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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)
【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回) 【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)

リアクション

 西カナン北部に位置する『北の空中庭園』。思っていた以上に急勾配な山道を登り辿り着いた。
 かつては前領主が別荘地として建立したとあって、城壁は低く、城門を抜ければすぐに湾曲した樹壁と立体造形された樹像が出迎えてくれた。
 とは言え、木々も石畳も砂まみれ。樹像ですら今はその痕跡が辛うじて見える程度にすぎなかった。
 獅子の樹像の支骨に手をついて、アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)は軽口を吐いた。
「ほらほらぁ、そんな景色ばっかり撮ってないで、俺とちゃんの2ショットを撮ってくれよ」
「…………………」
 顔を赤らめながらもエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)はパートナーの軽行にはレンズを向けなかった。
「ね〜ね〜エルヴァ、撮ってくれよ〜」
「あの、困ります」
 上杉 菊(うえすぎ・きく)は肩に回された手を冷静に払い退けた。
「イナンナ様、ティアマトなる龍が実在したとして、それをどうされるおつもりですか?」
 一言でアルフを置き去りにして。イナンナに問いた。
「どう…………って別に」
「?」
 歯切れの悪さを指摘すると、彼女は「ティアマトに会いに行くんじゃないよ」と応えた。
「えっと…………それはどういう……」
 『龍の逝く穴』には、パラミタ大陸最強のドラゴンの一体と噂されるグレータードラゴン・ティアマトが住んでいると聞いていた。てっきりその力を拝借してネルガルに抗するものとばかり思っていたのだが……。
「ではなぜ、わたくしたちは『龍の逝く穴』を目指しているのです?」
「あぁそうか、言ってなかったよね。えぇと―――」と彼女は言いかけたが、
「あれ? でも結局はティアマトに関係してくる話、なのかな……?」
 ――いえ……そこで疑問符を打たれると霧中をさまようことに……
「『龍の逝く穴』の手掛かりがあるからここに来た。そうだよな?」
 再びにの肩に手を乗せてアルフが言ったが、これまた一瞬で払われてしまった。
「盗み聞くなら内容も把握して下さい」
「してるじゃないか、俺たちはその『手掛かり』を探している、だからこそほら、さっきからエルヴァがデジカメで記録しまくっているんじゃないか。だ・か・ら、ねぇ、一緒に写真とろうよ、菊ちゃん」
「写真を撮りたいなら、わたくしではなくイナンナ様とお撮りになられた方が貴重なのではありませんか?」
「えぇえっ!! 撮ってくれるの?!!」
 豊穣と戦の女神イナンナが瞳を輝かせて見上げていた。力を失った女神様は今は10歳の姿をしている、無論、本人の意思とは関係なしに。
「良いよ良いよ〜、でもね〜俺の本命はあくまで菊ちゃんだからね〜」
「本命?」
「お断りします。というよりその言い種はイナンナ様に失礼です」
「それはだって幾ら何でも確実に俺がロリコンって―――」
「もう止めて! そこまで」
「ええっ! ちょっとっエルヴァ、まだ―――あっ、エシクちゃん、俺と一緒に写真を〜」
 エールヴァントが真っ赤な顔を『デジカメ』で隠しながらにアルフを退場させた。最後にエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)にまで声をかける辺りはさすがだが、こちらは氷のような顔で完全に無視されていた。
 何とも不憫な……いや、平和なやりとりが繰り広げられたが、こんな緊張感の欠片もない会話が出来るのも、風祭 隼人(かざまつり・はやと)が周囲の警戒を徹底しているからであった。
「どうだ? ホウ統」
「ん〜〜」
 ホウ統 士元(ほうとう・しげん)が『使い魔:カラス』を空に放ちながら応えた。
「正面前方建物前に2体、建物右外壁部に4体、左外壁部に3体ほど居ますね」
 フクロウにネズミ、紙ドラゴンにカラスが2匹。これらの使い魔たちを駆使して周囲の状況確認と索敵を行っていた。城門からここまでを普通に歩いて進めたのは、そのおかげである。
「あ、ちなみにイナンナくんのすぐ後ろにも居ますのでお静かに」
「なっ!!―――うぐぅううう……」
 思わず叫んだ隼人の口を、イナンナが両手で押さえていた。
 そのままソォ〜っと樹壁の向こうを覗いて見れば、巨岩が寝そべっているように見えて、それでもその体皮が上下している。呼吸しているように見えた事で、ようやくそれが生物だと認識できた。
寝てる、のか?
そうみたい……今のうちに
 一行は一斉に口を塞ぎ、足音を立てぬように歩みを進めた。
「この先は、難しいですね」
 樹壁の端、一行の先頭でエシクが立ち止まった。建物入り口前には2つの巨体が見えた。ホウ統の調べた通りだった。
「当然です。信じてなかったんですか?」
「そうではありません。しかし、どうします?」
 体周1mを越す巨体の皮膚はまるで竜鱗、両口端に生える巨大な牙。間違いないパラミタロックワームだ。
 ともすれば先ほど樹壁の脇で寝そべっていた巨体もパラミタロックワームだった。しかし今度のワームは眠っていない。陽を浴びているのだろうか、寝返りをうつように体を揺らしている。
「うだうだ言ってたって始まらねぇ」
「典韋っ?!!」
 笑みながら典韋 オ來(てんい・おらい)が駆け出していた。
 一足でワームとの間合いを詰めると、迷いなく硬皮に『轟雷閃』を打ち込んだ。
「つっ!!」
 『方天戟』の刃が弾かれた。冗談じゃない、こっちは全力で打ち込んだ、それをあっさり拒むだと?
 そんな刹那の巡考が終わろうとしていたときだった。エシクの『龍骨の剣』が、もう一体のワームの体に勢いよく突き刺さった。
 横腹と言って良いものだろうか、エシクはワームの胴部に刺した剣を見せつけるように体を開いて見せて、
「こう」
 と言いながら更に深くに突き刺した。
 …………何かが、キレる音がした。
「舐めんなゴラァ!!」
 眼を剥いた典韋が跳び上がり、落下の勢いを乗せてワームの胴に降り刺した。
 今度はしっかりと刺さっていた。一度は大きく反らした体が力無く横たわってゆく。
 最後に仲間へ知らせようとしたのか、大きく口を開けた所を典韋の戟が払い斬って黙らせた。
 「静かにしやがれ」と言った彼女の言葉にはツッコミを入れるべきなのかも知れないが、彼女は2撃とも的確にワームの硬皮の継ぎ目を狙っていた。
「けっ! 初めから分かってたっつーんだよ」という負け惜しみが吐かれた所で、一行は建物内へと駆け入ったのだった。
 ――立派な城じゃねぇか。
 天霊院 豹華(てんりょういん・ひょうか)は『デジタルビデオカメラ』を構えながらに感心した。
 別荘地の趣きが強いと聞いていたが、造りは城そのものだった。
 確かに大胆にも壁の一面が途切れていたり、大きな窓穴が空いていたりと、開放的な空間を意識して造られたことが見てとれる。しかし広々とした廊下や各部屋の配置、そして見える扉の頑強さは兵士たちの行来と警備面を重視した造りそのものだった。
「ほぉ〜、無駄に天井が高ぇな〜」
 レンズ越しに見上げたもんで、すぐに首に痛みを覚えた。豹華がカメラを下ろすと、部屋から出てくる天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)の姿が写った。
「問題ない」
「りょうかい、と」
 言いながらローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は部屋の扉に石で×印を―――
「おや? 書けない……」
 確認済みの証を刻もうとしたのだが、拾った石では鉄板の張られた扉に書くことは叶わなかった。彫り刻むことは出来るが、のちに拠点として再利用するかもしれない事を考えると、破壊に似た行為は避けるべきだろう。
 結局ローザマリアは部屋の壁に×印を描き、それを華嵐がマップに記した。
「このっ! このおっ、このっ!!」
 通路の先ではパートナーのオルキス・アダマース(おるきす・あだまーす)がワームと格闘する声が聞こえてきた。声から察するに『バニッシュ』やら『火術』やら『氷術』やらをぶつけているのだろう。
「オルキスが食い止めるから、安心していいぜっ」なんて気取っておきながらトテトテと走る背を披露したオルキスのためにも、
「急ごう」
「あぁ」
 通路に設する部屋を素早く順に潰していったのだが、そんな中、最後の部屋の扉を開けた時だった。
 中からいきなりロックワームが跳びかかってきた。
「おっと」
 ローザマリア華嵐は身を寄せてこれを避けた。部屋から跳び出たワームの首部に『クロスファイア』を撃ち込んだのは隼人だった。
 このワームは奇声をあげて倒れたが、見れば室内にはあと2体ほど、ワームの姿が見えた。外で遭った個体よりはずっと小さい、それでも……。
「ここは俺に任せて先に行ってくれ……直ぐに追いつく。」
「えっ、でも……」
「早くいけ!」
 イナンナの体を背側に突き飛ばし、『グリントライフル』を構えた。城内の様子を知っているのはイナンナただ一人、ならば先に行かせるべきが誰かは論じる必要すらない。
「いぃえ、私たちは残ります」
「マップを作成する必要があるからな」
 ローザマリア華嵐は残ることになったが、他の生徒たちは再びに{boldイナンナ}を護りながらに城内奥へ進んでいった。
 突き当たりの通路を右に、その先に見える階段は……違う。その先に見える2つの扉は右、部屋に入って長卓沿いに左方へ抜けたと思ったらまた右。
「まるで迷路ですね」
「あぁ。でも」
 水神 誠(みなかみ・まこと)が前方を示す。水神 樹(みなかみ・いつき)の視界にもそれが見えた。
「開けるよ」
 通路の先に、空が見えた。