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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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仲秋の一日~美景の出で湯、大地の楽曲~

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第3章 温泉日和

『涼風の候、イングリット様にはますますご壮健のこととお慶び申し上げます。
ようやくしのぎやすい季節となりましたが、いかがお過ごしですか。

(中略)

 つきましては、ご都合の良い日時をお教えください。
 こちらからお迎えに上がります。
 では、くれぐれもお身体ご自愛ください』

「……で、どうして表書きが挑戦状なのかしら?」
 待ち合わせの場所でイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)はもう何度も首を傾げていた。
 差出人は結城 奈津(ゆうき・なつ)
 ほどなくして奈津がやって来た。
「よぅ、イングリット! 待たせたな」
「いえ、そんなことはありませんわ。奈津とまた会えて嬉しいですわ。お元気でしたか?」
「もちろん。あんたも元気そうで何よりだ」
 話ながら、二人はシャンバラ大荒野を歩く。
 学校のことや最近あったおもしろいと思ったことなどをおしゃべりしながらしばらく歩いた後、奈津はゆっくりと足を止めた。
「ん、ここら辺でいっか」
 周りは雑草もない荒野だ。
 奈津の意図がわからず、イングリットは不思議そうにした。
 奈津は少し照れたように話を続ける。
「やー、こういうの勝手がわからなくてさー。ちょっと緊張したから、散歩に付き合ってもらった」
「はぁ……」
「あ、ちなみに言っておくけど、今日はあたし一人だ。師匠はいないよ」
 師匠とは、奈津のパートナーの魔鎧のことだ。
 イングリットはいまだ首を傾げたまま。
「プロレスラーとしてじゃなくて、結城奈津個人として付き合ってほしい。そっちはどう思ってるか知らないけど、割と相性いいと思うぜ、あんたとあたし」
 突然の告白にイングリットの頬がほんのり赤くなる。
「あ、あの、わたくし、そんな急に……」
「ん? あれ? イングリット……? まあいいや。とりあえず、やってみりゃわかるさ!」
「そ、そんな強引な……!」
 うろたえたイングリットの目に映ったのは、今まさに自分にラリアットを食らわそうとしている奈津の姿だった。
「きゃあ! ななな何ですの!?」
 身をよじってかわしたイングリットが、目をまんまるにして叫ぶ。
「何って、あたしの得意技、知ってるだろ」
「ず、ずい分過激な告白ですのね。それとも、プロレスラーの方は皆さんこういうお付き合いの仕方ですの?」
「はぁ? ……あれ、またあたし何か間違った?」
 両者の食い違いに、ようやく奈津が気づいた時、イングリットが腕まくりをして身構えた。
「よろしいですわ。わたくしもバリツでお答えしましょう!」
「何かよくわかんなくなったけど、やる気になってくれて嬉しいよ!」
 勢いをつけた奈津のフロント・ハイキックを、イングリットは足首を掴んで地面に叩きつけようとする。
 しかし、奈津は素早くもう片方の足をイングリットの首に巻きつけようとしたため、手を引いて距離を取った。
 その後、奈津が膝を使った打撃と見せかけて絞め技にいこうとしたり、イングリットが投げ技を仕掛けようとしたが、なかなか決まらなかった。
 双方、何度かの技が入っても決定打にならない状態がどれくらいか続いた後。
「やぁっ!」
 イングリットの投げ技が奈津を地面に沈めた。
 しかし、イングリットも奈津の猛攻にクタクタだったため、そのまま大の字に寝転がった。
 二人の荒い息遣いだけがする。
 先に言葉を発したのは奈津だった。
「……っはぁー、楽しかったな! たまにはこういうのもいいだろ? またヤろうなっ」
「ふふふっ。あなたは本当に突拍子もない方ですわねぇ」
 奈津とイングリットは、しばらくそのまま笑い合っていた。
 やがて、身を起こしたイングリットが奈津を誘う。
「この先に露天風呂があるそうですわ。さっぱりしに行きませんこと?」
 奈津はにっこり笑って、差し出された手を取った。