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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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「地下108階からの帰還、お疲れ様でしたー!」
 最後に一緒にVドラゴンと戦った『冒険屋』の仲間達と、健闘した『魔王軍』の面々、そして同じくダンジョン攻略に集まった面々は、貸切り状態の蒼木屋に移動していた。更に、この席には、卑弥呼の提案で蒼木屋の店員達や警備員の面々も集まっていた。
 勢ぞろいした一同を前に、グラスを持って前に立つのは女将の卑弥呼である。
「翌日は休みだけど、程ほどにね! ……それじゃ、明けましておめでとうー! カンパーイ!!」
 卑弥呼の音頭と共に、グラスを持ち上げた一同が一斉に叫ぶ。
「乾杯ーー!!」
 こうして、蒼木屋『卑弥呼の酒場』の大新年会及び打ち上げ会が始まった。
 
 料理の主役は、各テーブルの中央でグツグツと煮える鍋であった。中身は冒険屋のレンがダンジョンで取ってきた食材や、リーラとヴェルリアが発見した『まぼろしのキノコ』等がふんだんに使われている。
「あ、美味しい!」
 ミステリーハンターとして参加していた衿栖が鍋を食べて声をあげると、鳳明も頷く。
 二人を見た博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が具材をつぎ足し終えて笑う。
「衿栖さんは実況で、鳳明さんもラスボスとしてお疲れでしょうし。お酌しますよ」
「わ、ありがとうございます!」
「私が自腹切った『お取り寄せ、高級割烹の豪華鍋セット』10人分だもん、そりゃ美味しいよ……」
「……え?この高級鍋セット鳳明さんの自腹?」
 背中を丸めた鳳明がコクンと頷く。
「キノコ、美味しいです!」
「本当! 苦労した甲斐があったわね」
 採ってきたキノコを肴にお酒飲みながら冒険屋の皆と絡みながら鍋をつつくリーラとヴェルリアの横で、真司が鳳明を見て首を傾げる。
「確かに、美味いな……ところであそこでラスボス張ってた鳳明は何で落ち込んでるんだ?」
 博季が即座に鳳明のフォローをする。
「せ、せめてもの慰めじゃないけど、美味しく味わって食べて下さい……ほら、蟹! 殻剥いて差し上げますから……あ、衿栖さんも。熱の入った実況は聞いてて楽しかったよっ」
「ありがとうございます……博季さんのお鍋も美味しいですね。どんな材料が来るかわからないのに、ここまでお料理上手いなんて流石です」
「はい、折角冒険屋の皆さんがダンジョンから持って帰ってきた食材ですからね。僕も一生懸命上手く調理して美味しい鍋にしましたよ。何の食材が来るかはわかりませんでしたが、そこは家事は全て任せてもらってる主夫の意地、というものです」
 そう言う博季は、毎日余りものや冷蔵庫の中身で、違う料理をバランスよく、しかも美味しく料理を作る術に長けていた。寧ろ今回の鍋は、鳳明の鍋セットの下地があり、且つマトモな食材が多かったので、レパートリーが広く、且つ食材に対する知識と料理センスを持つ彼にしてみれば、余裕に近かった。
 大剣の魔術士博季・アシュリングは、本日は鍋の魔術士博季・アシュリングとして奮闘していたのだ。
「博季。わしは労わないのか?」
「……ああ、ヒラニィ姉さんは勿論丁重におもてなししますよー。隠しボスだったんですって? また面白そうな事やってきましたねぇ。僕も姉さんの活躍見たかったなぁ」
 博季の肩をチョンチョンと叩いた天樹がホワイトボードを見せる。
「あまり活躍してない……? 僕らの後ろに裏の裏のボスがいた……ですか?」
 ヒラニィが頷き、鍋から引き上げた魚を食べようとする。
「ああ、姉さんそれまだ食べちゃダメ! 入れたばかりだからッ! ほら、こっちが食べごろ! ……ってわあ、勢いよく食べたら火傷しますって!」
「Vドラゴンだよ。朱里達を地上まで一気に運んでくれたけどね」
 朱里がヒラニィ相手に悪戦苦闘する博季を見て朱里が言う。
 博季が同じ大剣使いで、密かに仲間意識持ってる朱里にお酌しに向かう。
「大剣かついで108階はきつかったでしょう……」
「まぁね……担ぐより、ゾンビ斬りすぎて肩凝ったよ」
「お疲れ様。朱里さん。……今度、手合わせしようね。負けませんよっ」
「朱里と戦いたいなら、今すぐでもいいわよ?」
 朱里の横でおすわりして鍋を見つめているカイが怪訝そうな顔をする。余談になるが、犬はネギやチョコレートといった与えてはいけない食べ物の他に、アツアツの食材も苦手である。
「ふはははっ! バイト代も貰えて、こんな美味い鍋も食べ放題とはな!」
「ジークフリート、一足早く戻った俺の代わりに冒険屋の諸君と共闘してくれたらしいな。感謝する」
 レンがジークフリートに酒をお酌する。
「ふはははっ! 冒険屋の面々も中々手ごわかったがな。俺達魔王軍の相手が出来る組織はおまえ達くらいだと認めてやろう」
「呉越同舟……というわけではないが、1年の終わりを気の合う仲間たちと過ごし、これからの1年に期待を寄せる。それが最高に楽しいと俺は思うのさ」
「おい、レン!」
 ザミエルが千鳥足でレンの元にやって来る。
「何だ?」
「マンボーを鍋に入れると旨いらしい。今夜は海鮮鍋と洒落込もうぜ!」
「……」
 レンがサングラス越しに見つめると、ザミエルがウーマを引きずっている。
「こらこら、そなた。それがしは食べ物ではないぞ? アキュート? なぜそのような顔でそれがしを見ている? 早く助けるのだ」
「……」
 体に包帯を巻いたアキュートがビールを飲みながら、アキュートをジト目で見ている。
「アキュート! マンボー食べていいか?」
「ザミエル……」
 アキュートが立ち上がる。
「まず、三枚におろすところからだな」
「アキュート。そなた冗談を言う程酔っているのか? 酒は百薬の長と言うが、飲み過ぎはいかんぞ?」
「……マンボウ、おまえはコクピットでも浮いているからダメージ無かったけどな。俺は延々と凄まじい枕でノック食らってる間、生きた心地しなかったんだぜ?」
 アキュートとウーマの会話を聞いていた理知と智緒が顔を背け、翔とアリサが不思議そうに見つめる。