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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 末弟の悩み ■
 
 
 
 今年の年末年始、ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)はロサンジェルスの実家で久しぶりに一家揃ってのんびり過ごしていた。前回の帰省時にジェイコブをパーティに拉致したティモシーは海外ロケに行っているということなので、今度こそ邪魔されることなく家族水入らずを楽しめる。
 パラミタにいる時には気が抜けない日々を送っているから、帰省したときくらいはゆっくりとした時間を満喫しよう。そう思っていたのだけれど。
 ちらりとジェイコブは末の弟のアレックス・バウアーに目をやった。
 さっきから話のノリが悪かったりぼんやりしていたりと、どこか様子がおかしい。今も皆が話に興じている横で、心ここにあらずで視線を遠くに飛ばしている。
 何か悩みでも抱えているのだろうかと、ジェイコブは末弟と2人になる機会を見計らって話を振ってみた。
「あんまり根を詰めて考え込んだら、思考が堂々巡りして、やがてそこから心に毒が染みこんでしまうぞ。そうなったら余計に苦しむことになる」
 ジェイコブに自分が悩みを抱え込んでいることを指摘され、アレックスは酷く動揺した。
 末弟のアレックスと次兄のジェイコブとでは歳が一回りも離れている。知的で大人しいアレックスとジェイコブとでは接点となる話題があまり無い上、ここ数年はジェイコブはパラミタで生活していて殆ど接点が無かった。
 けれど、普段接していないからこそ話しやすいのかも知れない。
 悩みを打ち明けろとは言わず、相談するもしないも当人の意思に任せてくれているジェイコブに、アレックスは胸の内にあることを話してみることにした。
「実は、将来のことで悩んでるんだ……」
 アレックスは学業とスポーツそれぞれで優秀な為に将来を期待されている。けれど本当は軍人ではなく医者になって人々を救いたい、というのが夢なのだ。
 だが周囲からの、特に父親と長兄からの期待が大きくて、アレックスはそのことを言い出せずにいる。もし言ってしまったら失望されるのではないか、と思うとどうしても躊躇ってしまう。
 そう思い悩むアレックスに、ジェイコブは頷いた。
「確かにお前は軍人には向いてないな……いちいちそんなことを考えてたら、戦場じゃ命取りだ」
「うん。向いてないことは自分でも分かってるんだ」
 なのに父も長兄も分かってくれない、とアレックスは重いため息を吐いた。
「すまんな。その原因の1つはオレにあるのかもしれん。今でこそオレはシャンバラ国軍の曹長だが、大学出た時、軍人じゃなくて警官を選んじまったからな。その所為もあって、余計にお前への期待が強くなったんだろう」
 バウアー家から優秀な軍人を輩出したい。その願いがアレックスの上に集中してしまったのだ。
「期待してもらえることは嬉しいよ。けど……」
 家族の期待はアレックスの夢とは違う方向をむいている。
 期待に応えて自分の道を曲げるか、それとも期待を裏切って自分の道を進むのか。どちらにしろアレックスには辛い選択となる。
「どちらにしろとはオレには言えん。だがな、これだけは覚えておけ。自分の人生を選ぶのは、親父でも兄貴でも伯父さんたちでもない。お前自身だ。……オレがいい見本さ!」
 軍人になれという周囲の期待を裏切って警官となり、そこでも協調性を欠いて今度は研修名目でシャンバラ教導団へ。それでもこの道はジェイコブが選んで、自ら歩いている道なのだ。
 アレックスはジェイコブを眺めていたが、やがてさっきよりも随分明るくなった表情で言った。
「もう少し考えてみる。それから自分の思いを父さんたちに話すよ」
「そうか。頑張れよ」
 最終的に何を選ぶのかを決められるのはアレックスしかいない。
 けれどその選択が、弟にとって良き物となるようにとジェイコブは心から願うのだった。