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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記

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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記
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「にゃー(ヘル、歩きにくいんだが)」
「にゃんにゃんにゃああん(だって可愛いんだもーん。いつもの、たまに猫耳出てるのも良いけど!)」
 プラチナのシンプルな指輪がついたチェーン状の首輪をした黒猫に、アメジストのついたチョーカー風の首輪をしたフワッフワな茶トラ猫がすりより、じゃれつき、くっついて歩いている。
 黒猫は早川 呼雪(はやかわ・こゆき)、茶トラ猫はヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)だ。
「まさか、呼雪達を乗せることになるなんて……」
 一人動物と化していないユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は大きくため息をついた。
 パビリオンから外に出ると、ユニコルノが作ったパレードカーがとめてあった。
 車と牽引用の紐をつけて、可愛らしく飾り付けたみかん箱のパレードカーだ。
 これに子犬と子猫を乗せてパレードを行い、万博を盛り上げて、猫と犬の世話もしようと思っていた、のだけれど。
 ヘルがもらってきた薬を、説明を聞く前にレストランで呼雪達は飲んでしまい、全員動物化してしまった。……何故か当のヘルもしてるし。
「にゃーん、にゃんにゃあ」
 ヘルは相変わらず、呼雪に身体を摺り寄せたり、顔を舐めたり……。
「にゃん、にゃー(場所を選べ。皆が見てるだろ)」
「にゃー、にゃにゃん(公衆の面前でいちゃいちゃできるチャンスじゃない!)」
 そうヘルが言うと、呼雪は冷たい目でヘル猫を見て、その後は無視。
「にゃー。にゃん(呼雪、呼雪? 怒った?)」
 途端、ヘルはしょぼーんとする。
 と、その時。
「にゃー」
 呼雪は、植木の中に隠れている三毛猫を発見して、声をかけてみた。
「みー……」
 その子猫は、口に水仙の首輪を咥えている。
 水仙……といえば、思い浮かぶ人物が一人、いる。
「にゃー、にゃ(もしかして……アレナ、か)」
「……みー」
 不安そうな目で、呼雪の問いに三毛猫は頷いた。
 三毛猫アレナは状況がわかっていないらしく、困り果てた様子だった。
 呼雪は撫でる代わりに、宥めるようにすり寄って。
 リーア・エルレンが作った、薬の効果であることを教えていく。
「みー……みー(そう、ですか……薬が切れるまで、一緒にいても、いいですか?)」
 変わらず不安げな三毛猫アレナに、呼雪は「にゃん」と声を上げて頷いて。
 パレードを行うことと、参加してくれないかと頼んでみる。
 勿論アレナは、首を縦に振った。
「ご予定がないようでしたら、パレードにご協力いただけませんか」
 ユニコルノが三毛猫アレナをひょいと抱き上げて、みかん箱車に乗せた。
「にゃー」
 すぐに呼雪もみかん箱車に飛び乗って、安心させようと三毛猫アレナに寄りそう。
 その様子と、三毛猫が加えている水仙の首輪を見て。
 ユニコルものその子猫がアレナなのだと気づく。
 自分の方を見上げて、三毛猫アレナは「みー」と鳴いた。
「よろしくお願いしますね」
 寂しさを感じながら他の子猫、子犬に対してと同じように声をかけて、ユニコルノはパレードカーを引っ張る。
 アレナだと気づいていないふりをしたユニコルノに対して、アレナもそれ以上アクションをかけることはなかった。
「にゃーにゃー(ほら、アレナちゃんここにいるよー、気付いてよー)」
 猫化しているヘルも、呼雪とのやりとりから三毛猫がアレナだと解っていたから。ユニコルノにそれを伝えようとする。
「箱の中に入ってくださいね。出発しますよ」
 ヘルの伝えようとしていることにも、ユニコルノは気付かないふり。
(おかしいなぁ。気になる子の事は普通より気にしてると思うし)
 ヘルは軽く首を傾げる。言葉が通じなくても、状況的にユニコルノがアレナに気付かないなどということは、ないはずなのにと。
「ユニコルノちゃん、ボクもさんかするです!」
 パレードカーを引いているユニコルノに、可愛らしい少女――ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、歩み寄る。
 ヴァーナーは、大きな白いセントバーナードのバフバフを連れている。
 バフバフの背には、わんにゃん展示場から借りてきたみかん箱が括り付けられていて、その中には、黄色のリボンを付けた黒のボンベイと、赤色のリボンをつけた、白地に耳と尾の先は赤のターキッシュバンの子猫、そして、緑色のリボンの、スポット(斑点)模様で茶のベンガルの子猫が乗っている。
「にゃーん」
 ボンベイの子猫――薬で猫に変身したセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)は、声を上げるとみかん箱から飛び出して、ヴァーナーの肩に飛び乗り顔をぺろぺろと舐めだす。
「よいこちゃんです。かわいいです」
 ヴァーナーは猫セツカの身体を優しく優しく撫でていく。
「是非よろしくお願いします。皆様可愛らしいですね」
「にゃーん」
「にー」
「みゃー」
 猫セツカ、そして赤いリボンのターキッシュバンに変身したクレシダ・ビトツェフ(くれしだ・びとつぇふ)。それから、緑色のリボンのベンガルに変身したサリス・ペラレア(さりす・ぺられあ)がユニコルノに可愛らしい声でお返事した。
「ワンワンワン!」
 それから。バフバフの吠え声ではない、犬の吠え声が響いてきた。
 ボクサーの子犬だ。
 ……不細工だけど可愛い。
 服装は特攻服。首にはトゲトゲの首輪をつけている。
「この仔、服を着ているのですね。パラ実生の飼い犬でしょうか?」
 ユニコルノは抱き上げて箱に入れようとするが、その子犬――薬で犬に変身した吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は、箱には入らず、箱の周りをぐるぐる回りだす。
「ワンワン!(可愛い仔がいっぱいじゃねぇか。手ぇ出してくる奴がいるかもなァ)」
 イケメン犬としては、困った女子がいたら助けてやらねばならぬのだ。
 みかん箱の中の、メスと思われる仔に竜司は目をつけておく。
「わんにゃん展示場に用意してあった服を着てるの。写真撮らせてくれるそうよ」
 ボクサー竜司の後から、デジタル一眼レフカメラを持ったアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が現れる。
 アルメリアは捨て猫、捨て犬達を不憫に思い、わんにゃん展示場で手伝いを申し出たところ、犬化してモデルとして手伝おうとしていた竜司と出会い、ここに引っ張られてきた。
「皆に子犬や子猫に興味を持って貰えるような写真、撮らせてもらうわよ」
 アルメリアはカメラを調整していく。
 素敵に撮った写真を案内所に飾っておけば、興味を持ってわんにゃん展示場に訪れてくれる人が増えるかもしれないから。
「賑やかになってきましたね。さて、通りに出ますよ」
 ユニコルノは子猫、子犬達を載せたミカン箱を引っ張って、パビリオンとパビリオンを繋ぐ広い道に出ようとした、時。
「私たちもご一緒していいですしょうか?」
 子猫を抱きかかえた女性――高島 恵美(たかしま・えみ)が、ユニコルノに近づいてきた。
 抱えている猫は、パートナーのミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)。不可抗力で猫になってしまったのだが、恵美に発見され保護されたところだ。
「フランカ猫殿が、箱の中に入って皆と遊びたいようです。構いませんか?」
「にゃー、にゃにゃにゃっ」
 もう一人、立木 胡桃(たつき・くるみ)も、子猫を一匹連れている。
 こちらの子猫は、フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)。元気いっぱいの人懐っこい子猫だ。
「ええ、是非よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 胡桃はそう言った後、子猫のフランカに顔を摺り寄せて、もふもふして。
「ふふ、いつもはボクがもふもふされるけど。フランカ猫殿ももふもふで気持ちいいです」
「にゃん(もふもふさるのも気持ちいい〜)」
「それでは、箱の中へどうぞ」
「にゃんにゃん」
 胡桃はフランカを子犬と子猫が入っているみかん箱の中に入れてあげる。
「にゃん、にゃー(よろしくね〜)」
 早速、フランカは三毛猫アレナや、黒猫呼雪に明るくご挨拶。
「にゃー」
「わんわん」
「にゃご」
 途端、みかん箱の中が賑やかになっていく。
「フランカちゃん、楽しそうですね。ミーナちゃんはどうします?」
「にゃーん」
 恵美の問いに、ミーナは彼女の胸にぺったり張り付いた。
「このままでいいということでしょうか。それでは、一緒にパレードしましょうね」
 恵美はミーナを撫でながら、ユニコルノと並んで歩き出した。
「ちっちゃいわんちゃんたくさんいるよ」
「ほんとだー」
 しかし……。
 気づいた人々、子供達が近づくより早く。
「パレードの犬猫にもみくちゃに……なんて素敵! でへへ……」
 子犬と子猫は厄介な生物をも惹きつけてしまった。
「ふっふっふっ、缶詰を開ける音を聞けば猫まっしぐら……俺様モテモテの巻だっ!」
 その生物の名は変熊 仮面(へんくま・かめん)、近づくなり猫缶をコキコキ開け始める。缶切不要タイプなのに、わざわざ缶切を使って!
「ねこちゃ〜ん、ご飯ですよ〜!」
 蓋を開けた缶をみかん箱の方へと向けたが。
 その時には、勿論パレードは彼を無視して先に進んでしまっていた。
 当たり前のことだ。何故なら彼はいつも通り全裸だったから。お母さん達も皆、彼の股間を指差す子供達に「見てはいけません」「お父さんと比べちゃだめよ」と注意をしながら、手を引いてそそくさ立ち去っていく。
「なぜ避ける……母と子はやむを得ない事情があるのだろう。しかし、動物のはずのお前らが何故避けるのだ!!」
 突如、変熊は走り出し、みかん箱に突撃。
「そこの女、俺様の勇姿をしっかり写真に収めろよ!」
「は、はい? 人間は撮らないわよ。変態はなおさらっ!」
 アルメリアは間違いが起こらないよう、カメラの電源を落と……そうとしたが、なんだかスクープが撮れそうな気がして、ついカメラを構えてしまう。
「み゛ーーーーーー」
 驚いた三毛猫アレナが飛上る。
「にゃーん(平然としていれば大丈夫だ)」
 即、黒猫呼雪が寄り添い、彼女の視界を塞ぐ。
「むむむ、はだかのオトナは、さんかできないですよ!」
「ふー(クレシダとサリスに手を出そうというのなら、容赦はしませんわよ)」
 ヴァーナーが変熊を阻もうと前に出て、セツカは臨戦態勢。
「ふ、にゃー(なんだかすごいモノがせまってくるよぉ〜)」
 猫フランカが、ベンガルのサリスにふぎゃっとくっつく。
「みゃー、みゃー、みゃあ(だ、だ、大丈夫だよ。大丈夫だよ、たいけんしたこともないじたいが発生しちゃってるけど、だ、大丈夫)」
 サリスは混乱しつつも、猫フランカを庇おうとする。
「俺様が可愛がってやる!」
 変熊はみかん箱にダイブと見せかけて、バフバフの上に乗っていたターキッシュバンのサリスを抱き上げた。
「ふにゃーん!」
「にゃー」
 すぐに、セツカはヴァーナーの腕からジャンプ。呼雪もみかん箱からジャンプして変熊にとびかかる。
「纏めて、相手してやる! こうしてこうしてこうしてやるぅぅ」
 そして全裸で、顔を摺り寄せて、体を摺り寄せて、過剰なスキンシップ!
「にゃ……」
「ふぎゃー」
「にゃー!」
 スキンシップスキンシップ!
「めーなんです!!」
「あてててててて!」
 ヴァーナーはえいっと護身術で変熊の手首をねじった。
 解放された猫達はヴァーナーの腕の中に保護される。
「ワンワン!(イケメン犬竜司参上!)」
 同時に、ボクサー犬の竜司が吠えながら飛び込んでくる。
「ウーワンワン(てめぇ、か弱い女子をいじめてんじゃねぇぞ)」
「なんだその目、その態度はー! そして、貴様ら、その目……人をさげすむ様なその目! 貴様は断じてネコではないっ!」
 逆上しながら、変熊は猫クレシダを指差す。
 彼女はずっと冷ややかな目で変熊を見ていた。鳴き声も非常にそっけない。
「ちきしょう!」
「……行きましょうか」
 叫ぶ彼のことは放っておいて、ユニコルノは出発する。
「貴様らァ……ん? あ、そうかこの薬か?」
 自分を毛嫌いする犬猫を不審に思った変熊は、わんにゃん展示場で入手した薬のことをぴこーんと思いだす。
「俺様もこの薬でモテモテになってやる!」
 そして腰に手を当てて、薬を一気飲み。
「俺様は変熊かぁー……変くぁー……」
 かぁーカァーと声が響く。
「か、かぁぁぁぁぁ……」
 一輪の薔薇を咥えた鴉が情けない鳴き声を上げながら飛び立つ。
「にゃん(自業自得だね)」
 恵美に抱っこされたミーナが変熊鴉を見上げながら言う。
「にゃー(お似合いね)」
 クレシダは変わらずそっけない。
「ワンワン(オスはイケメン犬猫以外、必要ないぜェ!)」
 竜司はジャンプして変熊鴉にとびかかる。
 ぱらりと、変熊鴉の黒い羽が舞飛んだ。
「カァ、カァァー!(おめーら馬鹿にすんじゃねー! これでも食らえ、偽動物共)」
 みかん箱の上まで飛ぶと、変熊は腹に力を入れて、糞を落す!
「……」
 即座に、ユニコルノがみかん箱を強く引いて、子猫と子犬を引き寄せる。
 べちゃんと白い液体は地面に落ちた。
「カァー(まだまだ行くぞ)」
「いいえ、終わりです」
 クールに言うと、ユニコルノは突如ロケットパンチを発射!
 左右のロケットパンチが鴉の小さな体に直撃。
「ガァーーーーーーーー!(ぐぎゃーーーーーー!)」
 鴉は遥か彼方へと飛んでいった。
 恐らく生きてはいまい。……普通の鴉ならば。