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「(なんだかよく分かんなかったけど)魔王真人! 見たでしょう!? この世に悪の栄えたためしなし!! すぐにあなたもあんなふうに倒してあげるんだから首を洗って待ってなさい!」
 一応セルファとしては一生懸命勇者風宣言をしようとしているつもりなのだが、相変わらず残念なセリフ回しである。

「……キスでですか?」

 余裕のほおづえをついたままくすりと笑う魔王真人に、ボッとセルファの全身が染まる。


「ばっ、ばばばばばばかねっ! 私は勇者なんだから、剣と仲間でボコってに決まってるでしょ!!」


「ああら。その程度で真っ赤になっちゃって、かわいいったらないわね。
 でも残念だけど、そんなことさせられなくてよ、お嬢ちゃん」
 銀のロングヘアーを輝かせながら闇から現れ、真人の座する椅子の横についたのは、美女と見まがうばかりの美貌の持ち主ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)だった。

「かわいいお嬢ちゃんのお願い事ならかなえてあげたいんだけど、魔王真人さまにはぜひとも新しい世界を創世していただかなくてはならないの。このアタシのためにもね。
 それに、セレンフィリティ1人倒したくらいでいきがらないことね。クク……やつは魔王軍四天王の中でも最弱…」

 ――受け手がいません、レクイエムさん。



「ヴェルが2人目の四天王って、なんだか残りの2人にもちょっと興味が沸いてきたんだけど、これってやっぱりヤバいわよね、パパーイ」
「いくら街なかを捜しても見つからないと思っていましたら、やはりここにいたんですか」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)の言葉を受け、ここにだけはいてほしくなかった、との意味を込めて、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は深々とため息を吐き出す。

「あれは一体自分を何だと思い込んでるんでしょうね?
 まあそれはともかく、あのようなことを口走るようでは正気を失っているのはたしかです。早急に手を打たなくては。こんな大勢の見ている前で恥をさらすのはごめんです。手伝ってください、シシィ」
「ええ、パパーイ」


 しかし2人が仲間の後ろで会話している間も、現場は動いていた!


「後ろにいる全員もまとめてこのアタシが始末してあげるわ!」
 宣告したレクイエムが取り出し、高々と掲げたのは1つの無線マイクだった。
 いつの間に用意したのか――多分、セルファたちの到着を待ってる暇な時間と思われ――七色のスポットライトがレクイエムを照らし、ミラーボールがゆっくりと回転を始める。


「みんな聞いて! アタシの歌を!! アタシを愛してくれるみんなに心も魂も捧げて歌い上げてみせるわ!!」
 そしてレクイエムは幸せの歌を熱唱した。

 とたん、周囲の闇の中から歓声が上がる。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ヴェルレクさーーーーーーん!!」
「キャーーーーッ! ヴェルレクさますてきーーーっ!!」
「ああっ! 歌に集中するヴェルさま。なんて美しいのっ!!」
「「「L・O・V・E LOVELYヴェルレク!!」」」

 大方の方が予想済みと思いますが、ファンの集いです。


「……これで一体何をしたいの? あの人」
 スキップフロアで展開している光景に、退き気味につぶやいたのはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)である。
「さあ…?」
 ミスノ・ウィンター・ダンセルフライ(みすのうぃんたー・だんせるふらい)も横で首をひねる。

「あ゛?」
 と、2人の会話をしっかり聞きつけたモヒカンが、すごみを利かせながら振り返った。
「おめーら、オレたちのヴェルレクさんにケチつける気かよ?」
「んだと?」
 すぐ近くでやはり熱狂していたソフトモヒカン野郎も振り返る。
「おう。こいつ、ヴェルレクさんをけなしやがったんだ」
「んだってえ!?」
 ボリュームを絞らない2人の声は、あっという間にほかの者たちにまで届いて、やがて全員がリカインたちの方を振り返った。
 皆一様に険悪な表情を浮かべている。
 こうしてあらためて見ると、結構な人数が集まっていた。どのくらいかというと、レクイエムや真人のいるスキップフロアまで二〜三重の壁になってるくらい。

「ちょ、ちょっとー。べつに僕たち、歌が悪いなんて言ってないよ! ただ何考えてんのか分かんないって言っただけで!」
 全員から敵意の視線にさらされて、さすがにミスノも「まずったかも」と思ったらしい。あわてて弁明をするが、リカインはすでに戦闘モードへ移行させ、いつでも対処できるよう軽く体勢を整えている。

 レクイエムが冷ややかな笑みを浮かべた。


「アタシのこと、ばかって言いたいのね。ああ、涙が出そう。
 みんな、アタシ傷ついちゃったわ。カタキをとって」


「ヴェルレクさんを泣かせるなんて!」
「なんて血も涙もないやつらなんだ!!」
 扇動された男たちが口々に悪態をつく。彼らが暴徒に変わるのはあっという間だった。

「やっちまえ!!」
 
「フィス姉さん、ミスノ、相手は一般人だからやりすぎないように注意してね」
 一応ことわりを入れたのは、それぞれ違った意味で2人ともやりかねないと思ったからだった。
(いつもならミスノだけでよかっただろうけど、今回ばかりはね)
 そして自身は七神官の盾をかまえる。一般人が相手ならこれで十分。

 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はラノリウムやメガホンを振り上げて向かってくる男たちを撃退するリカインの死角となる左側面から後方を護って戦っていた。

「コノヤロウ! よくも仲間を!」
 もはやアイドル・レクイエムの願いをかなえるというだけではない、倒されていく同志の姿にすっかり腹を立て、気炎を上げて向かってくる男の腹に一撃を入れ、気絶させていく。
 男たちはいつも相手をしているような、戦い慣れた者たちではないため、その攻撃をかわすことも手加減することも容易だ。
 みぞおちに入れた肘で気絶した男性が床で頭を打たないよう気をつかってすべり下ろしながら、シルフィスティは男たちの隙間から見えるレクイエムへと目を向けた。

 していることははた迷惑だが、もし本当に過去を思い出せたのなら、彼がちょっぴりうらやましかった。

 セルファに声をかけられる前、実はシルフィスティたちもフードマントの占い師に声をかけられていたのだ。
 うさんくさかったけれど、ものは試しだからとリカインにもすすめられ、術をかけてもらったものの、結局何も思い出すことはできなかった。
「おかしいですねー」
 首を傾げつつ去って行く占い師の後ろ姿を見送って、初めて自分がどれほど期待していたかを自覚した。

「……そりゃあ今の彼と立場を変えたいとは思わないけど、でも」
 ここにいる人たち、みんなかかってるのに。フィスだけ駄目だったなんて…。
 なんかズルい。

「これは八つ当たりよ。うん。自覚してる。でも、やりすぎなかったらいいわよね」
 自分の言うことにうんうんうなずいて、シルフィスティはレーザーブレードの柄を握り直した。そして目についた男性の頭に柄頭部分を思い切り振り下ろす。


 そしてもちろん、この騒ぎのなかには魔王側についた(?)者たちもまぎれ込んでいた。


「おいそこのモッヒー! テメェそんだけ暴れて小銭の音がしないってことは、札持ちだろ!」
 集まった一般人の大半がヒャッハーどもと知ったクロ・ト・シロ(くろと・しろ)は、まるでヒツジ牧場に入り込んだ狼のごとく手当り次第にとびかかり、因縁をふっかけてはサイフを取り上げ確認している。

「オラー、サイフ見せてみろよ、サイフをよ!」
「ああ? そんなもんあるわけねーだろっ!」
「ハア? テメェ尻サイフかよ! チッ、これだからモッヒーは。
 はいはい。テメェらには選択肢が2つありまーす。1、自分で出す。2、オレに殴られてから自分で出す。さあどっちがいい?」
「ざっけんなチビ!!」
 初見でナメられるのはよくあること。クロ・ト・シロは嗤って旧神バーストを呼び出す。
 札が入っていれば――まあ、モヒカンたちが札を持っていることはほぼないに等しかったが――旧神バーストに燃焼させた。

 また他方では。

「おまえ! そんな格好では全然だめだ! あたしがコーディネートしてやる!」
 おしゃれな女性が視界に入るやいなや指をつきつけずんずん迫り、手にしたミリタリー・シルバーナイフでかたっぱしから服を切り刻んでは結び、無人島風超ビキニか縄文人スタイルに変えていく麗華がいた。

「ちょっと! 何すんのよあんた!!」
 反撃のハンドバッグを避けながらもナイフは止まらない。
 回数を重ね、すっかり手慣れたせいでその速度、正確さはすでに疾風のごときだ。


 もちろんそれは一般人で魔王軍側にとっては味方なのだが、彼らにはそんなことは関係ない
 敵だろうが味方だろうが視界に入った者にとびかかるので、混乱はさらに広がっている。


「さあみんな! この勢いでどこまでも突っ走りましょう! こんな狭くて暗い場所はもうあきあきよ! ドアをくぐり抜け、光り輝く外へ! 
 ああ! ああ! あなたたちの熱いビートを刻むハートの鼓動を感じるわ! 燃えるような血が体じゅうを駆け巡っているのね! 分かるわ! なぜならアタシもそうだから!
 アタシたちと同じように、この街も熱くしてあげましょう! そうすれば、きっとこの街は生まれ変われる! 不死鳥のように!
 さあ、あなたたちを新世界が待っているわ!」


 レクイエムがここぞとばかりに入り口を指し示す。
 一斉に人々の目が入り口を向いた。


「むっ!」
 事の重要性に真っ先に気付いたのはアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)だった。
 すばやく魔法陣を呼び出してウェンディゴを召喚する。
 全身が毛でおおわれた雪男ウェンディゴはおたけびを上げるとアルツールの命令に従いドアの前に立ちふさがった。


「さあ、あなたたちも行きなさい!」
 パートナーの司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)ソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)イルミンスール森の精 いるみん(いるみんすーるもりのせい・いるみん)たちにも指示を出した。

「1人たりと出すわけにはいきません! 
 彼らはツァンダに放火して、火の海に変えるつもりです!」
「えっ!? だけど、ここは自分たちの街だぜ!?」


「今の彼らは暴徒も同然! 段上の彼の扇動も少しはあるでしょうが、それはきっかけにすぎません。ここまでくればもはや群集心理による暴走! 判断力が低下し、無責任な衝動にかられた彼らに判断などつきません! 説得は無意味です!」


「そんな…! じゃあどうすんだよ?」
「大丈夫、私はこういった場合の対処法を、昔とある主婦から学びました」
「主婦? 一般の? それは大丈夫なのか?」
 信ぴょう性のあいまいさに、仲達は疑問を感じる。

「もちろんです。おそらく地球の日本という国で一番有名な主婦ですから。
 彼女は読者であるわれらに訴えたのです。壊れたテレビは角を殴れば修復できると!」

「……読者? テレビ? ちょっと待て。それは機械の接続不良に限っての直し方だろう」
 仲達は冷静にツッコんだが、アルツールは持論を曲げない。


「彼らは今、本来とは違った部分に思考回路が接続されているのです! ぶっ叩けば直ります!
 さあ、ウェンディゴよ! 側頭部をえぐるように……打つべし! 打つべし! 打つべし!」
 主アルツールの言葉に従ってか、それともアルツールの方が掛け声を合わせているのか、タイミングよくウェンディゴのパンチが入る。

「いや、だから人と機械は違うと――」


「そうか! ようは頭突けば元に戻るというわけだな!!」
 仲達と違い、レメゲトンはあっけらかんと納得した。


「よし、行くぞいるみん」
「やるか!」
 肩をぐるぐる回して簡単にウォーミングアップをすると、早くも男たちに取り巻かれ、何人かと格闘を始めたウェンディゴの元へ走り、その両側へとつく。


「まったく、どいつもこいつも目の色変えやがって」
 レメトゲンもいるみんも、肉弾戦には慣れていた。
 どちらも屈強の肉体の持ち主。プロレスを愛好し、レメトゲンは『禁書庫の悪魔』、いるみんは『イルミンスールの荒鷲』のリング名を持っている。

「私の技をくらいたいのはどいつだ! オラ! かかって来いやあ!!」

 それは挑発というより、自らの意気を高めるための咆哮だった。
 タコのように伸びてくる手に掴まれまいと手当り次第に払いのけ、がら空きの腹を蹴り飛ばす。蹴られた者はコンクリートの床にたたきつけられることなく、ほかの者を巻き込んで一緒に吹っ飛んだ。
 こうすれば衝撃は緩和できるし、ほかの者の動きも止められるし、一石二鳥だ。

 相手を見定めようとしているかのように距離をとった男たちをなめし見て、言う。
「先に、技をかけてやると言ったな。ありゃ嘘だ!
 その前におまえらが私が技をかけるにふさわしいか、見定めさせてもらうぞ! ――うらあ!!」
 いるみんは彼らの真ん中へ突入し、蹴った。
 蹴った。
 ひたすら蹴った。
 とにかく蹴った。
 それでも立ち上がり、まだ向かってくる者には敬意を表して得意の関節技を披露してやった。

「い、い゛た゛た゛た゛た゛た゛……っ」
 腕を引っ張られたと思った次の瞬間にはもう卍固めを決められていて、男はうなるしかない。


「レメトゲン!」
 向かい側で空手チョップを次々とおみまいしていたレメトゲンの名を呼ぶ。
「おう!」
 振り向きざま応じた彼に向かって、円盤投げのように男をぶん投げた。

「死ねぇぇぇいっ! ナラカコンビネーション・II!」

 関節技でふらふらになっていた男は直後、レメトゲンの持っていた分厚い本――己の本体である魔道書――の角で殴られ、まるで車か壁にでも激突したような衝撃を受けた一瞬で意識を失う。

 もちろんあんなふうに叫んだからといって、死んではいない。命にかかわる大けがにも結びつかない。
 そこはちゃんと力加減をわきまえている。

「はっはー!」
 そっくり返って倒れた男の上でハイタッチした2人は同時に互いに背を向け、再び別々の相手へと向かっていく。

 以後も2人は息の合った連携技をはさみつつドアに近付かせまいと奮闘したが、圧倒的多数の敵をプロレス技で防ぐのは無理だった。
 当然討ち漏らしが出てくる。


 そこをフォローするのが仲達だ。


 どるんどるん低音のエンジン音を響かせて、軍用バイクをふかせる。
 ウェンディゴやいるみん、レメトゲンの腕をかいくぐり、突破してきた者たちを見るや、仲達は胸がタンクに触れるぐらい低く身を伏せた。
 しかし顔はまっすぐ前を向き、標的である彼らを見つめる。


 察しのいい方は仲達が何をするつもりか、もうお気づきだろう!



 ブレーキを利かせたままアクセルを全開していた仲達は、パッとブレーキから指を放した。
 暴れ馬のように跳ね上がった前輪を、しかし動じることなくみごとに操って地面に下ろす。直後、軍用バイクは弾丸さながらに突っ走った。

(これはこの場の混乱を収拾し、かつ街を災禍から救うための、いわばボランティア的行為…ッ!
 だから交通事故にはならないし犯罪行為でもないッ! つまりノーカン……ノーカンッ!!)
 ぶつぶつ頭のなかで唱えて、いやでもやっぱりどこか違うんじゃ……との思いを心の隅からさらに奥へと蹴っ飛ばす。


「行けい!! わが愛車、チューガロンよ!!(今名付けたッ)

 必殺!! チューガロン 轢き逃げ アターーーーーーーーーック!!

 喊声ともいうべき燃えるおたけびとともに、仲達の乗ったバイクは次々と人を跳ね飛ばしていった。
 ひととおり跳ね飛ばした先で急ブレーキをかけ、タイヤの焦げるにおいと煙をさせつつも強引にバイクの向きを変えるや再び走り出す。

 バイクは縦横無尽に直進し、そのたびに人を跳ね飛ばして行った。

「おお! やるなあ。これは俺たちも負けてはおれんぞ!」
「やるか、いるみん!」
「おうよ! 久々のアレを出すぞ!」


「イルミンスールボンバー!」

 いるみん、レメトゲンの息の合ったコンビネーション技、ラリアットが炸裂する。
 その背後では軍用バイクが走り回り、どんどん人を跳ね飛ばす。

「チューガロン 轢き逃げ アターーーーーーーーーック!!」



 3人はいきいきとした表情で、今日も輝いていた。



「こんなダイナミックな技が見られるIWEの試合に、皆ぜひ来てくれたまえ! 今なら来場者にポップコーンをサービス中だ!」