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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第26章 この乙女は俺だけの乙女

「とても華やかな町だけど、どことなく落ち着いた感じがしますね」
 賑やかな落ち着いた雰囲気の場所を好む東雲 いちる(しののめ・いちる)は、愛する人と一緒にゴシックテイストの町並みを眺める。
「(私の思いばかり伝えて、もしもギルさんに鬱陶しく思われたりしてしまったら・・・)」
 重たく思われないだろうかと思い、不安そうな顔をする。
「(これをくれたということは、私のことを思ってくれているってことでしょうか)」
 今は少しだけそう思ってくれているのだと自惚れてもいいのだろうかと、ギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)から受け取ったネックレスに触れる。
「少し寒いな。俺が開けてやるから先に入ってくれ」
 ギルベルトは彼女を先に入れてあげようと、グリプスヒルフェ大聖堂の扉を開く。
「ここがグリプスヒルフェ大聖堂の中?素敵・・・」
 お姫様の被るような眩い純金のシャンデリアの形をした蝋燭台に灯る蝋燭の灯りで、ステンドグラスが淡く輝いてる。
 正面の祭壇の上にあるステンドグラスは見る角度で色が変わり、それはまるで万華鏡のようだ。
「あぁ、キレイだな・・・」
 彼女の傍らでギルベルトも見上げて呟く。
 ステンドグラスが灯りの反射でくるくると表情を変えていく。
「(こんなにもお前を愛しているというのに。いちるはまだ気づいてくれていないのだろうな)」
 乙女の心のようにも見え、喜んでいたかと思うと突然沈んだ顔をするいちるの姿と重ねる。
「ギルさん、私になりに頑張って作ってみたんですけど。これ・・・よかったらどうぞ」
「いちるが作ってくれたのか。家に帰ったらいただくとしよう」
 彼女から受け取ったチョコを大事そうにカバンにしまいこむ。
「(素直になれなったあの時期がおしいな。あんなにも傍にいたというのに)」
 これは本命のチョコなのだろうか、それとも義理なのかとギルベルトが考えてしまう。
「(この前、ネックレスをあげたら喜んでくれたな。今度も受け取ってくれるといいんだが)」
 彼女の心が他の誰かに向かないように、ポケットから小さな箱を取り出す。
 もしも断られてしまったらと考えたこともあったが、彼にとって迷っている暇はない。
「―・・・いちる、受け取ってくれないか?これが俺の素直な気持ちだ」
「ギルさん!?」
 箱の中にある指輪を見たいちるは、夢でも見ているんじゃないかと思えるほど驚き、緑色の双眸を涙で潤ませる。
「嬉しいです・・・とても」
「俺でいいというわけだな?」
 いちるのその言葉が答えなのだと思い、彼女の手に指輪をはめる。
 彼の声にいちるは小さく頷く。
 愛する女に男が指輪を送ること、それは彼女には自分という存在がいるのだと、他の者たちを寄せ付けず知らしめるためのものだ。
「お前を愛しているよ」
 約束と束縛の意味を込めた指輪にそっと口づけ、そして彼女の肩を抱き寄せて甘い唇に口づける。
「(私・・・ギルさんの傍にいていいんですね)」
 告白を受けて彼が好きだという気持ちがさらに重くなり、前よりもずっと好きになってしまった。
 彼が近くにいていいと言ってくれるなら、それまでずっと共にいたいと心の中で願った。