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リアクション
第9章 クリスマスディナー
「お待たせ!」
空京駅で十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は、大切な友人の雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)を見つけて駆け寄った。
今日は特別な日だから、宵一は高級スーツ姿。
六花もお洒落なドレス姿だった。
「素敵なスーツですね。でも……」
「っと、予約の時間もうすぐだ、行こう!」
気になることがあったけれど、六花は宵一に引っ張られて、彼が予約をしてくれた高級レストランへと歩いた。
(価格が乗ってないのね)
レストランの入り口には、値段の分かるようなものはなく。
六花は少しだけ不安に思いながらも、宵一に連れられて店に足を踏み入れた。
床には花柄の豪華な絨毯が敷かれており。
テーブル一つ一つに、綺麗な花が飾られている。
真っ白いテーブルクロスの予約席に案内されて、向かい合って腰かけて。
メニューを見る必要もなく、料理が準備されていく。
まずは、クリスマス用に装飾された前菜の盛り合わせ。
それから鮮魚のお造り。
海鮮スープと、続き……。
「綺麗……」
六花は透き通った金色のシャンパンが入ったグラスを、手に取った。
料理同様に、それはとても美しくて。思わず見入ってしまう。
気づけば、宵一が微笑みを浮かべて自分を見ている。
「宵一さん」
「はい」
名前を呼ぶと、彼の笑みはもっと暖かくなり、自分へと注がれる。
返ってきた返事の声も、その微笑みも、暖かさも嬉しくて。
六花も笑みを浮かべて。
「ふふっ、呼んでみたかっただけです」
と言った。
すると、宵一は少し驚いたような顔をして。直後にまた笑みを浮かべる。
「失礼します」
次に運ばれてきたのは、七面鳥のステーキだった。
「これは……」
一口食べた六花は、思わず手を止めた。
「あっさりとした味。だけど物足りなさがない。とっても美味しい」
彼女の素直な感想に、宵一が嬉しそうな笑みを浮かべる。
「あの、ところで」
会った時から気になっていたことがある。
隠してあるようだけれど、彼の顔に無数の傷があるのだ。
「その傷、どうしたんですか?」
「ん? 傷なんかあったっけ? 野良猫に引っかかれた時についたのかな」
そんな風に、宵一はごまかす。
実は。
このレストランのクリスマス特別メニューの値段が信じられないほど高かったため、宵一は事前に料理長と交渉をしたのだ。
結果、シボラのジャングルに出る幻の七面鳥を取ってきたら、2人分のディナーを無料で用意してくれると。そんな約束を取り付けていた。
なんとしてもここに六花を連れてきたいと思っていた宵一は、今日まで危険なジャングルに籠って野獣と戦っていた。そしてなんとか約束の七面鳥を手に入れて戻った……ばかりだった。
(まさか七面鳥を手に入れるために、シボラのジャングルで死にかけたなんて絶対に言えない)
そんなことや、死闘を思い浮かべながら、宵一はもぐもぐ七面鳥を食べていた。
「うん、美味い」
そう笑顔を浮かべると、六花もそれ以上傷については聞かずに、微笑み返してくれた。
「ガトー・フレーズとキャラメリゼのクリスマス仕立てでございます」
最後のケーキは、繊細で華やかなクリスマスケーキだった。
「……宵一さん、どうしましょう」
六花はケーキを見ながら、困った顔をする。
「ん?」
宵一もそんな彼女の姿を見て、食べるようとする手を止めた。
「七面鳥が美味しくてつい食べ過ぎてしまったのに……」
「はい」
「ケーキもとても美味しそうで! どうしよう、幸せすぎます……」
ちょっと赤くなって、嬉しそうにケーキを眺めている六花を見て、宵一は「可愛いなぁ」と小さく笑い声をあげた。
「呆れてます?」
「そんなことないよ。喜んでいただけてよかった!」
「勿論、七面鳥もケーキも嬉しいですけれど……」
六花はふと、真顔になる。
「私が楽しいのは宵一さんといるからですよ」
その言葉にドキリとして、フォークに伸ばしかけていた手を、宵一はまた止めた。
「宵一さんとお話するの嬉しいですし、もっと一緒にいたいって思ってます」
「嬉しいです。俺も六花さんと過ごしたかったから、誘ったわけだし。なんか、最高の贈り物をもらった気分だ」
宵一は満面の笑みを浮かべて「ありがとう」と、言った。
「沢山の贈り物をありがとうございます」
六花も礼を言い、彼の顔の傷を覚えておく。
本当のことはわからないけれど、今日の為に、自分の為に、彼が何かをしてくれたことが、伝わってきて。
いつの間にか、2人は見つめ合っていて。
どちらからともなく、照れ笑いを浮かべて。
特別な、甘いケーキを一緒に堪能した。
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