イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【2021クリスマス】大切な時間を

リアクション公開中!

【2021クリスマス】大切な時間を
【2021クリスマス】大切な時間を 【2021クリスマス】大切な時間を 【2021クリスマス】大切な時間を 【2021クリスマス】大切な時間を 【2021クリスマス】大切な時間を

リアクション


第15章 感謝

「アルちゃん、デートはね、恋人がいる人は他の子としちゃいけないものなのだよっ!」
 ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)の腕を引っ張って、ずんずん歩いている。
「あれ? でもなんで手繋いでるのかな? なんで、私のことゴンドラ乗り場に引っ張るのかな?」
 アルコリアがミルミの元を訪ねたのは、本当に久しぶりだった。
『ミルミちゃーん、デートしよー。ヴァイシャリーのゴンドラ乗りたい』
 会うなり、そう言ったアルコリアを、ぷんすか怒りながら、ミルミはゴンドラ乗り場に引っ張っている。
「デートじゃないの。お友達同士の遊びでゴンドラ乗るの。いい?」
 ぷっくり膨れたまま聞くミルミのぽっぺをぷにっとアルコリアはつっつく。
「ん? 遊びの関係がいいの? ミルミちゃんってそういう娘なの?」
「うん、(友達同士の)遊びの関係ね!」
「わかった。ミルミちゃんで遊ぶ〜むぎゅーっ」
 アルコリアはいつものように、ミルミをぎゅっと抱きしめる。
「もー、アルちゃんたら〜っ」
 と言いながらも、ミルミは一切抵抗しなかった。

 それから、2人で屋根のある大型のゴンドラ――ルリマーレン家のゴンドラに乗り込んで、ミルミが手配した料理を楽しみながら、ヴァイシャリーの運河を回っていく。
「なんだか、久しぶりねー……」
 シャンパンを飲みながら、アルコリアがしみじみと言う。
「うん、久しぶりすぎるよ。アルちゃんどこ行ってたの? ……お嫁にいっちゃったのかと思ったよ。あ、お嫁に行ったらダメってわけじゃないんだからね! そーゆー大事なことは、友達として教えて欲しいってだけで」
「うんうん。なんというかね。アレコレしてたんだー」
 ローストビーフを食べながら、アルコリアは最近のことを思い浮かべる。
(……うーん『魔神と戦って殺されて、生き返って、イルミンの人や友達と殺し合いしてきて、放校になるかもしれなかったから顔出さなかったー』ってストレートに言うのはナシですよね)
 そんな話をしたら、ミルミは泣くだろうか。
 それとも、作り話と思い、信じないだろうか。
「……派手に友達と喧嘩してきて、素行が悪くて怒られそうだから雲隠れしてたの」
 考えた末に、アルコリアはそうミルミに説明をした。
「ミルミちゃん、怒る?」
「うん!」
 またぷっくり膨れて、ミルミは言う。
「雲隠れするんなら、ミルミん家に来ればいいんだよっ。百合園のお姉様から、ミルミが守ってあげるよ」
「そっか……うん、そっか。ありがとね、ミルミちゃん」
 アルコリアは少し笑って。
 膨れているミルミを大切に眺めながら。
「何事もなかった? 大丈夫だった? ……寂しく、なかった?」
 そう問いかけた。
「……色々、あったよ。怪我とかはしてない、けど。百合園の皆が研修に行ってる時に、空京に要塞が迫ってきたり。怖いこと、沢山あったよ」
 そして、「寂しかった」と、ミルミは膨れたまま、上目使いで言う。
 傍にいてあげられなくて、ごめんね……。
 そんな素直な感情がアルコリアの中に溢れたが。
「グレてないか心配だったよぅっ! ミルミむぎゅーっ!」
 すぐに、自分で茶化して、ミルミに抱き着いた。
 頬にすりより、ぎゅうぎゅう抱きしめて。
 撫でて撫でて撫でて。
 思う存分、ミルミを感じていく。
「うにゃー。アルちゃん、ミルミも……心配したよぉ!」
 ミルミもぎゅっとアルコリアに抱き着いてきて。
 体に頬を摺り寄せて。目を閉じて。
 アルコリアの抱擁を全身で喜んだ。

 景色1割、料理2割、抱擁5割の割合で楽しみながら、2人を乗せたゴンドラはゆらゆら進んでいく。
「別荘の件憶えてる? なぜか炎上とか凄いことになったアレ」
「勿論、覚えてるよ……。な、なんだったんだろうね、アレ」
 アルコリアの言葉に、ミルミが小声で答えて目を泳がせる。
何故だったんでしょうね? 昔のことで詳しく憶えてませんが凄いことになってましたよねー」
 うふふっとアルコリアは笑う。
「今じゃ結構特徴ある契約者として見て貰ってるらしいけど……当時の何でもない私を相手にしてくれた……構ってくれたの嬉しくて、その時からずっと感謝してるの。ミルミちゃんに」
 ケーキを口に入れもぐもぐしているミルミに、アルコリアは顔を近づけて。
 彼女の柔らかい顔に、口づけた。
「ふぁいがほ、あむあむ」
 口をつけながら言った、言葉は『ありがとう』。
 アルコリアのキスは、唇ではなくて。
 奪ったのは、ミルミの頬の柔らかい部分。
 そのままほっぺをあむはむと甘噛みしている。
「ミルミも、感謝してるよ。……家族とか、鈴子ちゃんを好きな気持ちとかとは違う、『好き』の形を教えてくれたアルちゃんに。だから……っ」
 ミルミはアルコリアの顔を両手で掴んで、間近で目を合わせた。
「クリスマスプレゼント。今日はミルミのこと好きにしていいんだよ」
「……それじゃ、キス1万回。頬が膨れ上がるまでしちゃうぞ〜」
 言って、アルコリアは今度は逆のぽっぺにキスをする――。
(無防備ですね、ミルミちゃん……目が離せないなあもう)
 ゴンドラが船着き場に着くまで、アルコリアはミルミを可愛がり続けた。
 プレゼントと言ったのはミルミだけれど。
 ミルミの方こそ、愛情というプレゼントを沢山もらった一日だった。