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●続・大調査! 武神牙竜のおうちで家捜し! 目指せエッチ本押収!(前ページではそこまで行かなかったじゃないか……)

 いささか酒が回ってきたのか、灯は酒の肴に牙竜の恋愛話を語って聞かせている。無論、ここにいない牙竜本人の許可など取っていない。
「この『灯ちゃんストーキングメモ帳』によると……最初にフラグを立てたのは意外にも男ですね。六歳の時に服を全部洗濯されてしまい、同じ施設の女の子の服しかサイズの合うのがなかったため、その姿を見た男子が即、告白してきたそうです」
「そうかー、武神くんも隅に置けないなー。そこで目覚めたりしなかったのは彼にとって良かったのか悪かったのか……」
 萌焼酎で少々酔った顔で、佑也ははははと笑っていた。
「でも、『ストーキングメモ帳』をつけている時点で灯もフラグを立てられているのでは……?」
 祥子は秘蔵の銘酒『波羅蜜多』を開けて、リースにしなだれかかりつつツッコミを入れている。
「あ……」
 灯は、はたと考え込んでしまった。メモ帳、書き換える必要があるかもしれない。

 乾杯と食事で一時中断していたセルマと氷雨の勝負だが、いよいよ決着が付こうとしていた。
「あっちむいてホイッ!」
 びしりとつきだした氷雨の指は天を指し、セルマもまた、首を真上に向かせていた。
「やったー!」
 白熱の勝負が終わった。カウント6対4、文句なく氷雨の勝利である。
「惜しかった……。さすが氷雨さん、完敗です」
 そんなセルマの前に、緑色の団子が載せられた皿が突き出された。
「じゃあ、罰ゲーム!」
「まさかこれがそうですか?」
「そのまさかだよー! はい、これ食べて! 名づけてデローン団子だよ!」
 緑色したその団子は、名称通り『デローン』とした質感を湛えており、なんともぬめぬめしていた。緑色というところに悪い予感がした。セルマにはつい先日、恋人に蛍光グリーンの味噌汁を飲まされ、神経毒で生死の狭間を彷徨った記憶があった。
「え? でろーん?」
「大丈夫、食べても死なないからー、これも勝負の世界なのです」
「た、食べても死なないけど高熱で寝込むことになったりしませんよね?」
「それはない、と思うー」
「『神経毒を食べさせるのが愛のしるし』、とか言わないですよね!?」
「友情のしるしではあるけど、神経毒ではない……はずだよ。さあさあ!」
「ちょ、っと待った待った……!!! うぐう!」
 逃げようとするも遅し、セルマは口いっぱいに『デローン』を押し込まれてしまった。
 実はこれ、ただのよもぎ団子だったのだが、結局その量で窒息しそうになったセルマであった。

 さて、セルマが氷雨に敗れたちょうどそのとき、その壁ひとつ隔てた向こうでは、類がちょっとした恐慌状態にあった。
「メガネメガネ……いや、メガネは割れていない。これはちょっと、涙で目が曇って見えないだけ……ということにしておいてくれ……」
 誰に言い訳しているのか自分でも判らないが、類は言い訳しいしい牙竜の家で迷子になっているのだった。眼鏡がなければ極度に視力が低下する彼なのだ。無謀にもグェンの手を借りず、一人でトイレまで行くことには奇跡的に成功したものの、そこからがさあ大変、どこにいるのやらわからない状態になってしまっていた。
「ちょ、っと待った待った……!!! うぐう!」
 どこかからセルマの悲鳴が聞こえてくる。
「あの声の方角か……?」
 悲鳴を頼りに類は進むも、残念ながらセルマが大量のデローン団子を食らって目を白黒させているのは壁の向こうなので、ますます正しい位置から遠のいていた。
「ここだろうか……!?」
 ガチャと扉を開け類が転がり込んだのは牙竜の私室だった。それにも類は気がつかない。
「誰もいない? まさかみんなで『かくれんぼ』でもやっているのではないだろうな。……フッ、面白い。かくれんぼについては鬼とまで呼ばれたこの俺が相手してやるのだ、全員、見つけ出してやるからそこを動くな」
 手探りで壁のスイッチを入れ部屋に電気を灯すと、類はごそごそと暗がりに潜り込んだ。
 それはベッドの下だった。独身男性のベッドの下には、高い確率であるものが隠されているという。
「本……いや、写真集か? こっちは雑誌……?」
「って類さん? こんなところにいたの!?」
 彼を探しに来たグェンが、類の行動に目を止めた。
「ここきっと牙竜さんの部屋だよ。そんなもの勝手に引っ張り出して……って、うわあ!
 蒼空のフロンティアは良い子のためのゲームなので具体的な描写はしないが、御年12歳のグェンドリスには厳しい感じのエッチな本がごそっと姿を見せたとだけ書いておこう。映像作品と思われるパッケージも少なくなかった。
 グェンの叫びを聞くや、妙に嬉しそうな顔をしてラグナが部屋に入ってきた。
「……あらあらお二人さん、牙竜様の部屋で家捜しですか? 楽しそうですこと♪」
 私も混ぜて下さいな、と言うや、ラグナは机の引き出しをガンガン開けていった。私室と言っても家主だけあって十二畳はある広い部屋だ。床の間まであるので隠し部屋には困らない。
「あれ、なんだか騒がしいけど……?」
 沙幸もやってきた。トイレに行く途上で彼らの声を聞きつけたのだ。
「えっ、家捜し? もう、みんな悪趣味だなぁ……」
 と言いながら、ついつい勘の良い沙幸は、部屋の違和感を察知してしまった。
「なんだかそこの畳、一枚だけちょっと浮いてない? その畳はずしてみようよ」
 視力が落ちているはずの類も含む皆で協力して畳を剥がすと、最初に見つけたものがどれだけソフトだったかを物語るような、うんとエッチな本がごっそり登場したのだった。あられもない姿の女の子が淫らな事をしている写真が中心である。普通の女子であれば、こんなことを要求されても逃げだしそうなハードなものも少なくなかった。こんなすごいこと、沙幸は想像すらしたことがなかった。
「な、な、な、何なのこのえっちな本っ! これだから、男の人ってサイテーなんだもんっ!」
 口では怒りつつ、なぜか沙幸はぺたんと座り込んで、愛らしい少女が大変なことをしている写真集をペラペラとめくり読みふけった。ところが、
「沙幸さん、そんな所で何を読んでますの?」
 背後から美海の声を聞き飛び上がった。沙幸の顔は茹で蛸のように真っ赤だ。
「トイレに行ったきり戻らないから、具合でも悪くなったのかと思いきや……田中さん秘蔵のエロ本を閲覧中ですか。まったく、彼はやはり危険人物ですわね」
「ち、違うのこれは……だって、牙竜がまたエッチな事考えてるからいけないんだもん」
 しどろもどろに沙幸は答えるものの、美海にはまったく通じていないようだ。
「ところで沙幸さん……、それならそうとおっしゃってくださればよかったですのに、沙幸さんもその本と同じことをされたいのですわね」
 言うなり美海は、沙幸の両手を奪って畳に押し倒したのである。同時に、息が詰まるほどのディープキスをしていた。熱い吐息を沙幸の首筋に浴びせながら、
「それでは早速姫初めと行きますわよ」
 美海は艶然と笑った。
「わ、私そんなこと望んでないもん。みんなだって見てるし、へ、変なところ触っちゃダメー!」
 弱々しく沙幸は抵抗するのだが、イソギンチャクの触手とクマノミの関係のごとく、あれよという間に密着するはめになる。美海の容赦ないキスと同じリズムで、一枚また一枚と、沙幸の身を包むものが引き剥がされていった。写真集の中の少女の恍惚とした表情を思い出し、もしや自分も同じような顔をしていないだろうか……と沙幸はますます顔を赤らめた。

「花魁の格好のほうが気に入っていたのだが……」
 ふらふらと千鳥足で雅は歩いていた。リリィに着替えさせられて、現在の彼女は月桂樹の花の柄の深緑の晴着を着ている。髪も下ろしてなかなかの美女ぶりであった。
「さてさて、牙竜のへそくりから酒をたっぷり買ったはいいが、彼へのお礼を忘れておったわ。世は全て等価交換がルール、うむ、義姉からお年玉を入れておいてやらんとな」
 と、雅が足を踏み入れたのは、なんだか大変な騒ぎになりつつある牙竜の部屋であった。かなり酔っている彼女は騒ぎに目もくれず、無造作にタンスを開けて、自身の下着類をそこにぐいぐいと詰め込んだ。女性もののブラジャーにブラ、キャミソールなどだ。全部自分が着用済みのものであった。義弟想いの義姉なのである(?)。
 ところが雅の行動は酔いのため手元が怪しく、タンスにものを詰めているのではなく、タンスからものを取り出しつつあるように見えた。ちょうどそこに、
「ちょ、なにやってんのみんな。やめてー! 男のデリケートな部分は覗かないでー! 全国のお母さんもここまで徹底的に探したりしないぞー!?」
 家捜しのケイオティックな雰囲気を察し、佑也が飛び込んで来たのは彼にとっても、牙竜にとっても運が悪かったといえよう。佑也は、目撃した。
「それ武神くんのタンスだよね……そこから女物の下着がごそっ、と……!」
 佑也は凍り付いた。類が顔を上げて言い添えた。
「男性の家になぜ女性用の下着が……?」
 類の一言が決定的となった。佑也は思い出したのだ。数十分前、灯が話していた牙竜の六歳時代の話を。
「そうか……やっぱり目覚めてたんだ、彼
 ぺたりと座り込む。佑也の頭の中では、牙竜との数々の思い出が走馬燈のように駆け巡っていた。まさか彼にその手の趣味があったとは。新年早々、知らない方が良かったことを知ってしまった気がした。
「……うん、でも友達だから。俺たち、友達だよね……」
 両手を床についてショックを押さえる佑也はさておき、その頭上ではラグナと、遅れてやって来たアルマが口論をはじめていた。
「ちょっとラグナさん、いきなり人ン家の畳ひっくり返すなんて、何考えてんの!?」
「あらあら、アルマちゃん何を言ってるのかしら? 自家発電用の本を机の上に綺麗に並べられるのは男の子の通過儀礼ですのよ?」
 実際、ラグナは見つけたエッチ本を、ジャンル、嗜好、ハードさ別に分類して丁寧に並べていた。彼女は悪びれもせず、やや甲高い声で付け加えた。
「胸に栄養取られ過ぎて、そんな一般常識すら理解できませんか?」
 かちん、いう音がアルマの頭の中で聞こえた。
「毎回毎回なんかのひとつ覚えみたいに胸、胸、胸って……! OK分かった、よほど風穴開けられたいようね」
 すらりと腰から銃を抜く。抜いた瞬間、安全装置など外してしまっていた。
 これに驚いたのはラグナではなく佑也だった。弾かれたように飛び上がって、
「アルマも喧嘩腰になるなっ! その銃をしまえ!」
 彼女の手の銃を両手で押さえたのだった。
「だいたい、胸が大きいか小さいかなんて問題じゃないだろ! 世のトレンドは美乳……ギャース!」
 奮闘虚しく、佑也は銃の台座で後頭部を殴られ卒倒した。しかも、倒れたところを薙刀の峰打ちでしたたかに打たれ、あっさり意識を失ってしまった。
「アンタは黙ってなさいこの色ボケ」
 アルマは銃を構え直し、
「私にとっては死活問題ですのよ? 佑也ちゃん♪」
 ラグナは薙刀の切っ先を、宿敵に向けた。