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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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第三章 科学者と蒼き空を喰らうモノ 1

「船が停まった? いったいなにがあった!」
 甲板で、乗り込んできた飛行生物たちと戦っていたレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、急に超加速した飛空艇が途中で停まってしまったために、そうさけんだ。
 いったい何が起こったというのか。
 戸惑いを隠せないレンに、ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)が言った。
「どうやら、さっきの超加速でエンジンが無理をしすぎたみたいだな。オーバーヒートでプッツンしたってわけだ」
「なんだと? 誰だ、そんな無茶させたやつは!」
 艦内のどこかでホーティとバルクがくしゃみをする音がした。
「まあまあ、レンさん。いいじゃない」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)がフォローするように言った。
「いまはそれどころじゃないでしょ。それよりもまず、この船を守らなくっちゃ」
「その通りだ!」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がさけんだ。
「連中、これをチャンスだと見て、どんどん甲板に向かってきてるぞ! みんな、防衛ラインを張れ!」
 エヴァルトはまっさきに動きだし、アーミーショットガンで甲板に張りつこうとした飛行生物を撃ちぬいた。レンやザミエルも、銃を武器に次々と飛行生物に銃弾を浴びせていく。が、隙を突いてのぼってくるものもあった。董 蓮華(ただす・れんげ)がすかさず、機晶戦車の砲台を向けて、一発ぶっ放した。
「それにしても、連中の狙いはなんだ? 飛空艇やベルネッサだけとは思えないが……」
 甲板周りに敷いた地雷を爆発させて、敵を蹴散らしながらスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)が言う。
 エヴァルトが同じようにうなった。
「飛空艇の動力源になっている機晶石かもしれないな」
「エヴァルトくんに融合してるのは『勇気をエネルギーに変換する機晶石』だよね。私の実家にあった……。なにか、今回のこととも関係があるのかな?」
 ファニ・カレンベルク(ふぁに・かれんべるく)が頭を悩ませる顔をしながら言う。
 イグナイター ドラーヴェ(いぐないたー・どらーべ)が、それに答えた。
「ファニよ。そなたの実家にあったという機晶石……我が造ったもので相違ない」
「えぇ!? ドラーヴェさんが作ったの!」
 白い装甲具に身を包むドラーヴェは、無機質な顔で静かにうなずいた。
「うむ。単体でもエネルギーを発し、機晶姫の命であり、感情の源……心でもある機晶石……ならば、逆に感情の動きでエネルギーを発生させられるのではないか、とな。そう思い至ったわけだ。ロートラウトにもそれが使われている。……だからこそ、これほど感情豊かなのかもしれん。それが、彼女のパートナーであるエヴァルトにももたらされるとは……因縁、いや、偶然がいくつも重なった結果であろう」
「しかもロートラウトちゃんのコアの機晶石も同じもの!? そしてどうしてそれが私の実家に!? ますます謎だらけだよ!」
 混乱しながらファニがさけぶ。問題のロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)は、剣を振り回して敵を倒しながら、ほぇーと暢気な声をあげていた。
「通りで、ドラーヴェさんの雰囲気になにか覚えがあるような気がしたはずだよ。これって、機晶石の記憶? みたいなものなのかな。エヴァルトさんと会ったときも、なんだか懐かしさみたいなものを感じたし……これも機晶石のせい?」
「なんか色々判明してるが、俺、宿命とか運命とか前世の因縁とかと無縁なはずだぞ!?」
 パートナーたちの話を聞いていたエヴァルトが、すかさず声を張り上げる。
 ドラーヴェは続きを話そうとして、だが、飛行生物たちの数が増えはじめたことに気づいた。
「皆の者……詳しい話はまた後だ。どうやら連中、本腰を入れ始めたようだぞ」
 鉤爪みたいなもので手すりに引っかかり、のぼってくる飛行生物もいた。
 アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)たちが率先して前に出て敵を攻撃し、注意を引きつける。その間に、後方にいる朱里たちが魔法や弓矢で援護に入った。
 飛行生物たちの恐ろしいのは、引き際を知らないことだ。恐らく、本能だけで飛空艇を狙っているのであろうし、自分たちがいくら不利な状況になっても、全力で襲いかかってくる。
 レギオンは自慢の刀で敵を切り裂きながら、そう思った。
「アイン……深追いはするな。向こうはひるまないぞ」
「ああ、わかっているとも」
 アインは隣にいるレギオンの言葉にうなずいた。
「朱里! 前に出るんじゃないぞ!」
「ええ、わかったわ!」
 フロンティアソードを手に、飛行生物と格闘を続けるアインの合間を縫って、朱里は神威の矢を放ったり、魔法を撃ちこんだりした。
「朱鷺さん! 今です!」
「わかりました。八卦術の新技、お見せしましょう」
 朱里に呼びかけられて、それまで精神を集中させていた東 朱鷺(あずま・とき)が動き出した。
 両手に握られる八卦の呪符が空中に舞うと、それはひとりでに朱鷺の周りを旋回する。天空に再び軌道を変え、無数に分裂した呪符は、空高く舞い上がり、急速転回して落下していた。その落下スピードの勢いそのままに、呪符は飛行生物たちを貫いていった。
 と、視界の端で動いた影に気づいたザミエルが言った。
「まずい! 逃したやつが!」
 とっさに、マスケット銃を構えて引き金をひくが、相手の動きも素早く当たらない。
 しまった! しかし、そう思ったとき、いつの間にか甲板にあらわれていた小さな人影が、飛行生物の前に立ちはだかった。
「あれは……!」
 真っ白な髪をした幼い少女は、巨大な斧を軽々と持ちあげると、ぐぉんっと勢いよくそれを振り回して飛行生物の身体を引き裂いた。真っ二つになった飛行生物が、空へとかき消えていったのを、少女は無言のまま見送った。
 いったい、誰だ? そんなみんなの疑問に答えたのは、少女ではなく、蓮華だった。
「ルニちゃん!」
 蓮華は少女の名を呼び、それからみんなに通信士の渉から聞いていた話を説明した。
 ホーティ盗賊団が味方になったこと。そしてこの“純白の幼鬼”と呼ばれるルニなる少女が、甲板で戦うみんなの援護に来たこと。
 ルニはあまり口を開くようなタイプではない無口な少女だったが、みんなの視線を受けると、こくっとうなずいてみせた。
「任せろってことか? しかしなぁ……」
 スティンガーは、ホーティ盗賊団に危惧することがあるのか、悩ましげな声をあげた。
 それに反論したのは、朱里だった。
「いいじゃない。いくら盗賊団って言ったって、こんな子が私たちを騙したりなんてするはずないでしょ。一緒に戦ってくれるっていうんだから、一緒に戦いましょうよ」
 笑顔で言う朱里に、冷静な判断をしようと考えていたスティンガーやレギオンたちも、考えを改めた。朱里の言う通りだ。それに少なくとも、今は味方なのは間違いない。
「よろしくね、ルニちゃん」
 蓮華や朱里がルニに笑いかけ、小さな頭をよしよしと撫でる。ルニはなにも言わなかったが、顔には桃色が差し、どことなく照れくさそうにしているように見えた。