校長室
年の初めの『……』(カギカッコ)
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●Find a way(3) 七枷 陣(ななかせ・じん)一行四名は、参詣を終えて石畳の上を戻っていく。 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は歩きながら、寂しげに言った。 「なんか、心に穴が開いちゃった気がするよ」 結局この日、彼らは大黒美空なしで参拝を済ませた。 一時期、こういったイベントごとは大抵、彼女と同行したものである。どこかずれているが人間性を取り戻していく美空に、かつの澪(オミクロン)やクシーの面影を見たりして、既視感を得たりもした。 それが突然、別れを味わった。 イルミンスールの事件でも、美空の遭遇情報は伝わってくるのに一度も会えないまま終わった。あの夜の別れを最後に、美空については伝え聞くことしかできていないのだ。 「美空ちゃんに避けられてるのかな。嫌われたとは思いたくないけど……」 「きっと今の彼女にとっては、私たちが望んでいるささやかなことは、ストレスや負担にしかならないのかもしれません」 小尾田 真奈(おびた・まな)が応じた。 「茨の道だと思いますし、他の方からの偏見等も数多くあることでしょう。それは一見、酷薄な仕打ちを強いることでもあります。ですが、だからと言って、すべて切り捨てるのはあまりにも……寂しく思います」 ここまで行ったところで真奈は足を止めた。 風森望がノート・シュヴェルトライテの手を引き、小走りで一行を追い抜いていったのだ。「お土産を紛失してしまったので……」という言葉が聞こえた。なんとも忙しそうだ。 まさかその土産を、ノートが大黒美空に進呈したという事情は、さしもの仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)でも察知はできない。 「いくらか好意的に考えれば、我々に会ってしまえば甘えが出てきて『決意』が挫けると、そう決めているのかもしれん。彼女に澪の心が残っているとしたらありえる話だろう」 澪もそういう性格だった。自分にひたすら厳しく、他人を頼ろうとしない……それが結局、澪の死を早める結果になったのだが。 「人であらんとする心とクランジたらんとする機械の心、あるいは、オミクロンでありクシーである二つの人格、そうした衝突がエラーとなって苛むのだろう」 磁楠はそれ以上語らず、促すように陣を見た。 陣は口を開いた。やはり美空について話そうとすると口調が重くなる。 「美空と一通り、腹の中を割って話し合ったらなんとかなると思うんやけどな……。 レンさんから一通り聞いたけど彼女が言う矛盾した存在云々、その起因は間違いなくオレにあると思う。できることなら、謝りたい。 何とかしたい、その一念だけで手術しきったけど、Ο(オミクロン)でありΞ(クシー)である、それは同時にΟじゃなくΞでもない。そしてオングロンクス(ΟΞ)であり大黒美空でもある……こんがらがって当然なんだよな。 これに、人でもあり機晶姫でもあるというクランジの存在そのものの矛盾が入って、頭の中がめちゃくちゃになってるんだろう」 けれど、矛盾を無理矢理解くことが唯一の解決ではないということ、それを教えてやりたい。 「どこにいるんだろうな、美空ちゃん」 リーズが言った。彼女が死んでいるかもしれないとは、つゆほども思わない。思いたくもなかった。 「できることなら一緒に食べ歩きして、物作りの体験コーナーとか行ってみたかったな」 「物作りか……それはいいな」 リーズの言葉を聞き陣は思った。戦って破壊することを主体性とするクランジでも、何かを創ることができる、それを教えることができると考えたからだ。もしいつか、それがいつになるかはわからないがいつか、美空と再会がかなったら提案してみたい。 夜のとばりはとうに降り、都会ゆえか星は、心細い程度の光を投げかけるだけである。 けれど黒雲で空を閉ざさない限り、どんなにか弱くとも星は見えるものだ。 「何となくやけど予感する。きっとすぐに美空とは、またどこかかの同じ舞台に立つんだろうと。 美空の傍に立っているのか、別の誰かの力になっているのか、それともそれ以外の何かをしているのか…それは分からないけれどな」 陣は振り返った。人混みの中、鳥居の陰、店と店の間の暗がり、そのどこかに美空はいて、こちらの様子を窺っているかもしれない。あるいは、奇跡的な偶然で近くを通りかかっているかもしれない。 「美空は『Long Good-bye』って書き残したけど、そんなのは嫌やな。オレなら、永遠にさようならなんて使わず、あいつ風に言えば『See U later(また今度な)』って残したやろな……って、ちょっとキザか?」 「いいえ」と、真菜は陣の腕に、自分の腕を絡めた。「素敵です」 「良いと思う! ボクも気に入った」陣の反対側の腕をリーズが占拠する。 「おいおい」 両手に花の状態で陣は笑った。 「こうなると、空いたオレの首のところに誰かが抱きついてくれると絵的にはエエ感じやったりするな……」 「なるほど首を絞めてほしいわけだな。素手で絞殺がいいか、腕で首の骨を折りに行くほうがいいか」 ポツリと磁楠が呟いた。 「あ、いや、元日のジョークやから、元旦ジョーク!」 沈みがちだった空気がこれで少し、軽くなった。