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ユールの祭日

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●●● 玉藻対森蘭丸

英霊によっては複数の分霊を持つことがある。
織田信長クラスともなれば、それは不思議のないことであった。

こういうときに苦労するのは、その関係者である。

信長の忠実な側近だった森 乱丸(もり・らんまる)は、とりあえず失礼にならないよう織田 信長(おだ・のぶなが)に挨拶を済ませてから、ひとつ深呼吸をした。

乱丸が現在忠義を尽くしているのは別の信長の分霊なのである。
しかし信長の分霊をぞんざいに扱うわけにもいかない。
こういう心配りがあったからこそ、信長の相手が務まったのであろう。

森乱丸の織田家に対する忠誠心の熱烈なることといったら、それはもう驚くばかりであった。

「拙者も織田家の人間だったことを知ってもらうためにはどうすればよいか。そうだ!
 長篠の戦いでの鉄砲部隊を再現をすれば!」

そんなわけで信長の許可を取りに行ったのであった。

さて控え室。
「乱丸、先に謝っておく。ごめん」
パートナー、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)である。
「何がですか?」
「次。黙ってこれを飲んで」
リアトリスは何やら怪しげな薬を差し出す。
七色の湯気がでている透明な液体だ。

乱丸はいろいろ諦めて、この液体を口にした。
「口の中に残るしつこい苦さと激辛にえぐみのある三重不協和音でございますね」
せっかくの美男子が台無しになりながら、必死で耐え忍ぶ。
「これで乱丸の力はきっと何倍にも増したはずだよ!」
「ありがどうございばす」
乱丸、舌が痺れている。


対峙するのは玉藻 前(たまもの・まえ)
「玉藻頑張れ〜お前が優勝したら以前からやろうやろう行っていた夜伽でも何でもしてやるよ〜」
樹月 刀真(きづき・とうま)はひどい棒読みの応援だ。

「我が優勝したら刀真が夜伽を了承してくれるか……ん、最初よりやる気が出てきた。
 勝ちたいと思える理由が出来た……お前には疾く死んでもらおう」

(やっぱり色ボケ狐か)
これはやる気を出した玉藻に対する刀真の感想。

「見やれ、われこそ三国伝来、白面金毛九尾の狐!」
玉藻は九尾の狐の姿に化身する。
化身というよりは、正体を現したというべきか。

玉藻前は元をたどると中国に生まれた妖怪、仙狐の類であり、時の皇帝を惑わせた。
さらには天竺にわたって同様の悪行を働き、最後に日本に渡りついに討ち取られたという。

狐となった玉藻は矢のように走り、乱丸の喉首を狙う。
乱丸は軍用バイクに乗って間合いを離そうとし、機を見て合図した。

パパパパパ!

合図を受けた従者(主に事務員)が、銃を乱射したのである。
銃弾は玉藻をかすめ、その毛がすこしばかり宙に待った。

「名付けて織田鉄砲三段撃ち。次!」

玉藻は逡巡する。このまま乱丸を狙っていては蜂の巣か。

ところが、どうも様子がおかしい。
事務員に代わって銃を撃とうとするのは密林の配達員だが、なにかモタモタしている。
長篠三段撃ちは、実際に行うことは難しかったらしい。

玉藻は恐れるにたらずと判断、そのまま逃げる乱丸を追って喰らいついた。

「あら、なかなかの色男」

がぶり。