|
|
リアクション
「このダンジョンは一年中温度差が少なく、珍しい植物が一杯あります。中でもとあるモノは『幻』と呼ばれていて、食べると非常に美味しいそうです。さて、それは一体何でしょ……」
衿栖がクエッションを言いかけた時、生放送ゆえ「きゃー!」と背後で悲鳴があがる。
「え? 何でしょう?」
「ゾンビだーー!」
飛翔兵のカメラがそちらにパンすると、ツアー参加者の前にゾンビがワラワラとやって来るのが見える。
「朱里の出番ね!!」
ゾンビの出現にいち早く飛び出したのは『迫力ある戦闘シーンを視聴者にお届けするため』という理由で参加していた茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)であった。梟雄剣ヴァルザドーンを抱えた朱里がゾンビの集団に飛びかかると、【煉獄斬】で蹴散らし始める。
「てぇぇいいやぁぁぁーー!!」
梟雄剣ヴァルザドーンを振り上げた朱里が、ゾンビの頭から足元まで綺麗に一刀両断する。
炎を纏った梟雄剣ヴァルザドーンに切断されたゾンビは、斬られた時の摩擦熱でその体を燃やしながら朽ち果てていく。
「死んでも恨まないでね? あ、元から死んでるか……」
「朱里さん何時から戦闘民族になったんですか?」
衿栖の問いかけに妖艶に微笑んだ朱里が振り返り、
「衿栖、朱里はいつだって殺る気まんまんよ!! うおおりぃやあぁぁーー!!」
【金剛力】で強化した腕力で、剣をなぎ払う朱里。あっという間に横に並んだゾンビの胴体がズレていき、それと同時にやはり燃え果てていく。
「燃えているな、朱里は」
「ゾンビもね」
道中、【超感覚】と【トラッパー】のスキルを駆使して、一同の前に張られた罠を解除してきた南大路 カイ(みなみおおじ・かい)が衿栖の傍にやって来る。優しい性格の彼にしては珍しく牙を剥き出しにしてゾンビ達に威嚇の姿勢をとっている。
「私も今回だけは全力でダンジョンの攻略をさせてもらうぞ!!」
「……カイ? 朱里に何か言われた?」
「衿栖、このダンジョンには私の家族の手がかりがあるというのだ」
北海道犬の獣人であり、生き別れになった妻と息子、娘を探し続けているカイは、またも衿栖の846プロ活動に参加する事になった時、当初はあまり乗り気ではなかったのだ。朱里の一言があるまでは……。
(ダンジョン突入前……)
卑弥呼の酒場の詩穂のテーブルで、『冒険屋』として受付を済ませたカイが朱里に尋ねる。
「朱里、本当にここに私の家族の手掛かりがあるのか?」
「本当よカイ。朱里の言う事が信じられない?」
「いや、疑っている訳では無いのだが……」
朱里はヤレヤレという顔で、カイに告げる。
「今、このダンジョンには『魔王軍』という危険な人達が潜ろうとしているのよ。いい、魔王よ? 魔王がカイの家族の事を知っている可能性って大きくない?」
「なにっ! 魔王軍だと!?」
正義感の強いカイが『魔王軍』に反応する。
「そんな危険な奴等がこのダンジョンに巣食っていたとは……私の家族の事を抜きにしても攻略せねばなるまい!」
「カイ!! 今こそ貴方の牙が吠える時よ!!」
「朱里! 共に戦おうではないか!!」
ガシリと握手をする朱里とカイ。大型スクリーン搬入のために動いていたレオンが通りかかる。
「カイ? 朱里にお手などしてどうしたんだ? 飯はさっき衿栖から貰っただろう?」