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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

リアクション


・Chapter9


『全機、大気圏突破を確認。我々「アルファ小隊」の破壊目標は、衛星α。これより状況を開始する』
 小隊長のダリアの指示に従い、アルファ小隊が編隊を組んだ。
『敵部隊の布陣を確認。小隊全機、データを送る』
 中衛に位置するアイビス・クルセイダーから通信。敵機のデータが小隊間で共有され、管制室で観測されたデータと照合が行われた。
「こちらのレーダー上から確認できる数は、モスキート一機、シュヴァルツ・フリーゲIIが二機、シュメッターリンクIIが十機ですか」
 枳首蛇のコックピットの中で、叶 白竜(よう・ぱいろん)は確認した。機体のレーダーに映っていないのは、シュヴァルツ・フリーゲIIが二機、シュメッターリンクIIが十機だ。
「ステルス装置を起動している機体に気をつけなければいけませんね。とはいえ、完全に不可視であっても、わずかな空間のズレから位置は特定可能です」
「地球との通信が途絶えないよう、気を付けてくれよ。リアルタイムで更新されていればステルス機も捕捉できるけど、データが古かったら致命的だ」
 世 羅儀(せい・らぎ)から指摘を受けた。指揮通信車両として、この小隊での管制室との連絡を受け持っているのがこの機体だ。
「とりあえず操縦は任せてくれ。人型に変形する時は、合図を頼む」
「了解です」
 羅儀が操縦に、白竜が通信と銃撃に専念する。
 小隊での担当は、管制室からのデータの受信と共有が【枳首蛇】、前衛での敵機分析が{ICN0004638#ジェファルコン特務仕様機}、中衛が【アイビス・クルセイダー】、後衛および他三機からの情報を統合した上での敵機の行動予測がニケとなっている。これにより、強固な連携を取ることが可能となっているのだ。
(数で不安があるなら、こちらは情報力で勝負ですよ)
 衛星α、β、γは距離が離れており、必要に応じて他の衛星に救援に行くというのはそう容易なことではない。対し、敵は数の多さとステルス性により、持ち場以外の衛星を狙う機体を急襲することができる。
「こちらは戦力を分断して臨んでいるのではなく、人工衛星α、β、γを守る全機体を相手にしているという認識であたりましょう」
『同感だ。リアルタイムで更新され続けるデータからは注意をそらすな。それと、ジャミングには気をつけろ。機体性能、パイロットの熟練度ではこちらが勝っているという自負があるが、敵の数はこちらの三倍だ。総合力では互角だが、こちらの武器である情報力が欠けると、一転して不利な状況になる。そして』
 ダリアが念を押す。
『今回の作戦の目的は衛星の破壊。敵の殲滅ではない。それを忘れるな』
 最初に立ちはだかるのは、一機のシュヴァルツ・フリーゲIIと五機のシュメッターリンクIIだ。
「援護します」
 飛行形態を維持したまま、白竜はツインレーザーライフルのトリガーを引いた。機首から放たれた光条が敵陣へと飛び込む。大気中とは違い、一定の距離で消滅するまで威力が減退することがない。そのため、ビーム兵器の威力は地球やパラミタ上に比べ、大きくなる。
(……実弾を使う場合は、必ず当てないといけませんね)
 実弾では初速を失わないため、外したらそのままスペースデブリとなり軌道上を漂うことになる。そうなることはできる限り避けたい。
 エネルギーの残量に留意しつつ、白竜は援護を続けた。
「シュメッターリンクII、半壊により一機離脱」
 まずは一機。絶対命中、外すことはまずない。ちょうど前衛では、ダリアの駆る【マモン】とシュヴァルツ・フリーゲIIが白兵戦に突入しようとしていた。
 大型のビームサーベルを構え、黒い機体がそれを振るう。
『遅い。それと、お前の相手をしている暇はない。道を拓かなくてはならないからな』
 【マモン】がシュヴァルツ・フリーゲIIを、すれ違いざまに上下に両断した。機体が爆発し、コックピットらしき物体が地球へと落下していく。
『なるほど、胸部のコックピットを直接破壊しなければ、脱出装置として機能するのか。テロリスト御用達とはいえ、案外生存率が上がるようにはしてあるんだな』
 続けざまに【マモン】はシュメッターリンクIIの四肢を落とし、その機体を地球に向かって叩き落とした。
『私が敵を引き付ける。その間に、衛星に行け』
 陽動を買って出る【マモン】だが、小隊長一機に任せるわけにはいかない。
「羅儀、衛星の解析は任せますよ」
 【マモン】の後方から迫るステルス機の位置を確認。白竜は即座に銃口をそちらへ向けた。
(一機だけではありませんか!)
 ステルスモードを解除しながら、アルファ小隊を急襲する機体群がある。
『どうやら、ステルス装置を起動したままだと攻撃が行えないらしい。それに』
 星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)の乗る【アイビス・クルセイダー】が二挺の銃剣付きビームアサルトライフルを機体群――シュメッターリンクIIに向け、
『装置が解除される瞬間は隙だらけになる。向こうは、こちらが位置を特定できないと思っているから……な!』
 【マモン】との距離が近い機体から順に、【アイビス・クルセイダー】が行動不能にしていく。無論、サブスラスターを噴射して反動制御を行っていた。
『さて、これで第一ラインは突破だ。だが……この先に、厄介な奴がまだ残っている』
 ダリアの言う「厄介な機体」といえば、一つしかない。
「……モスキートですね」
 はっきり言って、無理してまで倒す相手ではない。だが、そう簡単に通してくれない相手であることも事実だ。
「白竜、衛星の解析は完了した。反射板にはビームが効かない。全て跳ね返してしまう。それも、威力を増幅した上でだ。衛星本体も、万が一レーザーが反射板からズレた場合に備えて、対策が施されている。射撃武装での破壊はやめた方がいい」
「白兵武装が届く距離まで接近しなくてはならない、ということですか」
 すでにアルファ小隊だけでシュメッターリンクが十機ほど倒されているが、敵が衛星に張り付いて防衛することになったら面倒だ。
「……一機でも衛星に手が届く距離までいければ、破壊は可能です」
 射撃体勢を維持したまま、白竜は【枳首蛇】での援護を続けた。

「つまり、どのみちあのデカブツを突破しなきゃいけねーってことか」
 衛星兵器の分析データを受け取ったフレスヴェルグを駆る斎賀 昌毅(さいが・まさき)は、顔を歪めた。
「差し当たって厄介なのは、やっぱりあの有線ビットですね。接近すればエネルギーを吸い取られかねませんし、中途半端な距離だとビームの餌食です。ただ、あれを破壊しさえすれば、あとはエネルギー効率の悪い主砲だけです」
 マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)がモスキートのデータを昌毅に伝えてくる。最優先の攻撃目標は決まった。
「射撃はこっちの領分だが……接近は【シュヴァルツァー・リッター】次第だな」
 世界に三組しかいない『ライセンス持ち』の一組。噂によれば「オールラウンダータイプ」である。MVランスとガトリングシールドを装備しているところを見ると、どちらかと言えば近接寄りか。
(しかし、まさかこんなところで出会えるなんてな)
 イコンの自由所有が認められている、イコン乗りの憧れの存在。無論、地球に不利益をもたらす行為は容認されないが、それでも好きに機体を動かせるのはうらやましい。今はイコン国際条約の発効から一年しか経っていないこともあってまだ数が少ないのだろうが、いずれは自分もライセンス持ちになりたい。
「【シュヴァルツァー・リッター】、モスキートの無力化に当たり、前衛を担当してもらいたい。頼めるか?」
『承知。私があの機体の注意を引きつけよう』
 モニターに、【シュヴァルツァー・リッター】のコックピットが映し出される。ヘルメットで顔が見えないが、声と体格から若い男であろうことが分かる。
『有線ビットの照準が全てこちらに向くよう、誘導します。敵の隙は二つ。一つは、私たちが有線ビットを引き付けている時。もう一つは、主砲発射の時。有線ビットと主砲は同時に運用できない仕様になっています』
 サブパイロットの声が聞こえた。こちらは女性である。
『敵機接近。シュヴァルツ・フリーゲIIです』
 【シュヴァルツァー・リッター】にビーム式ガトリングシールドで牽制しつつ、シュヴァルツ・フリーゲIIが迫る。漆黒の機体同士が対峙した。
『どうなさいました?』
『……気に入らんな。こんな機体が、シュヴァルツ・フリーゲの後継機であるというのは』
 MVランスと大型ビームサーベルが交叉する。敵機が振り下ろすよりも早く、ランスがシュヴァルツ・フリーゲIIの胸部を貫いていた。
『機体がダサいのもそうだが何より、槍ではなく剣を使っているのが気に入らない』
『あまりそういうことを口にしていると、バレますよ』
『それならそれで構わん。伏せておいた方がいいというのは、地球と国連の都合でしかない』
 シュヴァルツ・フリーゲIIの機体からランスを抜き、【シュヴァルツァー・リッター】はモスキートへ向かってブースターを起動した。
『援護は任せる。このまま進むぞ』
「了解」
 たった今『ライセンス持ち』の実力を目の当たりした昌毅だが、
(さっきの突き……まるで見えなかったぜ)
 あまりにも速過ぎた。【シュヴァルツァー・リッター】でこれなら、白兵戦地球最強と言われる『ライセンス持ち』の【アイスドール】はどうなるのか。
(しかし今の話を聞いた限りじゃ、『ライセンス持ち』の個人情報が秘匿されているのは、どっかには知られるとまずいからって理由もありそうだな。地球側に害をなす存在ではないわけだから……シャンバラか。まあ、これまで戦った敵の中には凄腕のパイロットが何人かいたわけだし、『ライセンス持ち』がその中の誰かってことも……)
 裏を返せば、地球のために貢献でき、実力がある者ならばライセンスの発行対象になるということだ。たとえ、元反シャンバラ派だったとしても。
 あるいは、ライセンスというのが実は、過去にシャンバラに対し危害を加えた者を地球側に縛り付けてシャンバラに干渉させないようにし、同時に地球側の戦力として確保するという目的のために存在するものなのかもしれない。
「昌毅、何をぼーっとしてるのですか。憧れに出会ってその戦いぶりに感激する気持ちはわかりますが、任務を忘れてはダメですよ」
「ああ、悪い」
 まあ、今はあまり考えても仕方ない。ライセンス取得に関しても「パイロットとしての実力」の基準ははっきりしているわけだし、自由にイコンに乗るための唯一の手段である以上、そこを目指すことに変わりはないのだから。
 なお、その基準というのは「テロリストがイコン部隊を展開しているという前提で、単機でそれを制圧可能か」である。このイコン部隊は三個中隊規模を想定しているため、数で言えば36〜40機となる。このことからも、いかにライセンス取得のハードルが高いかが分かるだろう。
「今はとつてもない差があるかもしんねーが、このまま置いてかれっぱなしになる気はないぜ。それじゃ、道を拓きに行きますか!」