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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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 第6章 新たな命の誕生。展望。彼等への願い

     〜2〜

 ホレグスリが齎した乱痴気騒ぎ。しかし、それは広い公園を俯瞰してみればほんの一部で起きた出来事であり、平和に、本来あるべき花見を楽しむ人々も大勢いる。
「桜が美しいな。ルナ、大丈夫か? 負担をかけぬようゆったり歩け」
「あぁ、大丈夫だ」
 ということでセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)は、来月に臨月を迎える妻、ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)を気遣いつつ桜の下を歩いていた。エリュト・ハルニッシュ(えりゅと・はるにっしゅ)も一緒で、前方を行く彼の足取りは軽かった。
「おー、桜だ桜だー!」
 とはしゃぎ、楽しそうだ。
 ルナティエールの養家があるマホロバが大変なことになってると聞いて葦原明倫館へ転校してしばらく。彼女の体調を慮り、流石に1度帰ろう、と実家のあるツァンダへ戻ってきた。家のことは弟に一任していたが、上手くやってくれているようだ。
「ユグドラド家の庭園にも桜は咲いてるけど、やっぱりこっちのが花見らしいな」
 目の届く範囲いっぱいに広がる桜。それを見上げ、ルナティエールはのんびりと言う。
「ルナ、セディ、早く来いよ!」
 そんな2人に、エリュトは公園を駆け回りながら呼びかける。足を止めずに後方に向かって声を投げているわけで、つまり、前が見えていないわけで。
「こらエリュト、走ると転ぶぞ……いわんこっちゃねぇ」
 彼女の言葉が終わるか終わらないか、という所でエリュトは躓き、コケた。
「……ってー」
 やれやれと歩み寄り、ルナティエールはよいしょ、と腰をかがめる。
「さすがに腹が重いな。ほら、手を貸して……」
「あぁ、ルナさんきゅ」
 伸ばされた手を掴んでエリュトを引き起こそうと力を入れる。だがそこで、彼女は眉を顰めて動きを止め、エリュトも、笑顔を戸惑いへと変えた。
「って、え……?」
「助け起こすなら私が……ルナ!?」
 そして、後から追いつき代わろうとしたセディも、その様子に驚きと緊張の混じった声を上げた。ルナティエールは腹部に手を当て、怪訝そうにしている。
「この、痛み……まさか陣痛? そんな、予定は来月……いたたたた!」
「……くっ、こんな場所で……!」
 状況を素早く把握したセディは、うずくまる彼女を抱きかかえて公園の外へと急いだ。エリュトも、顔を真っ青にしてついてくる。待機させていた馬車に戻ると、セディはシャンバラ人の小姓と御者に命じた。
「出せ、すぐに屋敷へ戻る! 家のものには急ぎ出産準備を整えるように伝えろ!」

              ◇◇◇◇◇◇

 その頃、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は皆から離れ、公園内をゆっくりと歩いて静かに桜を堪能していた。エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)もこっそりと散歩に出たりしているようで、彼が席を立つ前に帰ってきて、何気なく集団に混じっていた。
 皆でわいわいも楽しみたいが、やはり、じっくりと花の美しさも味わいたい。
 彼の前を、散りたての花びらが風にひらひらと流され、舞っていく。
「ふむ……何とも美しいね」
 そんな光景に目を細め、うららかな陽気の中を1人歩く。そろそろ20分くらい経つし、戻ろうかと元居た場所へと足を向ける。相変わらず、皆は飲んで食べて楽しそうだ。彼女達の上を、空を飛ぶ姿もあって――

「わあ! 近くで見ても綺麗だねーーーーっ」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に抱えられ、ピノが枝先の桜を目前にして明るい声を上げる。
 風に吹かれて花は散れども、まだまだ沢山桜は咲いている。天気予報は桜の見ごろもついでに予報したのか、実際に寂しくなってくるのは来週のようだ。
「あっち! あっちの方も見てみたいなーー」
「お、向こうだな? よしよし」
 ピノを抱き、カルキノスは宙を移動していく。それを、ラスは気が気じゃない、というようにはらはらと地上から見上げていた。
「あいつ、酒呑んでたよな……? 落としたりしないよな?」
 今日のピノはミニスカートではなくショートパンツなのでぱんちらとかの心配はしないでいい訳だが。
「大丈夫だよ。ほら、がっしりと抱いてるし。ピノちゃんだって腕をしっかりかけてるし、安心してていいと思うよ」
 先程まで散歩に出ていたエースが同様に2人を見上げてのんびりと言う。
「そうか……?」
 それでも、ラスはまだ心配そうだ。……底抜けの心配性である。

 そしてまた、日比谷 皐月(ひびや・さつき)雨宮 七日(あめみや・なのか)と公園の中を歩いていた。食べられない事はないが、七日の料理はとある意味で危険――ということで、酒とつまみは持参である。まあ、七日は何も作って来ていないみたいだし、その辺は安心していて良いようだが。
(花見……ねぇ。花より団子って言うのかね、これも)
 右手にコンビニ袋を提げ、緊張感のない様子でぶらぶらと歩く。自分としては特に興味も無かったが、今年は花見に行く機会がなかったから、と七日に誘われての付き合いである。
(最近身体動かしてないから寧ろ鈍ってるくらいなんだけど……)
 ――七日には随分迷惑かけたし、まぁ、良いか。
 それにしても、隣を歩く彼女は妙に機嫌が良さそうに見える。そんなに花見に来たかったのだろうか。今日を逃したら花が散りそうだということだし、確かに最後の機会ではあるのだろうが。
 そこで、落ち着ける場所を探していた七日がある1点で目を止めた。桜の上を飛ぶ人影が見える。その下では結構な人数で集まって花見をしている集団が在って、会話をする少女達は――
(……あ)
 皐月は思わず目を逸らす。座っている角度的に気付かれないとは思うけれど。
「どうやらファーシーさんたちが来ているようですね……どうせですし、会いに行ってみますか」
「……え、行くのか?」
 自然に提案してきた七日につい、そう返す。直後に突き刺さってくるのは、呆れの混じった冷ややかな視線。
「……何をビクビクしているのか知りませんが。悔いも迷いも無いのであれば、堂々と胸を張っていなさい」
 七日はそう言って、平然とファーシー達の方に足を向ける。
「堂々と、ねえ……」

「皆さん、沢山準備しましたのでご自由にお取り下さいね」
 ビールに焼酎、カクテル、ジュースにお茶。種類に富んだ各種飲み物を持ち込んだ緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が、次々とそれを並べていく。その中の一部には、色々と改変して作られたホレグスリが入っているのだがそれは秘密だ。
(ちょうど、大学で作成したホレグスリの実験がやりたかったんですよね……。花見ならお祭り騒ぎで誤魔化せますよね)
 新しい材料は使っていない。所持しているホレグスリのレシピに書いてある各成分量を、オリジナルから倍にしたり半分にしたりと調整した物だ。どれにどの配合のクスリを入れたかは記憶しているので、誰かがそれを飲めば結果も分かり、今後に生かせるだろう。
(完成版のレシピしか貰ってなかったですから……色々と分析しないとアレンジもできませんしね)
 そう思っていたら、隣の紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が重ねられた新しい紙コップを2つ手に取った。笑顔で彼に聞いてくる。
「遙遠も何か飲みますよね」
「あ、そうですね、じゃあ……」
 遙遠は、今さっき自らが出した飲み物をざっと眺めた。それから、ある事に気付いて遥遠を見返す。
「約束は覚えていますよね?」
 すると、彼女は何のことです? というような顔をしてからああ、とまた微笑んだ。
「……ええ、覚えてますよ。ちゃんと」
 レシピを手に入れた日に遥遠にクスリを飲ませ、それでお互いに1回ずつ飲ませあった事になる。それで2人は互いに、ホレグスリをこっそり仕込むことを禁止にしたのだ。
「……まぁたまにはいいかなぁとかも思ってしまいますけど……」
 そう言って、遥遠はおまけ、という感じに付け加える。
「今日はしませんよ、後が怖いですからね」
「ん? ヨウくん達、何を話してるんや?」
 2人の会話内容とその、何か秘密の匂いがする雰囲気に七枷 陣(ななかせ・じん)が不思議そうに尋ねてくる。それに、彼女は軽くウインクして意味深に答えた。
「ふふ、遥遠達だけの内緒話です。陣さんも何か飲みますか?」
「そうやな、お茶でも貰おっかな?」
「お茶ですね、分かりました」
 居並ぶ飲み物の中から、遥遠はノーマルのお茶を選ぶ。遙遠と一緒にお花見、という口実の元で同伴した彼女も、クスリ入りに中った者達にどの程度の効果が現れるのか見てみないと、と安全なものとそうでないものは把握している。
 仕掛けをしているとはいえ、この場に来たら観察以外に特にやることも無い。お花見はお花見として、普通に過ごすつもりだ。
「はい、どうぞ。遙遠も」
「おっ、サンキュー!」
「ありがとうございます」
 3人は簡単に乾杯して、それから他愛の無い雑談に花を咲かせた。
 まあ、こういうのは楽しまないと、である。

「お久しぶりです、ファーシーさん」
 そんな中、七日は皐月を連れてファーシーに声を掛けた。アクアに対しては、直接の面識も無いし目礼だけに留めておく。話に聞いた特徴から、アクアが誰かというのは直ぐに分かった。
「? ……あ、七日さん。皐月さんも! ……あれ?」
 振り返ったファーシーは、七日の姿を認めると屈託の無い笑顔を浮かべた。だが、皐月の中身の無い左袖に気付いたようで僅かに驚きの感情を見せる。皐月はとりあえず、コンビニの袋を軽く鳴らして挨拶した。
「……よ。」
「う、うん……」
 彼女が戸惑い、次の言葉を言いあぐねている間に七日は空いている場所を目で示す。
「ここ、良いですか?」
「あ、う、うん……。わっ、散らかってる! ちょっと待って……」
 慌ててコップや皿をどけて、ファーシーは両手を同時出しして2人を迎えた。
「ど、どうぞ……」
 何と分かりやすい。動揺している。めちゃくちゃ動揺している。
 それぞれに落ち着き、皐月は酒を取り出した。それを見て、空の旅からごく普通に何事もなく戻ってきたピノが「?」という顔をした。面識が無いわけではないがファーシーよりは動揺が少なく、割と平常心である。
「あれ、おにいちゃんって大人だっけ? 高校生くらいに見えるけど……」
「う゛っ……」
 痛いところを突かれた、というように皐月が動きを止める。それを横目で見てから、七日が冷静に真実を告げる。
「皐月はまだ17ですよ。まあ、未成年です」
「だよね。未成年はお酒飲んじゃいけないんだよ! フィリッパちゃんが言ってたもん!」
 確かに『もちろん未成年はお酒は厳禁ですよ』と言っていた。というかまず、購入時にコンビニのレジスターが綺麗な女性の声で『年齢確認の必要な商品です』とか言ってくる筈なのだが店員はそれをスルーしたらしい。
「仕方ありませんね。このお酒は持って帰って、今日はここにある飲み物を頂きましょうか」
 何だか帰宅後に酒盛りをしそうな発言をして、七日が中央に並べられた飲み物の中から適当にジュースを選ぶ。実はそれは、成分変更されたホレグスリだったりするのだが判る訳もなく。
「どうぞ」
「あ、ああ……」
 ホレグスリジュースを受け取ってコップを一旦下に置くと、皐月はつまみの袋を開けにかかった。片手ではまこと開けづらいのだが――
 何だか視線を感じる。主にファーシーと、そしてアクアの。
(やっぱり……。何か、嫌な予感はしてたのよね。でも……)
 ファーシーは、一部が欠けたお守りの事を思い出してそう思う。だが、面と向かって『その腕、どうしたの?』と聞くほど不躾でもなくて。
(ここは、普通に話した方がいいのかな? でも、それも逆に意識しているような……。ううん……)
 彼女は悩みながら、気もそぞろに別の炭酸飲料を注いだ。これがまた別の、成分変更されたホレグスリだったりするのだが以下略。しかし区別し難いので最初のをホレグスリA、今のをホレグスリBとしようか。
「……あー、まぁ、なんだ」
 そんな彼女と無関心な表情でちらちらと視線を向けてくるアクアに対し、皐月は言い訳がましく言う。
「例えば、とんでもない不幸を得た誰かが居て、周囲が何かを言ったとしても。誰かを救えるのは、結局いつだってその誰か自身なんだよ」
「……?」
 何だかぽやぽやと顔を火照らせたファーシーが不思議そうな顔をする。理解するのには少し時間が掛かるかもしれない。
「オレはオレの中に救いを得たさ。それに」
 1度間を空けて、彼は続ける。
「悲劇に酔うよりは、こうして花に酔ってた方が幾分か気分がマシだ」
 そうして、七日に渡されたホレグスリAに口を付ける。途端に、胃の中が熱くなった。これは……
(何だこれ。酒みたいな。しかも結構強い……。ジュース、だよな?)
 覚えのある感覚に『ジュース』の入っていたペットボトルをまじまじと確認する。間違って『酒』が入っているのだろうか。それはそれでラッキーだが。だが、それなら七日は――と彼女の方を見ようとして。
「……良く分からないけど……」
 ファーシーがそう前置きしてから、判決を下す裁判官みたいに指をぴっ、と突きつけてくる。何か、さっきよりも元気で、テンションが高い。
「キザ! キザだわ、皐月さん!」
「!?」
 その物言いに、皐月は吃驚して彼女を見つめた。確かに気障だったかもしれないが。ファーシーは正直だが、にしてもここまで明け透けにものを言っただろうか。微妙に違和感がある。
「そんな説明じゃ全然分かんないわよ! で? 結局、どうしたの? 何があったの? 今度はどんな無茶したの? わたしがどれだけ心配してたと思ってるの? 聞いてる?」
「はい……」
 その剣幕に、思わず丁寧語になってしまう。『良く分からない』が『全然分からない』になってるし。それから。
「あれ? わたし、こんな事言うつもりじゃなかったのに、口が勝手に……、あれ? ご、ごめんなさい! 言いたくないなら……。ううん、やっぱり聞きたいわ。どうしたの? ……ああっ、また! どうしたんだろう……」
 と、自問自答自己ツッコミと何やら忙しい。何だろう、この自白薬でも飲んだみたいな反応は。
 ん? 『自白薬』……?
 そこで、黙って話を聞いていた素面アクアが皐月に言う。
「要するに……貴方は気にしていないから、私達にも気にするなと言いたいのですか?」
「まあ、そういうことだな」
「んー、皐月ぃ〜」
「な、何だ?」
 その時、突然七日に抱きつかれて皐月はコップを取り落としかけた。七日の白い顔が赤くなっている。
「ファーシーさんの言う通りです。皐月はいつも気障ったらしくて格好ばかりつけて、それでいてどうしようもないヘタレです。全く……私達が反対しないからと言って調子に乗り過ぎです。だから、今日ぐらいはいちゃいちゃさせてください〜。お花見ですよ? お花見。自制などしても無意味です」
 これは……酔ってる。完璧に、酔ってる。少なくとも、このジュースらしきものが限りなく酒に近いものであることは確かなようだ。
「…………」
 アクアはそんな2人に釈然としない目を向けていた。彼女はあの時の事を覚えている。身動きの取れない自分を皐月は攻撃し、首と片脚、胴体を分断し当時の機体に多大な損傷を与えたのだ。しかし、皐月もその際に重傷を負って吹っ飛んでいった。腕が無いのも、あの時の戦闘が関係しているのだろう。
 だが、攻撃の理由を知らない彼女からすれば、殺しに来たとしか思えない行為であり。
(それは身勝手というものでしょう。殺されかけた者に気にするなというのと同義。第一、私は腕が無かろうが死んでようが何とも思わないのですが……。しかし、ファーシーとは随分と親しそうですね……。だからといって、よくまあ私の前で堂々と……)
 アクアの表情からどこまで読み取れたのかは解らないが、皐月は彼女に向き直った。
「……先読みで言わせて貰う」
 七日はくっついたままだが、それは兎も角として。
「――『どうして此処にいるか』。生きてるんだからそりゃ何処にでも沸く」
「…………」
「――『私にした事を覚えているのか』。覚えてる、けど謝らねー。そも、許されようとすら思ってねーからな」
「……? 何? 皐月さん、アクアさんに何かやったの?」
「……貴女は黙っていてください」
 口を挟んできたファーシーに、アクアがぴしゃりと言う。
「何よ、わたしだって……むぐ」
「貴方は、私を……」
 ファーシーの口を塞いで何か納得がいかない、という調子で口を開くアクアを遮る形で、皐月は続ける。酒らしきものを飲みながら。
「あー、もし酷い目にあって当然とか考えてるようならぐーで殴る。んな理由なんざ何処にもない」
「…………」
「結果論で物を語るよ、オレはな。何がどう有れ、結果として誰かと歩む未来を選んだのならオレはそれを祝福するし、そこに至れたのなら今までの全ては無駄じゃない。……人間、少し傲慢なくらいが丁度いい。間違えれば、きっと誰かが止めてくれる……それこそ、顔面に蹴りを入れる勢いで、な」
「皐月、随分と今日は饒舌ですね〜。酔ってますぅ?」
「酔ってるやつに言われたくねー。……酔ってねーし」
 いつの間にか離れて陽気に弁当を食べまくる七日に応えてから、最後に彼は言った。
「……まあ、言いたいことが有るなら聞くし、一発くらいなら殴られる覚悟もある」
「…………」
 睨むような無表情で話を聞いていたアクアは、ファーシーの口に手を当てたまま静かに言う。……鼻は塞いでいないし酸素的な問題は無いだろう。
「長々と口説頂きましたが、結局、貴方は何故私にあのような事をしたのです。その動機が判らなければ、私は何も言えません。恨み、抗議する事も、何も。……私はあの時、死んでいたかもしれません。いえ、あの時では無くとも後から爆弾で攻撃されましたから、その時に死んでいても全くおかしくありません。爆発があった時は私の機晶石は完全に露出していたのです。助かった方が奇跡です。ですが……私も、結果論で物を語りますよ。
 あれで、私に組み込まれていた数多の武装兵器が破壊されて使用不能になったのも事実です。そして、私は今こうして動いています。壊れた武装を綺麗に排除され、こうして。
 動機如何によっては、私は貴方を殴ることは出来なくなります。ああ、それと……、私は貴方の腕について当然とも思いませんが全く以てどうでもいいので何も感じません。それが気に食わないのなら、どうぞぐーで殴ってください」
「…………」
 皐月はコップを持つ自分の手を暫し見つめ、それから特に何もせず、話し出した。