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海の都で逢いましょう

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●Crossroads

 並んで歩く辻永 翔(つじなが・しょう)桐生 理知(きりゅう・りち)、二人は恋人同士だ。
「なんか色んな人がいるね……はじめましての人が多いな〜」
 人見知りする性格でもないが、やはり緊張しないと言えば嘘になる。主に天学が中心とはいえ、他校生の姿も決して珍しいものではなかった。それが皆、一同に海岸で、肉の焼ける香りに包まれつつバーベキューに興じているのだ。なんともカラフルな光景だった。
「翔くんはパイロット科代表として挨拶するの?」
「いや、その予定はないけど……」
「なんだ……聞いてみたかったかも」
 すると、うーん、と後頭部をかきながら彼は言う。
「けど俺、たいしたこと言わないと思うな。人前で話すのも得意じゃないし……」
「それでもいいの。みんなの前で話す翔くんのこと、見たかっただけだから」
「参ったな……だったら、そんな機会があれば、理知に隣にいてもらおう」
「えっ、恥ずかしいよ……」
「俺だって恥ずかしいけど……隣にいるのが理知なら例外、平気だな。もしものことがあったら頼んでいいか?」
 うん、と理知は小さくうなずいてみせた。
「さて、腹も減ってきたし、せっかくだからできれば他校生と交流してみようか」
 との翔の提案で、二人揃ってついたテーブルには、イルミンスールの制服を着た先客があった。
「辻永さん?」
「久しぶり」
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)であった。それほど深い付き合いではないものの二人には面識がある。同じバーベキューコンロにつくことにした。
「交流会といえば、去年の去年の海京マリンフローラを思い出しますね〜」
 確かに、と応じて翔は、
「紹介してなかったかもしれない。彼女の桐生理知だ」
 と近遠に理知を紹介した。翔が何気なく口にした『彼女』という言葉に、ほのかな嬉しさと照れの混じった暖かい炎が胸に宿るのを感じながら理知は頭を下げた。
 中性的な容貌の近遠は、そこにいるだけで不思議に人を引き寄せるような魅力を持っているが、そのパートナーたちもその点ではマスターに劣らない。
「ユーリカと申しますの」
 頭を下げたのは、豊かなプラチナの髪をした少女で、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)と名乗った。育ちの良さそうな物腰と洗練された言葉使いを体得しており、それでいてフランス人形のように可愛らしい。理知もつい、彼女には優しくしたくなってしまう。近遠の手引きで、彼らはそれぞれ挨拶した。
 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)も挨拶する。
「よろしく頼む」
 彼女は明るい黄金の髪を有し、騎士らしく凛然とした口調である。スタイルの良さが印象的だった。きりりと結んだ唇が勇ましい。なれるのであればこんな女性になりたい……と理知はふと思った。
アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)でございます。お世話になります」
 近遠と同行する三人目のパートナーが丁寧に頭を下げた。桃色の髪、華奢な体躯、どこか現実離れした雰囲気があるが物腰は柔らかい。彼女は明るいのだが、どこか陰があるような印象を理知は受けた。アルティアには哀しい過去があるのかもしれない。
 かくて彼らはバーベキューを囲み、本格的に食べ始めるのだ。
「火傷に気をつけてね」
 と言いながら、理知が率先してどんどん焼いていく。
「手伝う」
 まっさきにそう言ってくれたのはイグナだったが、勝手が分からないらしく四苦八苦していた。
「食材は豊富、目移りしそうでございますわね」
 アルティアは目を輝かせつつ火加減を調整した。
「これもメイドの仕事、ですわ〜」
 言いながらユーリカは配膳を志願した。
「俺は……」自分が焼いていた串が、黒こげの炭になったのを見て翔は苦笑いした。「あまり手出ししないほうがよさそうだな」
「失敗は成功の母、気にすることはありませんよ。ほら、そう言ってる間に、そこのソーセージもいい焼き色になってきましたよ」
 近遠も微笑を浮かべつつ参加していた。
 話は弾んだ。近遠も翔もそれほど口達者なわけではないが、イルミンスールの生活について理知が問い、ユーリカやアルティアも天学について問う。イグナも魔法学校で教える学科についていくつも質問した。
 会食しながらの交流というのはいいものだ。それが、ボリュームたっぷりのバーベキューと言えばなおさらだろう。じゅうじゅう焼いているだけでも楽しく、熱いのをふうふう吹いてその場でほおばれるのも嬉しい。そんな過程を経て理知は、近遠とも、そのパートナーたちとも打ち解けてきたように思う。翔が見せる態度は控えめだが、それでも近遠との関係は深まったのではないか。
 やがて半刻も立つころ、思い出したように近遠が言った。
「ところで今日は、水着参加が推奨と言うことでしたが……ボクは持っていないので普段の制服で参加しました」
 しかし制服姿なのは近遠だけで、そのパートナーはそれぞれ水着なのだ。ワンピースのイルミンスール女子水着の上にパーカーを羽織って、腰にパレオという出で立ちはユーリカもイグナもアルティアも同じ、しかしイメージ色はそれぞれ違って、ユーリカは朝焼けのようなオレンジ基調の模様付きのパレオ、イグナのパレオは目の醒めるような蒼を金で縁取りしたもので、アルティアはその髪と同じ、綺麗な桃色に花柄という組み合わせだった。
「いいんじゃないか? まあ、俺は一応、海パンだけは履いてきたけど」
 という翔の言葉を聞いて、「奇遇〜!」と理知は声を上げた。
「私も、水着を下に着て来たんだよ!」
 言うなり彼女は、
「バッチリ!」
 と自分のスカートをまくってその下を見せた。
「わっ! いきなり……お、おいっ!」
 明らかに翔がうろたえるのを見て理知は吹きだしてしまった。
「大丈夫、下は学校指定水着だよ〜」
「だ、大丈夫って言ってもなぁ……」
 刺激的な展開にどぎまぎしたのか、彼はつっかえつっかえ返答したのである。
「そろそろお腹も一杯になってきたし、翔くん、泳がない? みなさんも?」
「我は……近遠さえ良ければ、だが」
 イグナが視線を流してきたので、
「どうぞ。元々ボクは、泳ぎは得意ではありませんし」
 近遠が了解の意を告げると、たちまちユーリカ、アルティアも歓声を上げた。
「それじゃみんなも泳ごうよ」
 理知はもう、制服を脱いで水着だけになっている。そして翔の手を取り急かした。
「行こうよ! 私は泳ぎは得意だよ!」
「わかったわかった。じゃあ一泳ぎするか。すまないが近遠は火の番を頼む」
「泳いだらお腹が空くから、また食べられるよね!」
 ぱっと翔も水着だけになり、理知と手をつないだまま駆けだした。