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第2章 夏休み

 自由行動日1日目。
 この日、白百合団団長の風見瑠奈は、とある団員に呼び出されていた。
「今のうちに白百合団団長と戦ってみたいと思いましたの」
 黒く光る鞭を手に、そう言ったのは崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)
 最近随分と大人しくしているが、先代の役員達から要注意人物だと、瑠奈は聞いていた。
「どういう意味?」
 瑠奈は髪をきゅっと後ろで結び、木刀を手にする。
「単純な好奇心で、自分の力とやり方がまだ通用するかどうか試したいから」
 嘘も含まれる亜璃珠のその言葉と微笑みに、瑠奈は強い笑みで応えた。
「私、負けないわよ。団長として1対1の勝負で、団員に負けるわけにはいきません」
 瑠奈は神がかり的な力や、現在の優子のような英雄的な力は有していないものの、白百合団に長く所属し、剣術では優子に続く実力者だった。
「それじゃ、始めましょう」
 開始と同時に、亜璃珠は野生の蹂躙を発動。
 突如として表れた魔獣を、瑠奈もスキルを用い跳んで、背を蹴り、巧みに躱す。
 まるで翼が生えているかのうように、宙を飛び、亜璃珠のもとに下りてくる。
 亜璃珠は光術で目映い閃光を発する。
 瑠奈は片手で目に影をつくりつつ、もう片手の剣を亜璃珠に振り下ろした。
 亜璃珠は龍鱗化で耐え、レジェンドストライクで武器に聖なる力を宿し、瑠奈に打ち下ろした。
 瑠奈は剣で亜璃珠の鞭を絡めとり。
「はっ!」
 シーリングランスで亜璃珠のスキルを封じた。
 肉弾戦なら亜璃珠の方が分が悪い。
 だが、亜璃珠には別の武器がある。
「瑠奈ちゃん、彼と上手くいってないでしょ? 合宿にも顔さえ出してくれなかったわよね」
「!?」
 繰り出された拳から逃れて、亜璃珠は間合いをとった。
「離宮の事件の後、彼が地上に戻ってきたころから、学園の外でもよくつるんでいたの。だからあなたの彼のことは良く知ってる。勿論、あなた方の関係もながーい目でね」
 瑠奈は軽く顔を強張らせながら、亜璃珠に剣を繰り出す。
 亜璃珠は龍殺しの槍を手に彼女の攻撃を受けた。
 素早いが、攻撃に乱れがあった。
「あの男、誰にとは言わないけれど人一倍優しい上に寂しがりやだから、パートナーも含め周りには親しい人間が沢山いる。ちょーっと怪しい関係もおおいわ、私を含めね」
「……黙りなさい、勝負中よ!」
 瑠奈の剣が、亜璃珠の肩を打った。
 痛みに顔を軽くゆがめるが、それでも亜璃珠は言葉を――精神攻撃をやめない。
「あいついざ追いかけられる側に回ると鈍感な上に色々面倒くさいのよね。人との繋がりを渇望してるようで、それがすごく不安定」
 それは憶測も含めた言葉だ。
 瑠奈は知らない、彼のこと。まるで元カノのような言葉に、瑠奈の胸がきりきりと痛む。
「私は、追いかけてなんかいない。両想い、だもの」
 瑠奈のその言葉は苦しげだった。
(あらら、何かわけあり? 本当にうまくいってないのかしら)
 亜璃珠が瑠奈の様子に気をとられた瞬間。
 彼女の剣が、亜璃珠槍を叩きおろし、腕が胸元に伸びたかと思うと……亜璃珠の身体は回転し、地面に打ち付けられていた。
「お見事。十分強いわ」
 立たせて欲しいというように、亜璃珠は瑠奈に手を伸ばす。
「繋がりを求めると人間って弱くも悪くもなるからね。これからもっと彼のこと悩ますがいいわ」
 瑠奈は軽く亜璃珠を睨む。
「崩城さんも、もっとちゃんと訓練やミーティングに参加して! 子供達に守られる大人になってはダメよ」
 生意気とも思えることを言いながら、瑠奈は亜璃珠に手を伸ばした。
「!?」
 突如、亜璃珠が近づいた瑠奈の足を払い、その手をぐいっと引っ張る。
「そんな怖い顔していると、彼に嫌われてしまうわよ」
 かわいいかわいいと言いながら、亜璃珠は瑠奈をぎゅっと抱きしめる。
「や、いやぁーっ。崩城先輩に食べられる〜っ!」
 瑠奈は可愛らし悲鳴を上げた。本当に怖がっているわけではく、冗談交じりの悲鳴だ。
「叫んでも、誰も助けに来てくれないわよ。彼も元副団長も、ね」
「……分かってますよぉ。自力で逃げます!」
 瑠奈は強引に身を起こして、亜璃珠の抱擁から逃れる。
「あの、やめてくださいね、彼を誘惑するの」
「しないわよ。……と言いたいところだけれど、自分のものにならないものほど、愛しく感じてしまうのよね」
 起き上がりながら、亜璃珠は意味ありげに笑う。
「あ、でも……他の女性に誘惑されるのかどうか、見て見たい気も……
「ん?」
「な、なんでもないわ。さよなら!」
 瑠奈は木刀を掴むと、友人達の元へと走っていった。

○     ○     ○


 自由行動日となったが、この日もイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)は稽古に励んでいた。
「はあっ!」
 岩に拳を叩きつけて破壊。
 地面に拳を叩きつけて、田畑を耕す……そう、ただの稽古ではなく、農作業の手伝いもしていた。
「イングリット、ちょっと時間もらえる?」
 道着に着替えた女性が、訪れた。
 白百合団員のマリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)だ。
「はい。手合せをしてくださるのですね!?」
 マリカの格好を見て、イングリットの目が輝く。
「相手を探してた? 今の私じゃ物足りないかもしれないけれど……。でも、疲れというハンデがあるみたいだから、本気でかかってこないと怪我するかもね」
 連日のハードな稽古に加え、今日も朝から一人で稽古に励んでいたイングリットは、かなり疲れているようだった。
「ええ、本気で挑ませていただきますわ」
 マリカとイングリットは、平らな場所に移ると、互いに道着を直し、礼をする。
 そして、異種格闘技の手合せを始める。
 マリカは柔道部に所属している。
 幼少のころから、柔道三昧の日々を送ってきた。
 現在も柔道を本格的に学んでいる。
 イングリットは古流武術バリツを好んで使うが、他の格闘技の知識もあった。
(組み合えば勝機はある。多分、寝技もあたしの方が……!)
 イングリットよりも、マリカの方が手足が長い。
 だが、イングリットの攻撃は柔道とは違い、拳や足を繰り出してくる。
 その攻撃を受け流しながら、マリカはチャンスを伺う。
「行きますわよ!」
 イングリットが踏み込み、マリカに鋭い蹴りを放ってきた。
 マリカは良く見極めて、躱しきれないまでもダメージと衝撃を最小限に抑える。
 よろめき膝をついたマリカにイングリットが更なる攻撃を加えようと、手を伸ばしたその時。
 マリカの長い腕が、イングリットの腕をつかみ、背負い投げに持っていく。
「っ!」
 イングリットは、投げられながら背を逸らせ、地面に手をついて勢いをつけ、足から着地する。
 瞬時に腕を抜き、マリカが体勢を整えるより早く。
「はっ!」
 イングリットが身体を回転させた足払いで、彼女を倒した。
「あー、負けた」
「まだまだこれからですわ」
「いや、柔道的には一本だよ」
 マリカは起き上がって、道着を直す。
「うーん、あたし柔剛一体を目標としてるんだけど、柔の道は遠い気がするのよねー」
 体格が中途半端なのかなと悩むときもある。
「パラミタには様々な種族がいます。マリカお姉さまもわたくしも、地球人の女性としては長身な方ですが、パラミタではそう目立つ体格ではありません。お姉さまも、百合園に留まっていないで、大荒野で腕試しやパラミタの道場回りをしてみたらどうでしょう? きっと、素敵な発見があり、成長のヒントが得られると思いますわ」
「そうね……。それじゃ、道場破り……じゃなかった、道場回り、やってみよっかな」
「ええ! あ、落ち葉がついていますわ」
 イングリットがマリカの道着についた落ち葉を払い落とした。
 それから、また試合をしましょうと約束をして。
 2人はそれぞれの稽古に戻っていく。