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リアクション
第10章 貴女の望むような人間に
「美緒さん、今日も凝ってますね」
「はう。あああ……お姉様、とても気持ちいいです」
百合園女学院の保健室で、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、泉 美緒(いずみ・みお)をマッサージしてあげていた。
美緒は胸が大きいこともあり、肩こりにいつも悩まされている。
今日は肩だけではなくて、小夜子は背中や足のマッサージも丹念にしてあげていた。
「……この一年、色々あって、美緒さんを見てて思いましたけれど、美緒さんは強くなりたいですか?」
「え?」
小夜子のマッサージにうっとりしていた美緒が上気した顔を小夜子に向ける。
「もし強くなりたいなら、強くなれるように、私が教えても良いですよ?」
「強く、ですか」
こくりと頷いて、小夜子は言葉を続ける。
「私が教えられるのは、戦いにおけるものに関してですけど……」
軽く視線を落とした小夜子の手を、美緒が掴んで起き上がる。
「教えてくださいませ。わたくしもお姉様のことを含めて、もっと知りたいですわ」
その答えに、小夜子は少し驚いた。
美緒は目を輝かせて、話を続ける。
「代わりにわたくしも、お茶や舞踊など、わたくしが知っていることをお教えいたしますわ。これでしたらおあいこですわよね」
「……はい、おあいこ、ですね」
そう微笑んで、彼女を見詰めながら小夜子は考えていく。
美緒は見た目より……そう、以前よりも強くなっているとは思う。
彼女なりのプライドがあると思う。
そんな彼女が、強くなることを望んだ……それとも、私に教わることを望んだ?
(どちらにしても、美緒さんの希望に添えるように、手助けしていきたい)
小夜子と美緒はもう1年くらい友人として親しくしている。
小夜子は美緒を可愛いと感じていたし、美緒は小夜子のことをお姉様と慕い、優しくて頼れる親友だと感じていた。
だけど、小夜子の想いは、それだけではなくて。
危なっかしいから大切にしている……それだけでもなくて。
好き、という感情が強い。
(……恋だと思う)
ただ、小夜子は自分に自身がなかった。
美緒に相応しい人物ではないと、今は思っていた。
同じく、美緒と親しくしている崩城亜璃珠と、小夜子は姉妹関係――それ以上の深い絆がある。
それを引け目に感じている部分もある。もしかしたら、お互いに。
(だからいつか私の……、迷いが晴れるまで。その時までに美緒さんの望むような人間になりたいかな)
「どうかしましたか?」
じっと自分を見詰めている小夜子に、美緒は小首を傾げて尋ねる。
「いえ、美緒さんは本当に可愛いなと思いまして」
「小夜子お姉様の方こそ、とてもお綺麗で、美しいですわ!」
そう言って美緒が浮かべた微笑みは、見えない傷を癒してくれるかのような、暖かくて柔らかい微笑みだった。
「ありがとうございます、美緒さん」
彼女は小夜子をもっと知りたいと言った。
私を……彼女は受けいれてくれるだろうか。
(今の私は……きっと美緒さんに相応しくない、から)
だから、想いは秘めたまま、小夜子は美緒を見守り続けている。
彼女が自分に向ける気持ちは純粋で。純粋過ぎてちょっと、切ないなと思いながら。
「……それでは、次は背中のマッサージをしますね」
「はい、お願いします」
美緒はベッドに横になり、小夜子に身を任せていく。
小夜子は再び、マッサージを始める。
今はまだ、ただそれだけの。
親しい友人としてのクリスマス――。
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