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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第28章 罪人の進む道

「(少し出かけてくる)」
 声が出せない紫煙 葛葉(しえん・くずは)は、筆談で天 黒龍(てぃえん・へいろん)に伝え、1人でモーントナハト・タウンへ行ってしまった。
「戻って来ないな・・・。何かあったのか・・・?」
 夜になっても帰って来ない彼を探しに行ってやることにした。
「珍しいこともあるものだな」
 普段は自分の言うことに従っていただけの彼が、自らの意思で町へ出かけた。
「まったく・・・どこへ行ったんだ?この私に探させるとは・・・っ。見つけたら、ただでは済まさないぞ」
 そのせいか服を目印にしようとしても、なかなか見つけることが出来ない。
 必死に黒龍が彼を探している一方、その本人はアインエーヴィゲス・ゼーゲン教会の中にいる。
 観光客で賑わっていた昼間と違い、ぽつぽつと何組かのカップルがやってくる程度だ。
 夜中の教会は声を出せたら響きそうなほど静まり返っている。
 彼にとってはそれがちょうどいい空間だ。
 ゆっくりと女神像に歩み寄り、じっと見つめる。
 1体は懺悔に来る者へ降り注がせるように水瓶を抱え、零れ落ちそうなホワイトカラーの水が石細工で表現されている。
 もう1体も水瓶を抱えているが汲みあげるように持ち上げられ、水はブラックカラーの石で造られているようだ。
「(懺悔に来たんじゃない。懺悔して贖えるものならいくらでもする)」
 黙ったまま女神像を見上げ、汲み上げきれないほどの罪を犯してしまった自分は、懺悔することすら許されないと心の中で言う。
「(・・・地球で黒龍の「先生」を殺したのは俺だ。その事を彼は知らないまま俺を信頼している)」
 その者を殺してしまったのは自分であり、それは黒龍を護るためだったが、今更言っても彼からその存在を奪った者の言い訳にしか聞こえないだろう。
「(いつかこのことを伝える日が来るのかも知れないが・・・。それでも「全てお前の為だった」というのは虫がよすぎる話だな)」
 彼の傍にいて従っていることも、そのためだった。
「(この罪を許すのは・・・少なくとも神じゃない。許されるかすらもわからないが、・・・俺にできるのはただ、黒龍の望みに応えるだけ。「先生」の形をした人形として彼にできる全てだ)」
 理由はどうあれ存在を消してしまったことには変わりない。
 生きている者の命を許可なく終わらせてしまった。
 その者は一生、業を背負って生き続けることになる。
 彼が望むことならば何でもしてやるつもりだが、少しでも許されたという気持ちで満たされることはない。
 このままずっと許されることなく、罪の意識から解放されることはないのだろうか。
「(殺したこといつ伝える?俺が黒龍のためにしたこととはいえ、黒龍本人はそれを望んだか?いや、望まず希望を捨てずに、殺すことのない方法を必死に考えただろうな)」
 葛葉がやったことは彼に悲しみを与えただけだのではないだろうか。
「(俺は1度でもそれを考えたか・・・?考えたはずだ・・・。考えて、考え抜いて、それも見つからず、この手段を選んでしまった。しかし今思えば、別の選択肢もあったんじゃないか?俺に・・・考えが足りなかったんだろうか。もし過去に戻ることが出来たなら、他の方法を探してみたいものだ・・・)」
 あの時どうしていたらよかったのか、永遠と自問自答を繰り返す。
 相手に何かをしてやってそれで許されようとするのは、ただの自己満足そのものだ。
「あれは・・・まったく、こんなところにいたのか」
 散々探し歩かされた黒龍が、教会の窓を覗き込み葛葉の姿を見つける。
「主に探させるとはどういうつもりだ、葛葉・・・!」
 葛葉の動向が分からず、あちこち探し歩いたせいでくたくたに疲れてしまい、彼に向かって怒鳴る。
「(すまない黒龍。今、帰るところだ)」
 メモ用紙に言葉を書き、彼に見せて伝える。
 黒龍にどう伝えようか考え、言う決心が出来たらいつか伝えよう。
 それで拒絶されようが、その結果を全て受け止めるよう。
 許されるために道を探し歩くだけではいけないのだ。
 殺した罪など一生消えることはないのだから、たとえ永遠に許されることがなくても、彼と共にあろう・・・。