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種もみ剣士最強伝説!

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種もみ剣士最強伝説!
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奪われ続ける種もみじいさんの運命


 トーナメント戦と女の子の体のヒミツ御開帳という二つのイベントにつられて、血の気の多い種もみじいさんとエッチな種もみじいさんが種もみの塔に出没しているとか。
「(悪モヒカン)大漁の予感……!」
 期待のあまり途中から思わず声に出してしまった酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、周りにキマク商店街の店長達がいることを思い出し、ハッとして口を閉ざす。
「種もみじいさんの保護に向かいましょう!」
 ことさら強い口調で言い直した陽一に、彼女の話に乗った店長達が雄叫びを上げる。
 無法を働くモヒカン退治と種もみじいさん保護を訴えた陽一に、協力しても良いと答えたのは約半数。
 これまで商店街のために知恵を絞ってくれたからと恩を感じている者や、単にたまには商売から離れて暴れたい者達だ。
 一方、商店街から動かないのは、直接襲われたわけでもないのに面倒くせぇという意見が大半だった。
 そういう人達には無理強いせず、陽一は行く気まある者達だけで種もみの塔へ向かうことにした。
 陽一はトレジャーセンスでお宝──この場合は種もみ──の在り処をうかがい、におうと思ったほうへ進むと、やがてモヒカン集団に追いかけられる種もみじいさんの姿が見えた。
「まずはあいつらだ!」
 陽一も先頭に並んで駆け、アシッドミストを放つ。
 突然の酸の霧にモヒカン達は「ギャッ」と叫んで喉元を押さえた。
 そこに、陽一が持ってきた不思議な効果のあるアイテムで戦う力の増した店長達が雪崩れ込んでいく。
「何だぁ? このオヤジ共は!」
「人を襲ってばっかいるなよ、悪ガキ共め!」
「ンだとォ、てめぇだって現役みたいなツラしてんだろうが!」
「来いっ、国軍に引き渡してその性根を叩き直してもらうぜ!」
「だったらてめぇも来いや!」
 互いに罵り合いながら手や足や武器で相手を叩きのめしていく。
 陽一の準備の効果があったか、しばらく現役を退いていた店長側の力がモヒカンを上回り、彼らは縄で一まとめにされた。
 顔をボコボコにして座り込むモヒカン達へ、種もみじいさんが偉そうにふんぞり返って言う。
「己の弱さを思い知ったか。しっかり反省するなら許してやらなくもないぞ」
「隠れてたくせに!」
 モヒカンの抗議も種もみじいさんはどこ吹く風だ。
 陽一は種もみじいさんに並ぶと、店長の一人が運転してきたトラックを指差した。
「あなた達はあれの荷台に乗って教導団行きだ」
「早く乗れ」
 モヒカンよりは顔の原型を留めている店長が、モヒカン達を小突きながらトラックの荷台に乗せていった。
 それらを見送った陽一は、種もみじいさん達に向き直り尋ねる。
「帰る家はあるのか?」
 種もみじいさん達は刻まれたしわをさらに深くして幸せそうに答えた。
「ちゃんとある。ワシらには、まだ帰れる場所があるんじゃ。こんなに嬉しいことはない」
「それは良かった。じゃあ家まで送るよ。また襲われたらたまらないだろう?」
「それはありがたい。若いのに感心じゃのぅ」
「他にも襲われてるじいさんがいるかもしれないから、少し遠回りになるかもしれないけど」
「かまわんよ。時間はたっぷりある」
 奪われ続けても恨むことをしない種もみじいさんの心は、どこまでも寛大だった。
 その途中、種もみの塔のすぐ近くまで行った陽一は、ふと思い出して塔に立ち寄った。
 設備の大半を壊されたイコン生産工場の様子を見るためだ。
 工場を訪れると、その場にいた従業員に以前相談したイコン用の農具の生産について、作れそうかどうか聞いたところ、
「ああ、あれか。だいぶ復旧したからな。大量生産は難しいがそれなりに作れるぜ」
 という嬉しい返事をもらえた。
 また後で、と告げて陽一は種もみじいさんを一人でも多く助けるために塔を後にした。


アドベンチャラーvs(自称)モヒカン戦士


 トーナメント観戦に来ていた種もみじいさんグループの一人が、携帯に向かってやや大声を張り上げていた。
「なんと、助けられたと! そりゃあ良かったのぅ。達者でな。荒野のどこかでまた会おう!」
 陽一に助けられた種もみじいさんからの電話のようだ。
 通話を切った直後、次の対戦者の紹介がされた。
「次はアドベンチャラーのイロハ・トリフォリウムさんと……うん? こんなクラスあったかなぁ……自称かな? まあいいか、モヒカン戦士のゲブー・オブインさんです!」
 後ろに結われた白い髪が特徴的なイロハ・トリフォリウム(いろは・とりふぉりうむ)は、ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)を真剣な表情で見据える。
 一方のゲブーは色気の漂うイロハの顔を……ではなく、視線はじょじょに下がって胸に注がれていた。
 その好色な視線に気づいたイロハのこめかみがピクリと震え、ゲブーが装備している朝露の顆気に目をとめると咎めるように言った。
「モヒカン戦士とは初めて耳にするクラスですが、その装備はグラップラー専用ではありませんでしたか?」
 これか、と朝露の顆気を示すゲブーにイロハは頷く。
 すると彼は豪快にその疑問を笑い飛ばした。
 ゲブーはビシッとイロハに指を突きつけ、高らかに説明する。
「モヒカン戦士スキルの一つ、【こまかい事は気にするな】! グラップラー専用がどうした! モヒカン戦士は何でもOKなんだよ!」
 イロハは唖然とした。卑弥呼は謎が解けたような顔をしている。
「それじゃいくぜ! 【デラックスモヒカン】! これで俺様のモヒカンは、どんな強風にも折れねぇ! 羨ましいか、がははははは!」
 自慢気に笑ったゲブーは、両手を奇妙な形に構えてイロハに突進した。
 見たこともない構えにイロハは強く警戒し、寸前で大きく腕を広げたゲブーをかわしてさらに数歩の距離をとる。
 空振りしたゲブーの足が勢い余ってたたらを踏んだ。
「俺様の狙いがわかったのか?」
「狙い……?」
 ニヤリとするゲブーに、イロハは先ほどの動きから自身を拘束するつもりなのかと考えた。
「俺様の狙いは……!」
 突然、ゲブーの身が軽くなったようにイロハに急接近する。
 その時、観客席から誰かが叫んだ。
「ネーちゃん、おっぱい狙われてるぜ!」
 イロハの目が大きく見開かれる。その頃にはゲブーは眼前に迫っていた。
「もませてもらうぜ!」
 彼の奇妙な構えの手は、おっぱいを揉む時の構えだったのだ。
 冗談じゃない、とイロハはとっさに身を低くして横に飛んだ。
 が、ゲブーもそれについてくる。
 引き離そうと、別の角度へ一回転した時。
「あっ」
 立ち上がろうとしたイロハはバランスを崩してしまった。
 そこはリングの端だった。
 気づけなかった自分に腹を立てたが、煩悩に支配されたゲブーはまだ気づいていない。
 もう落ちるしかないが、せめてもの反撃をとイロハは崩れた態勢のままポイズンアローを放った。
「そこまで!」
 先にイロハがリングの外に落ちたことで菊がゲブーの勝利を告げる。
 が、そのゲブーの額には矢が突き立ち、顔色は緑だ。
「おい、おまえ大丈夫か? 次の試合は棄権するか?」
「ハハ……俺様のモヒカンは、折れナいゼ……」
「ならいいけど。救護班に診てもらいなよ」
 よろよろとゲブーはリングを下りた。


サムライvsコンジュラー


 見るからに危険な空気を纏う白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)に対するのは、食えない雰囲気の八神 誠一(やがみ・せいいち)とどこか影のある緋王 輝夜(ひおう・かぐや)
 菊の試合開始の掛け声の後、素早く動き始めたのは誠一と輝夜で、竜造は刀を構えたまま二人の様子を見るようにじっとしていた。
 竜造がその気なら誘い込むまでだ、と挑発するように発砲する輝夜。
 弾丸は竜造の頬を掠めていったが、まだ彼は動かない。輝夜の位置だけを確認している。
 それを見て取った誠一は、本来なら遠距離攻撃者対策にとっておいた手段を用いることにした。
 竜造が誠一の姿を捉えた瞬間、煙幕ファンデーションで視界をふさぐ。
 そして、ポケットからテロルチョコおもちを取り出すと、自分がいるところとはまったく別の──もちろん輝夜のいないところへと投げた。
 心の中で数を数えながら機を待つ。
 煙幕が風に流され、お互いの影がうっすら見える頃に誠一は身を低くして息を潜めた。
 直後、テロルチョコおもちが爆発する。
 誠一が迷わず地を蹴り竜造に肉薄した時、彼は爆発の起きたほうへ目を向けていた。
 ここだ、と虎徹を突き込み、思った通り手応えはあったが、思った以上に硬かった。
(龍鱗化──?)
 経験から誠一はそう判断すると、殺気に気づいて素早く竜造から離れた。
 直後、彼の刀の切っ先が額すれすれを掠めて行く。
 そして、様子見はやめたのか、一歩踏み込んだ竜造と目が合った時、誠一の周囲が変わった。
 幻覚だとすぐにわかったが、苦手なものを見せ付けられて平静でいるのは難しく。
 惑わされそうになる心を必死に押さえつけながら、誠一はもっとも危険な気配から遠ざかることだけを考えた。
 その気配に乱れが生じたのはわりとすぐで。
 その身を蝕む妄執に侵されながらも勘の良い誠一を追い詰めていた竜造だったが、煙幕の中、見失っていた輝夜のフラワシの能力により、一瞬にして体中を切り裂かれた。
 普通の者なら怯みそうなところを、竜造はおもしろいことが起こったかのように笑う。
「焦るなよ、てめえの相手は後でしてやる」
 輝夜の姿ははっきりしていないため、幻覚を見せることはできない。
 そのことにわずかに危険を感じたが無視した。
「で、てめえはフラワシを使わねぇのか?」
「使おうが使うまいが僕の自由でしょ」
「違ぇねえ!」
 竜造の殺気が膨れ上がるのと誠一の幻覚が解けていくのは、ほぼ同時だった。
 金剛力で強化した疾風突きが、誠一をリング外まで飛ばした。
 ただし、竜造の体は輝夜の銃弾に撃ち抜かれていた。
 リジェネーションをかけているとはいえ、瞬く間に回復するわけではなく、竜造は刀を杖に膝を着くことだけは避けた。
 しかしそれも束の間で、竜造は輝夜の追撃が来るまえに仕掛けた。
 空気さえも切りそうな斬撃に輝夜も対応しきれず真っ二つに──なったのは幻影。
 弾丸が足元を抉る。
「幻か……それなら全部潰せばいい!」
「その頃には、そっちが潰れてるよ」
 返した輝夜に蹴りを入れれば、それも幻影。
 幻の数はそう多くないが、一つずつ減って行く。
 その間に、竜造の傷は増えて行き、少しずつ回復していく。
 とうとう本物の輝夜だけになった。
 竜造はニヤリとすると一気に距離を詰めて疾風突きを打ち込み、輝夜は待っていたようにフラワシをけしかけた。
 どちらのものとも取れない血飛沫が舞う。
 菊は、相打ちかと見極めようとじっと見守る。
 相打ちの場合、再試合は行わず両者はそこまでとなる。
 やがて、顔を歪めて膝を着いたのは輝夜だった。
 あーあ、と無念さを表すため息は竜造にだけ届いた。


ミンストレルvsウィザード


 リング脇に掲げられたトーナメント表から目をそらした時、彼女の名が呼ばれた。
「ミンストレルの吉永 竜司さんとウィザードの緋桜 ケイさんです! これはどういう戦いになるか、ちょっと想像つきませんねー」
 ミンストレルのイメージとはずいぶんかけ離れた強面の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)と、その実力は認められている緋桜 ケイ(ひおう・けい)が対峙した。
 菊の試合開始の合図の後、竜司は不敵に笑ってマイクを掲げる。ミンストレルらしく、詩を吟じて勝負しようというらしい。
 しかし、魔法相手に詩でどうしようというのか。
「オレの美声に観客は酔いしれる……」
 呟かれた竜司の声に、ケイは不審そうに眉を寄せた。
 そして、竜司による幸せの歌がマイクによって流れた。

♪オレは竜司 生まれた時からイケメンでー 歌も上手いし超最強♪

 ケイと観客をカオスが襲った。
 幸せの歌の効果は確かにあった。続く歌詞はひたすら竜司を讃えるものなのに、何故か心があたたかくなっていく。
 それなのに、竜司の声はいつもの銅鑼声ではなく機械じみた甲高い声で、まるで超音波というか毒音波というか、ミンストレルになっても歌はヘタだった。
「ヘリウムガスか……!? だったら、舌が動かないようにしてやるぜ」
 ケイはブリザードの呪文の詠唱にかかった。

♪人にどう言われようと いつでも紳士なオレは女の子にやさしいのさ♪ だから……

 幸せの歌は一変して恐れの歌に変わった。

♪幻覚なんて言わないで じかに聞かせてやるぜ この美声を♪

 じりじりと近づいてくる竜司に、ケイは呪文の詠唱も忘れて顔を真っ青にさせる。
 精神的にも視界的にもかなりの恐怖に冷や汗がにじんだ。
 にじり寄る竜司と、後ずさるケイ。
 不意に、ケイの踵がガクッと落ちる。
 リング際だ。
「この……っ、まだ俺は、何もやってない!」
 かろうじて手を添えていただけの刀の柄を、グッと握り締める。
 竜司とケイの距離がおよそ拳一つ分ほどにまで迫った時、両者の間に光が走った。
 一呼吸の後、ほぼ同時に二人の膝が崩れる。
 二人を覗き込んだ菊が、ケイの側の腕を上げた。
 竜司は気を失っていた。
 火事場のクソ力と言うべきか、恐怖の渦の中でケイは刀を抜き無我夢中で則天去私を放った。
 ウィザードが直接攻撃でくるとは予想外だったのか、竜司はまともに食らってしまったのだった。
 勝ちはしたもののまだ体を駆け巡る寒気に肩を抱きしめ、ケイは恐ろしい歌い手を虚ろな瞳で見つめた。