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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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第39章


 四葉 恋歌は過去の夢を見る。


 パラミタに渡ってからの3年間、四葉 恋歌はとにかく知り合いを作ることに専念してきた。
 養父であり支配者である四葉 幸輝の目を多少なりとも逃れられる可能性があるのは、パラミタにいる間だけだ。
 もし、自分とパートナーになってしまったアニーという少女を救えるとしたら、この地にいられる間をおいて他にはありえない。
 自分はいい。自分はもとより孤児院で明日をも知れぬ生活をしていたのだ。
 幸輝に買われて能力のために利用されようとも、『幸運にも』自分にも似たような能力があり、命が脅かされることはない。
 それどころか、この能力を保持している以上、社長令嬢としての生活を維持できるのだ。願ったり叶ったりではないか。

 だが、アニーは違う。

 アニーは地球の貧しい農村から買われてきた。
 その貧しい村では生活のために子供を売ることも珍しいことではなかったとはいえ、強化人間の実験のため――材料としての売買は、あまりにも非道であろう。
 アニーは聡明な少女であったが、まだ子供だった。
 その実験に適合することができるなら、ほんの少しの仕事をした後、巨額の金と共に両親の元へ帰ることができる、そういう約束にアニーは乗ってしまった。
 もちろん、強化人間の適合実験の危険性は伏せられていた。
 そしてアニーは強化人間に適合した。
 仕事とは、『四葉 恋歌とパートナー契約をし、恋歌をパラミタに送り込むこと』だ。それはスムーズに行われた。
 金は支払われた、それは彼女の村なら家族全員が一生遊んで暮らせるだけのカネだった。

 だが、約束は守られなかった。

 アニーは強化人間の実験の影響で精神に著しい凶暴性を帯び、それを危険と判断した幸輝の手によって意識不明のまま幽閉された。
 彼女の望みは叶わなかった。
 自分を売り飛ばすような家族のために命を賭けたといういのに。

 そんな家族であっても、共に暮らしたかっただけなのに。

 恋歌は、そんなアニーの状況を最近になって知った。
 だからパラミタに渡ってきた当時は、友達作りにも明確な目的があったわけではない。
 しかしアニーとの契約を経ても、恋歌には何の力も目覚めていなかった。多くの地球人が契約を通じて強大な力を得ているというのに、だ。
 だから、力のない自分には知り合いを多く作る必要がある、と感じていた。
 思えば、それは予感だったのかもしれない。

 いつか、この地で幸輝と決別するときが来ると。

 その時には自分一人の力では戦えない。助けてくれる友人がいる。
 だから、恋歌は街から街へと渡り歩き、学校から学校へと友人を作って回った。
 まずは深い仲にならなくてもいい。顔見知りからでいい。
 情が移れば少しでも助けてやろうかと思うのが人間だ。袖擦り合うも他生の縁というヤツだ。


 だから、あたしは自分で力をつけることをやめた。時間の無駄だと思ったからだ。


 時間も金も自由だったあたしは、パラミタ中を飛び回った。
 誰彼構わず『トモダチ』になった。困った時、助けてくれるように。
 イザという時、私の力になってくれるように。
 恋人がいてもいい。あたしのことを好きになってくれて、本当にイザという時には、その命を賭けてでもあたしを守ってくれる恋人。
 うんそうだ、可能なら恋人も作ろう。その為には恋愛だ――周囲には年頃のコントラクターもゴロゴロいる。次々に声をかけていけば誰か引っかかってくれるだろう。

 ああ、何てムシのいい話だろうか。
 ハナっから友情をアテにして――利用しするつもりで友達になろうっていうんだよ、厚顔無恥とはこのことだね。
 あまつさえそれで恋人だと。万死に値するよ。

 けれど、アニーは違うんだ。
 アニーは助けなきゃいけない。
 だって彼女はなにも知らず、何の責任もなく、ただ家族と暮らしたい一心で危険な実験を買って出たんだ。
 そして実験は成功した。約束は守られなきゃいけない。
 幸輝が守らないなら、あたしが守る。
 たった一度会っただけの。ほとんど話したこともない、あたしのパートナー。

 幸輝は、あたしがいたからパラミタに渡る計画を実行に移した。あたしが自分と同等の能力を持っているから、パラミタに渡らせることで能力の進化を図ったんだ。

 あたしだ。

 あたしがいなければ、アニーが危険な実験に使われることはなかった。

 あたしのせいで、アニーは人生をめちゃくちゃにされたんだ。


 だからあたしは、トモダチをたくさん作ったよ。数え切れないほど作った。
 自慢じゃないけど、携帯のアドレス帳は誰よりもいっぱいだ。
 これだけいれば、きっと誰かが助けてくれる。きっとアニーを救い出してくれる。

 もし望みが叶ったら、あたしは約束を守ろう。
 アニーを助けてくれるなら、何でもする、それこそ、奴隷でも召使でも……一生をかけて、あたしは償いをするだろう。

 だって、あたしの人生はもとより親に捨てられた時点で――終わっていたんだ。
 それなら、ほんのちょっとでもあたしを好きでいてくれる人達のために、人生を捧げたって。

 それは、素敵な人生じゃないか。

 だからあたしは、友達をたくさん作った。
 騙してるってわかってて、トモダチをたくさん作った。
 会ったらすぐにトモダチ。話しかけたらトモダチ。メアド交換したらトモダチ。写メ撮ったらトモダチ。

 いいじゃんか、別に。
 これがあたしにできる、唯一の戦い方なんだ。

 トモダチはたくさん作った。メールも送った。あたしにできることは、もうない。

 だからどうか、お願いします。
 あたしのパートナーの、アニーを助けてください。
 アニーを助けてくれるのなら、あたしにできることは何でもします。

 だからどうか、きっとどうか。
 あたしのトモダチのみんな、アニーを助けて。

 ムシのいいハナシだって、分かってる。
 それでも。
 これが最後のお願いだから。


 あたしがもし――目覚めなかったとしても。


                    ☆


『恋歌たんが死んだらワイは悲しい。
 恋歌たんの呼びかけに集まった奴らは皆そうだ。
 ――だから生きろ!!』


 恋歌の耳に、切の声が響いた。
 深い眠りに落ちかけていた恋歌の心の中に、何かが引っかかる。

「……誰……?」

 矢継ぎ早に、次のお便りが読まれる。
『恋歌ってあの四葉 恋歌ちゃん?
 死ぬって何があったの? 力になれないかもしれないけど、連絡ちょうだい!!』

「……え……?」

 次のお便り。
『正直事情はわからない。けれどコレだけは言える。死ぬにはまだ早い。生きてくれ』

「……これって……?」

 次のお便り。
『あの変なメールって何かの冗談じゃなかったのか? 場所は空京か? 待ってろ、今行くぞ!!』

「……まさか……」

 次のお便り。
『死ぬな。生きろ』

「……」

 次のお便り。
『ツァンダで会った……何があったかの分からないが……』

 次のお便り。
『ヴァイシャリーの……です……恋歌さん……生きて……』

 次のお便り。
『ヒラニプラの……』

 次のお便り。
『イルミンスールの……』

 次のお便り。
『タシガンの……』

 次のお便り。
 次のお便り。
 次のお便り。
 次の。
 次の。
 次の。