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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 祖父の願い ■
 
 
 
 年末年始に夫婦で旅行に行くので、実家の祖父母の面倒を見て欲しい。
 そう両親から頼まれた風森 望(かぜもり・のぞみ)は、実家に帰省して年越し準備を手伝うことにした。連れてくるつもりはなかったのだけれど、家にいても暇だからとノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)もついてきてしまった。
(まあ、猫の手よりは役に立つかも知れないですしね)
 せいぜいこき使うことにしようと考えている望の内心も知らず、ノートは浮かれた様子で辺りを見回している。
「やはり北海道は寒いですわね」
 暖かいコートに身を包んでいても染みこんでくる寒さにノートは身を縮めたが、望のほうは平気な顔で答える。
「いえ、暖かい方ですよ。10度もありますし」
「これで? 10度だなんて信じられませんわ」
 驚くノートに10度ですよと笑顔を向けつつ、望は心の中だけでつけ加える。
(勿論、氷点下10度、ですけれど)
 冬の北海道、あなどるべからず。
 
 
 実家に到着すると、祖父の風森 龍一郎が2人を迎えてくれた。龍一郎の後ろで束ねた髪はすっかり白くなっているけれど、180cmの長身をすっくと伸ばして立つ姿は矍鑠としている。
「お帰り、望。ノート殿は遠路はるばるよく来てくれたのう」
「ただいま。年末年始に旅行だなんて随分と優雅なことね」
 どこに行ったのかと望が聞くと、龍一郎はうむ、と答えた。
「竜華と清正くんはハワイだかに行きおった。そうそう、2人位はこさえてくるとか何とか言ってもおったのう」
「あの万年新婚夫婦……」
 父の清正と母の竜華の仲の良さは、端で見ていて恥ずかしくなるほどだった。今も変わっていないのかと呆れる望を、祖父は祖母の風森 日出子のいる台所へと追い立てた。
「お客人の案内はワシがするから、ほれ、お前は婆さんを手伝ってこい」
「人使いが荒いったら……」
 そう言って笑いながら、望は和服の上に割烹着をかけた。年末はやらなければならないことが山とあるから、祖母では手が回らないのを望はよく知っている。
 祖父に連れて行かれたノートが粗相しないかどうかを気にしつつも、望はて日出子の手伝いへと向かった。
 
 
 龍一郎はノートを客間に通すと、望の様子を聞いた。
 相手が祖父ならばプライバシーだとかは考えずとも良いかと、ノートは明け透けに最近の望のことを話した。
「色々ありましたけれど……使用人としては良くやっていると思いますわ。性格にはやや難ありですけども」
 身内を前にもノートはあっけらかんとそんなことを言う。
「アレの性格は相も変わらずか」
 龍一郎はそう言って笑うと、昔は引っ込み思案で大人しい女の子じゃったんじゃがなぁと付け加えた。
「引っ込み思案? 今の望からは想像も出来ませんわね」
「……アレの姉が亡くなってからじゃな、今のようになったのは」
 龍一郎の面差しがふと、辛そうにゆがめられた。
 
 望が小学校に入学しようという頃、裏山の洞窟の入り口付近で土砂崩れがあり、姉の霞が生き埋めになって死亡した。
 巽は霞に突き飛ばされて洞窟の外に転がり出た為に無事だった。
 望は洞窟の奥に進んでいた為に土砂には埋まらずに済んだけれど、入り口が埋まってしまった為に洞窟に閉じこめられてしまった。
 救出隊は望も霞と共に土砂に埋まったのだろうと想われていた為に、入り口付近の土砂の取り除きに重点が置かれ……その結果、望はかなり長い時間、真っ暗な洞窟内でたった1人、死と隣り合わせの恐怖にさらされることとなった。
 そのトラウマは今でも暗所閉所恐怖症という形で望に残っている。そればかりでなく、人間いつ死ぬか分からないなら今この時を楽しもう、という刹那主義に傾倒するきっかけともなった……。
 
「アレもアレの兄も、あの事故を境におかしくなった。前をまっすぐと見る事を恐れるようにのう」
 ただ強さだけを求め、罪を償うために人を助けようとしていた巽は、今はもう前を向いている。けれど、と龍一郎は沈痛な面持ちで台所のほうを見やる。
「問題はアレの方じゃ。斜に構えて、自分から前を見ようとせん」
 この時を楽しむと言いながら、望は逃げている。それでは本当の意味で楽しんでいるとは言い難い。
「ノート殿、望の事を宜しく頼む」
 龍一郎はそう頼むと、きっちりとノートに頭を下げた。
「今更ですわね。このノート・シュヴェルトライテ、貴族として、主として、そして友として、頼まれずとも助けますわ」
 ノートはそう答えた後、ちょっと苦笑する。
「もっとも、真正面からではその手伝いも断られそうですけれどね」
「そういう所まで分かっているノート殿だからこそ、望のことを託せるというもの。どうかアレを……」
 頼む、と龍一郎は重ねてノートに請う。
「はい。大船に乗った気で任せてくださって結構ですわ」
 その自信はどこから? というほどにノートは胸を張って龍一郎からの頼みを引き受けた。