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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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第三章 科学者と蒼き空を喰らうモノ 6

 王騎竜ア・ドライグ・グラスに乗ろうと、艦橋部入り口からグロリアーナが出る。
 すると、そこで飛行生物たちと戦っていたのは神崎 輝(かんざき・ひかる)たちだった。
「グロリーナさん! 話はルカルカさんたちから聞いてます! ア・ドライグ・グラスはあちらです!」
 聖なる気のバリアを発して、仲間たちを飛行生物の攻撃から守る輝が言った。
 輝が指し示した甲板の先に、すでにア・ドライグ・グラスが準備を整えて待っている。グロリアーナに忠誠を誓う気高き蒼い竜は、うなりをあげてグロリアーナの到着を歓迎した。
「敵の攻撃はボクたちが引き受けますから、早く!」
 輝が言うと、グロリーナは竜のもとに走りながら答えた。
「すまん。この礼は必ずする!」
「瑠奈、危ない! 敵が来るよ!」
 輝はグロリアーナを見送りながら、神崎 瑠奈(かんざき・るな)へと襲いかかろうとする敵を見つけた。
「マスター! 私に任せてください!」
 すかさず、一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が前に出る。
 巨大な大剣を振りかざし、瑞樹の振るった一撃が敵を切り裂いた。
 ブレイジング・スターと呼ばれる瑞樹専用のフライトユニットがうなりをあげる。同じく、瑞樹専用の巨大な大剣は、銀色の刃をきらめかせて、次に襲いかかってきた飛行生物を叩き斬った。
「渉君にも、『みんなを守ってください』って頼まれたんだもん! 私、負けません!」
 瑞樹が気合いを口にして、敵とぶつかり合う。
 瑞樹と押し合いになっている飛行生物に、シエル・セアーズ(しえる・せあーず)が魔法を放った。飛行生物は光の刃の魔法によって切り裂かれる。
「その通りよ、瑞樹ちゃん! ここがふんばりどころなんだから!」
 シエルは杖を回転させ、他の甲板で戦う仲間たちへと支援魔法を放つ。
 蓮華と戦っていた飛行生物が、光の刃で切り裂かれ、命のうねりが蓮華たちを回復させた。
「ありがとうございます、シエルさん」
「ううん、気にしないで。それより、早くエッツェルさんと戦ってる人たちのところに援軍も送らないと」
 瑞樹が言う。ちょうどそのとき、グロリアーナが王騎竜のもとにたどりつくところだった。
「にゃななっ、どいてどいてぇ!」
 瑠奈が、グロリアーナを邪魔しようとする飛行生物たちを、暗器武器で切り裂いた。
 さらに、瑠奈に続く呪い影や下忍の従者たちが、飛行生物たちに攻撃を仕掛ける。
「さあ、いまのうちに!」
「うむ……!」
 輝にうながされて、グロリアーナは王騎竜に騎乗した。ごうっと翼をはためかせると、颯爽と空へと飛び立っていく。
 それを見届けてから、輝は仲間たちへの歌を再開した。魔槍プラーナと呼ばれる槍の先端が、まるで輝の歌に共鳴するように輝きはじめた。輝の歌には、力がある。着用者の声と精神状態に応じて、その真価を発揮する鎧も、輝の歌に反応するように淡い光を帯びはじめた。
(みんな、無事で帰ってきてください……)
 艦橋部へと近づく飛行生物たちと戦いながら、輝はそう唱えていた。

 エッツェル・アザトース――いや、ヌギル・コーラスを名乗る男との戦いは、苛烈を極めていた。
 シュタイフェブリーゼと呼ばれる特殊な試作型ロケットシューズを装着した榊 朝斗(さかき・あさと)は、空を自在に動きながら、エッツェルに攻撃を仕掛ける。だが、リイムの一件ではないが、油断は禁物であることは、朝斗にはよくわかっていた。それだけ、エッツェルと多くの戦いを繰り返してきたということだ。ヒットアンドアウェイの戦法に切り替えると、朝斗はトンファー型のサイコブレード『朧』を使って、真空波で敵に突きを叩きこみ、相手が攻撃を仕掛けてきたときは、瞬間移動で距離を取った。が、それでも疲労はいなめない。真空波の一撃も、エッツェルに致命的な一撃を与えているとは言いがたく、朝斗は息も切れ切れになり始めた。
「くそっ……体力に違いがありすぎる。これじゃあ、向こうを倒す前にこっちがやられちゃうよ」
 朝斗が言う。天の炎の一撃を放ちながら攻撃に立ち回っていたルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)も、それは否めないようだった。
「確かにね。このままじゃじり貧だわ。なにか、方法を考えないと……」
 仮面の男は、まるで朝斗たちを嘲笑うかのようにこちらを見る。
 ルシェンと一緒に、ラージェスと名付けられた水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴンに乗った、エッツェルのパートナーの緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が、エッツェルに向けてさけんだ。
「エッツェル! こんなの間違ってるよ! こんなの、あたしの知ってるエッツェルじゃない!」
「無駄よ。あの人は完全に闇の力に染まってしまっている。こちらの言うことは届かないわ」
 ルシェンが言う。エッツェルは黒き砂の嵐を巻き起こし、契約者たちに襲いかかった。
 エッツェルに取り込まれ、身体の一部となったクルーエル・ウルティメイタム(くるーえる・うるてぃめいたむ)の力を併せ持ったものだ。全身の触手も動きだし、こちらへと飛びかかってきた。
「輝夜様 …… 守ル ……」
 アーマード レッド(あーまーど・れっど)が飛び出し、銃火器を巧みに操った。大型アサルトライフルが火を噴き、触手を撃ち落としていく。柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)や真司が、黒き砂の嵐の中を飛び、エッツェルへと斬りかかった。
「エッツェル、てめぇの顔は見飽きたんだよ!」
 バードマンアヴァターラ・ウィングを背中に装着させている恭也が、機械剣カグツチを手に、幾度となく攻撃を叩きこんだ。が、それらは全て触手や砂の嵐に受け止められ、阻まれる。無数の金属音だけが響き渡り、恭也の顔に焦りが見えた。
「恭也! 俺もいく!」
 真司が恭也の横からM9/Avの引き金を引いた。
 魔鎧状態のリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が、真司の潜在能力を一時的に開放させている。さらに、真司は己に覚醒の力を与え、リーラの力によって熾天使と神降ろしのパワーを与えていた。一対の光の翼が背中から生えて、真司のスピードと攻撃力は格段に上がっていた。
 銃弾と剣の応酬。しかし、それすらもエッツェルの第三、第四の手によって後一歩のところで阻まれた。
 エッツェルが伸ばした触手が、銃火器の火を噴かせるアーマードレッドへと襲いかかる。レッドが破壊され、煙の尾をひいて飛空艇へと落下していくのを、輝夜が見ていた。
「レッドオオオォォ!」
「危ないわ、輝夜ちゃん! いま、飛びだしたらだめ!」
 ラージェスから身を乗り出そうとする輝夜を、ルシェンが押しとどめた。
「くそっ、この野郎……」
 レッドが倒されたのを見て、恭也も歯を食いしばる。
「強力な攻撃が必要だ。だけど、そのためにはなんとか時間を稼がないと……」
 真司が言った。するとそのとき、二人の前にあらわれたのは、光条兵器の長剣『プリベント』をかかげた桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)だった。
「その役目、俺がやろう。二人は、レッドの救出と、パワーを溜める役目を」
「煉……っ! ……ああ、任せた」
 真司と恭也はその場を離れた。
 煉とエッツェルは互いを見つめて静かに対峙した。エッツェルは攻撃を仕掛けてこなかった。煉の力を計ろうとしているのか、それともただこちらの出方を楽しんでいるのか。しばらくして、黒き砂の嵐が煉を中心に吹き荒れた。煉は答えを期待するわけではないが、言葉を投げかけていた。
「エッツェル、あんたには超獣戦のときに助けられた借りがあったな……。いつか、その借りは返そうと思ってたんだが……」
 ごうっと、黒い砂の嵐は強さを増した。
「だけどどうやら、それは無理みたいだ。いまのあんたは別人だ。俺は、あんたを全力で阻止させてもらう」
 エッツェルが闇の奥底から手を伸ばすような声で言った。
「愚かなる者よ……。混沌、そして破砕を迎えよ。我が名はヌギル・コーラス。無をもたらす者なり――!」