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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● ピルム・ロマエ(ローマの投槍)


「ガリアどもめ、我らローマの進んだ文明を真似て調子に乗っておるな」
ユリウス・プッロはそういって、ヘイリーとグローリアーナの二頭の龍を嘲笑った。
白い龍、赤い龍はいずれも、ガリア戦記でローマ兵が用いた軍旗に描かれたドラゴンが原典であるらしい。
ガリア戦記に従軍した彼からすればイギリス人は皆ガリア、蛮族に思えるのだろう。

ヘイリー・ウェイクは怒りを露わに、弓に矢をつがえた。

「たしかにノルマン人は許せない!
 だけどローマ人のユリウスにとやかく言われることじゃないよ!」

ヘイリーの矢がユリウスを襲うが、ユリウスは楯を掲げてそれを食い止める。
楯に身を隠したまま、ユリウスは三度必殺の投槍術を披露する。

プッロの槍は、ヘイリーの体に深々と突き刺さった。

「他愛ない……うむ?」

倒したはずのヘイリーがむくりと起き上がる。

「ローマ人でもロビン・フッドの伝説くらいは聞いたことがあるだろう?
 ロビン・フッドはヘリワード・ザ・ウェイクが元になったと言われているけど……
 実はヘリワードこそがロビン・フッドのもとになったんだよ!!」

ロビン・フッドとして覚醒したヘイリーは、再び弓を手にして射撃を行う。
ユリウスはそれを悠々と楯で防ぐが、ロビンの矢を受けると楯が砕けてしまう!
さらに次の矢が手に刺さる。

(前にもこのようなことがあったな……
 あのときはライバルのルキウスの助力で一命を取り留めたが……)

プッロとルキウスは同じケントゥリオで、昇進争いをした仲である。

楯は砕け槍を持つ手は深手を負った。
しかしまだ諦めない。

プッロは馬を走らせる。
矢が何本が突き刺さるが、ユリウスは馬を止めない。
そしてそのまま、ロビンをはね飛ばした。

アーサーとグローリアーナを倒した時点で、たぶんヘイリーの為すべきことは終わっていたのだ。
プッロは辛うじて勝利したが、傷は浅くなかった。


●●● 阿修羅のごとく

「家康め、正体を現しおったか!
 わしの天下餅、返してもらうぞ!」

東照大権現と化した徳川家康に、織田信長が怒鳴りつけた。

「貴様が権現ならば、わしは第六天魔王よ!」
第六天魔王 建勲大神南蛮大具足、信長の操るアニメイテッド・イコンである。

場内に残ったイコンの残骸がより集まり、巨大な神とも悪鬼ともつかない姿を創り上げた。

第六天魔王とは仏教において修行を妨げる魔であるが、しばしばヒンドゥー教の破壊神シヴァと同一視される。
シヴァをはじめとするヒンドゥーの神々はディーヴァといい、仏教では「天」と呼ぶ。
このシヴァ神は嵐の神ルドラを前身としており、ルドラ神はアスラであったとされる。

このアスラはインド・ヨーロッパ圏において広く分布する光明神であったようだ。

北は北欧神話のアスガルドの神々。
西はアフラ・マズダーを中心とするゾロアスターの神々。
東では鬼神アスラとなり、さらには仏教に入って阿修羅となり日本にまで伝播した。


一方、東照大権現は薬師如来を本地とする。
簡単に言うと
「仏である薬師如来が日本では東照大権現という神として姿を現した」
ということである。

薬師如来は十二神将を護衛に従えているが、この十二神将は仏教に帰依した鬼神ヤクシャ(夜叉)の一群である。

他に有名な鬼神としては羅刹などがあるがここでは措く。


第六天魔王は炎の力を振るい、すさまじい劫火を放った。

「安心せい、これでも手加減しておる」
「手加減? 本気を出したらどうなってたの?」
「槍に汚物を塗って使ったかのう。かすったら破傷風で死ぬ」

本気を出されなくてよかった。

「おそるべし、第六天魔王……だがここは
『鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス』の心持ちじゃ」

薬師如来は名の通り癒しの仏である。
東照大権現は炎に巻かれながらも、必死で回復に努めた。

「フハハハハ! 守ってばかりで天下は取れぬぞ!
 ……ん、うむん!?
 ほ、炎がわしに迫っておるだと!!」

調子に乗って火炎地獄を作り出した結果、あたり一面が炎の海となってしまった。
その炎はとうとう、信長本人にまで迫っていたのである。


迫る炎のなか。信長は恐るべきことに気付く。

本能寺の変は明智光秀が起こしたというが、その黒幕は家康だったとする説があるのだ。
この説によれば、その後光秀は生き残り、天海と名を変えて家康に仕えたという。
家康の死後、天海の主導で家康は東照大権現であり薬師如来となった。

そして……明智光秀にはキリシタンの娘がいた。
洗礼名ガラシャ、本来の名は珠(たま)。


「謀ったな、光秀!!」

炎の中で信長は叫ぶが、ごうごうと渦巻く風のためにその声は聞こえなかった。


「おいィ、右府様(信長)が何か叫んでいらっしゃってるぜェ〜!!」
鮪は信長のメッセージを聞きとろうとする。

「なになに……が、ら、しゃ……き……ろ?
 柄シャツ着ろ? そんなに柄シャツが好きなんですか右府様ァ!?」


●●● 野望の証明

サクラコ・カーディは必死で術策を練っていた。
敵の手のうちがわかれば、まだ対処のしようもある。

しかし相手がさまざまな業績を為した英霊となると、とたんにこの戦法も難しくなる。
何をするか、予想が難しくなるのだ。

ダレイオス1世は非常に多様な業績を残したことが知られている。
なぜかといえば、彼は生前から自分の功績を石碑に残し、その石碑を至るところに設置していたからだ。

「うむむ。まさか次の必殺技は『宣伝』じゃないでしょうね」

ないとも言い切れない。
ほかにも『魔術師殺し』とか『王の道』など考えられる。
サクラコはしばらく考えて、おそらくこれだ、というものに思い当たった。


ダレイオス1世の武装はこれまでと変わらない。
サクラコはわざと大声で挑発した。

「そんな置物のチャリオットに乗っていないで、降りてきたらどうですか!」
「王にネコと同じ地に立てというのか」
「王ですって!? 王! 滑稽ですね!
 あなたはただの簒奪者じゃないですか!
 盾持ちがお似合いですよ!」

ダレイオス1世は奸臣を倒して王位を継いだとされているが、現在の研究では彼こそが王位簒奪者であったことがわかっている。
それまでの彼は、王の盾持ちであったらしい(ただし盾持ちは高位の貴族でなければなれなかった)。

ダレイオスはぎろりとサクラコを睥睨する。
「それがなんだというのだ。
 欲するものがあるなら手を伸ばして取る、それが王というものだ。
 そうでなくして己の国を、財宝を、民を手に留めておけるものか。
 それに、貴様とて身に過ぎた野心を帯びてここに来たのであろう」

(やっぱり。最後の能力は『簒奪』でしたか)
サクラコは口に出さずにそう思う。

ダレイオスは相手の能力を奪い、自分のものとできるのだ。
それは多くの王や戦士、神々が大なり小なり持つ力である。
英雄はかつての神に自らを重ねあわせる。
時代が下れば、かつての神や英雄の子孫と名乗って過去の栄光を我が身の一部とする。

ダレイオスはそれを、あまりにも意識的に行うことができるのだ。

サクラコはこのダレイオスの力を否定する気にならなかった。
自分自身がバステトの化身であると名乗ったがゆえに、ダレイオスの力に気づいたのである。

「ごもっとも。
 ならば私もあなたを倒して王となるまで!」

「できるものならやってみよ。
 カンビュセスのように、貴様を盾の飾りとしてやろうではないか」

カンビュセスはペルシャの王で、エジプトを攻め落とす際、兵士の楯にネコをしばりつけたと言われている。
エジプト人はネコを神聖視していたので、無条件で降服したとまで言われている。
(実際には誇張のようだ)

サクラコは武器を構えてすばしこく跳びかかる。
ダレイオスの戦車はガタガタと動き出し、サクラコを近寄せまいとする。

戦車の上からはひゅんひゅんと槍が飛び、サクラコが近寄ると楯で押し返される。

サクラコの脳裏で、戦車と太陽が結びつき、ぐるぐると回った。

旧約聖書のメルカバ。
ヘリオスの駆る太陽戦車。
そして戦車で天をかけるミトラ神。

戦車は王者の象徴であり、太陽を示すものだったのだ。

ここまで考えて、サクラコは考えるのをやめた。
真似をしたら勝てるというものじゃない。

サクラコは足を止めて戦車が近寄ってくるのを待ち、それからおもいっきりブン殴った。
車輪が外れてゴロゴロと転がり、戦車は斜めになって倒れた。
放り出されたダレイオスに駆け寄り、サクラコはその爪を喉元につきつける。
これでサクラコの勝利が決まった。


あとでサクラコはパエトーンの話を思い出した。
ギリシャの太陽神ヘリオスの息子パエトーンは、半神でありながら太陽の戦車に乗ることを望んだ。
パエトーンは望みどおり戦車に乗ることができたが、これを御することができなかった。
世界の多くが焼かれ、ついにパエトーンは息絶えたという。


●●● シューベルトの恋

フランツ・シューベルトは恋に落ちていた!
相手は歴史に残る妖女、玉藻 前である。

国すら揺るがす美女、『傾国の美女』というものである。
シューベルトがその美しさに魅入られたとしても、決して責められはするまい。

ちなみにパラ実分校のひとつ『傾国学院』は、元々キャバ嬢育成がメインであったらしい。

シューベルトは生涯独身であり、恋愛もあまり経験がなかったらしい。
玉藻はここで自分の魅力を最大限に使い、シューベルトを骨抜きにすることにした。
それから隙を見て止めを刺そうという魂胆だ。

が、最大限に使うまでもなくメロメロである。

はじめ、玉藻はその教養を用いてシューベルトをおだてるつもりでいた。
ところが、シューベルトのほうから「美しき狐の娘よ!」だのなんだのと褒めてくるのである。

あまりのあっけなさに、玉藻の残酷な面が出た。
ただ倒すだけではつまらない、プライドを引き裂いて、身も心もズタズタにしてくれよう。

「シューベルト、おぬしはピアノ歌曲の王と呼ばれておるそうだな。
 我のために一曲弾いてはもらえぬか」
「お安い御用さ」

シューベルトは自分の曲を奏で始める。

「つまらん曲だな。
 やはりつまらん人間は、つまらん曲しか作れぬのだな」
「なんだって……」
「そもそも聞くところによれば、生涯の大部分は素寒貧だったというではないか。
 認められるような才が本当にあったとも思えんな。
 まったく、あくびがでるわ」
そういって玉藻はあくびをしてみせる。

「やかましい!」

激昂したシューベルトはピアノをブン投げた。
思った以上にあっさりブチ切れたので、玉藻は驚いているうちにピアノの下敷きとなってしまった。

「演奏であくびをするような奴は言語道断だ」

そこで怒ったの!? と観衆はみな突っ込まずにおれなかった。


●●● 血煙シャンバラ大宮殿

馬超は緊張しながらも戦いの場にたった。
関羽から見事一本取ったとはいえ、こうなるとこの先かえって負けられぬ。

対するは伊東一刀斎。
相変わらず刀一本持っての入場だ。


馬に乗り長柄の槍を持った馬超のほうが、普通に考えれば有利である。
しかしここまでに何度となくそうした有利不利は覆っている。

なぜかといえば簡単な話で、英霊ともなれば逆境を乗り越えたエピソードのひとつやふたつ持っているからなのだ。

馬超は熟慮の末、奇策には頼らぬことにした。
馬を駆り、一撃で仕留めてみせよう!

きらり、槍がきらめいた。
それはあたかも流星のよう。

それを一刀斎はひらりと避ける。
再びの奥義、『夢想剣』である。

そこから一刀斎は即座に抜刀、馬の腹を深々と斬る。
馬超は体勢を保つが、馬はそうもいかない。
倒れる馬から降りるところに、一刀斎の刀が襲いかかった。

この一戦はこれで決着した。


●●● スピリット・オブ・ヴェンジェンス

諸葛亮 孔明と親魏倭王 卑弥呼の対決。

卑弥呼の術で、孔明を苦しめるようなものがあるだろうか?
孔明はその点でいくぶん安心していた。

「ううう……
 おお、お前は孔明ではないか!」

「そ……その声は!
 まさか劉禅!」

「呼び捨てとは偉くなったな、孔明よ。
 やはり魏と内通していたのではないか、ああ?」
「そ、そんなことは!」

劉禅とは劉備の息子であり、劉備なきあと蜀の皇帝となった。

が、そのあと劉禅はのんべんだらりと過ごし、国は謀反や反乱が頻発、孔明はその手を煩わせることになった。
さらには「孔明は魏と内通している」と疑ったりもしている。

ある意味、孔明にとって最大の難敵であった。

劉禅は孔明を侮辱しながら、つかつかと近寄っていく。
あまりに無防備な姿だが、天下の暗君、劉禅ならばなんの不思議もない。
ここでこの劉禅を斬るべきか、しかしそれでは劉備に合わせる顔がないのではないか、と孔明も悩む。

と、すぐそばにやってきた劉禅が、やおら孔明をぶん殴った。
その顔に先程までの愚鈍な様子はない。

「バカめ、先ほどまでのは『三国志演義』での愚かな自分だ!
 ただの阿呆に40年も蜀を守れるわけがなかろうが!
 まったくあの忌々しい『演義』のせいでとんだとばっちりよ!

 これは(暗君にされた)私のぶん!
 これは(悪役にされた)曹操のぶん!
 そしてこれは(全体的にどうでもいい扱いの)呉のぶんだっ!!」


劉禅(正史)怒りの鉄拳が孔明に炸裂。
『演義』思考であったために、孔明はこの劉禅の豹変が予測できなかったのである。

こうして孔明は策を立てる前に破られたのであった……