこに綺人は、
「ただいま、兄さん、久しぶりー!」
 と呼びかける。
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
 武瑠は口数が少ない為に厳格そうな印象を与えるだが、家族には優しい笑顔を見せる。今も、帰ってきた綺人とクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)を目を細めて迎えた。
「うん元気だよ。色々なことがあったけど、何とか生き残ってる」
「お久しぶりです、お兄様」
 クリスがいつになく緊張して挨拶する。パラミタに行く前、クリスはこの家にいたことがあるのだけれど、綺人と恋人同士になってからは、これが最初の帰省となるのだから。
「せっかく帰ってきたんだから、まあ……」
「兄さん、邪魔!」
 ゆっくりしてゆけ、と言いかけた武瑠だったが、不意に突き飛ばされてたたらを踏んだ。
 武瑠を突き飛ばしたのは綺人の異母姉の神和 火紅耶だ。長い黒髪をポニーテールに結んだ彼女は、そのプロポーションも相まって、一見モデルのように見える。
「おー、アヤにクリス、久しぶり! アヤ、それ土産か?」
 綺人の連れている使い魔を指さして言う火紅耶に、これは僕のだからあげないよと綺人は笑った。
「なんだ違うのか」
「こら火紅耶、いきなり人を突き飛ばすな」
 残念そうな火紅耶に、飛ばされたまま放置された武瑠が苦笑しながら注意する。その武瑠に、綺人はさっそく頼んだ。
「そうだ。兄さん、後で真剣試合して。クリスとの恋人関係、早く認めて欲しいんだ」
 真剣試合、というのは文字通り、真剣を使った試合だ。綺人はいつも武瑠に斬られて、血だらけになってしまう。そんなになっても綺人が武瑠に試合を挑むのは、一太刀でも浴びせることができたらクリスとの件を認める、という兄との約束あってのことだ。
「綺人……」
 自分の為に戦おうとしてくれる綺人は嬉しいけれど、やはり試合は心配でクリスは不安げに綺人の名を呟いた。
 が、武瑠はよく解らないように瞬いて。
「は? クリスと『結婚』を認めてほしいのではなく、単に恋人としての付き合いを認めてほしかったのか?」
「うんそうだよ」
「恋人として付き合うのはお前の自由だ。私がとやかく言うことではない」
「え、でもメールにクリスとの付き合いを認めてほしいって書いたら、真剣試合だって言い出したのは兄さんだよ」
「成人後の結婚ならともかく、学生結婚がしたいなら、それ相当の覚悟と実力が必要だということなのだが」
「そんなわけないじゃない」
 綺人と武瑠は思わず顔を見合わせる。
「兄さん……何であのメールで結婚云々になるんだ。全く変なところでボケてるなぁ……」
 武瑠から綺人のメールを見せてもらっていた火紅耶が、呆れたようにため息をついた。
 
 
 誤解もとけて一安心。
 ゆっくりと実家で休んで、美味しいものを食べて。
 しばらくぶりに、綺人は真剣試合もない平和な実家を満喫することとなった。
 そして夜。
 火紅耶はクリスを手招きして部屋の隅に呼んだ。
「お姉様、どうかしたんですか?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだ。クリス……アヤとどこまでいった?」
「えっと……ちゃんとしたキスもまだです」
 正直に答えるクリスに、火紅耶は目を見開いた。
「キスもまだ? こうなったらさっさと襲ってしまえ」
「そう言われましても……良いんですか? 本気で襲っちゃっても。あんなことやこんなこと、しちゃいますよ」
「もちろんだ。今夜、健闘を祈る!」
 ぐっ、と親指を立てて火紅耶に送り出されたけれど、さてどうしようか。
 クリスがそんな狼さんなことを考えていると、向こうから何も知らない子羊綺人がやってきた。
「あ、クリス。夜なんだけど、僕と一緒の部屋で寝ることになるけど良い? 他の部屋だと、幽霊とか使い魔とか入ってくるかもしれないから」
「えええっ!」
 そんな渡りに船のことがあって良いものかと、クリスは驚く。
 その叫びを反対の意味に取って、綺人は心配そうに尋ねてきた。
「……クリス、嫌?」
「そ、そ、そんなこと絶対ありません。そ、そうですよね。幽霊とか出たら困りますから!」
「だったら一緒でいいね」
「はいっ!」
 勢いよく答えるクリスの脳裏では、乙女の危険な妄想がぐるぐるぐるぐると渦巻く。そのクリスの思惑も知らぬまま、綺人は良かった、とにこにこしているのだった。