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若者達の夏合宿

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若者達の夏合宿

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 自由行動日2日目。
 この日も勿論、イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)は早朝から団員を誘っては稽古に励んでいた。
 しかし昼近くに。
「いんぐりっとちゃん、デートしよ〜」
 ゆっくり起きて、準備をすませた天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)が、イングリットを半ば強引に手配した馬車へ押し込んで、パラミタ内海に連れ出したのだった。
「神経張りつめてばかりいると、脳の血管がぶちっと切れちゃうよ? たまには遊ぶことも大事なんだから!」
「そうですわね……海水浴で、普段とは違う筋肉を使うことも修行になりますわ」
「もー、いんぐりっとちゃんてば〜」
「ふふ、冗談です。遊びに連れ出してくださり、ありがとうございます。わたくしも、1日くらいは遊びたいと持っていましたの」
 イングリットがにこっと笑みを浮かべる。
「うん、目一杯遊ぼ〜。水着はイングリットちゃんの分も用意してきたよ。ビーチでも売ってると思うけど〜」
 自分用の小さいのではなくて、ちゃんとイングリットの身長に合う水着を用意してあった。
 自分用のは、ワンピース型のピンクの花柄の水着。
 イングリットのは、菫色のタンクトップ型のタンキニを選んだ。
「ありがとうございます。是非使わせていただきますわ」
「よーし、ビーチに着く前にこれ膨らませちゃおう!」
「ええ」
 馬車の中で2人はビーチボールや浮き輪を膨らませていく。

 パラミタ内海のビーチでは、若者や家族連れを中心とした、沢山の人々が訪れていた。
 良くも悪くも、結奈は外見年齢が小学生で胸もないので、ナンパにあうこともなく……。
 2人きりで、海水浴を悠々と楽しむことが出来た。
「いんぐりっとちゃん、いくよぉ〜」
 浮き輪で浮きながら、結奈はビーチボールをぽおんと投げた。
「はい……あっ」
 叩いて、返そうとしたイングリットだが、波に襲われてしまい、一瞬水の中に沈んでしまった。
「ふ、はあ。自由に動けない中での、ビーチバレー、良い修行になりますわ!」
「だーかーら、修行じゃないし、ビーチバレーでもないよぉ。もぉ」
 声を上げて2人は笑い合う。
 イングリットは泳いでビーチボールを取りに行くと。両腕で抱えるように抱きしめたまま、結奈と同じように、流れに身を任せてゆらゆら揺られる。
 波で大きく体勢を崩したり、頭から水を被ったり。
 その度に、2人は声を上げて笑い、手を繋いだり、水を掛けあったり。
 普通の女の子達と同じように、楽しい時間を過ごしたのだった。

○     ○     ○


「……というわけで、パラミタ内海の一角にプライベートビーチ、ご用意いたしました〜」
 馬車から降りた雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)の手を引いて、海岸が見える場所へと誘った。
「どこに連れて行ってくれるのかと思ったら……まったく、もう」
 鈴子は少し戸惑っていた。
 根回しで事前に人を遠ざけてあった為、リナリエッタが指す方向のビーチに人の姿はない。
 遠くに海の家や遊んでいる人々の姿が見えるけれど、容姿も身体のラインも判らないほど遠い。
 だ、駄目ですか? と言いたげな顔で、じっとリナリエッタは鈴子を見ている。
「ええっと、水着が……」
「この間買った水着! まとめて私の部屋に送ってもらいましたよねー。で、何故かここにあるわけです」
 リナリエッタが持つ大きな鞄の中には、先日鈴子と一緒に選んだ2人分の水着や、海遊びグッズが入っている。
「綺麗な海からふく風にそよぐ鈴子さんのパレオ……綺麗ですよーいいじゃないですかー二人っきりですよー」
「ふふふふ……リナさん、強引ですわね。好みの異性もこんな風に誘っているのかしら」
「いえ、全然そんなことないです。全く強引でもないし……」
 相手が鈴子だから、遠慮も配慮もして、それでもどうしても一緒に海で遊びたくて、リナリエッタは念入りに準備をしてきたのだ。
「それじゃ、少し楽しませていただきます」
 持ちますよと、鈴子がリナリエッタに手を伸ばしてくる。
「いえ、いいんです。これはわたくしめが運びまする〜」
 やった! と、リナリエッタはビーチに駆け下りて。
 ワンタッチの折り畳みのパラソルを取り出すと、波打ち際近くにセット。
「勿論! 鈴子さんの大和撫子なお肌のために日除けはご用意していますわ」
 手を広げて、笑顔で言うと。
「申し訳ないくらい、嬉しいですわ。リナさんの心遣いも、数々の用意にもとても感謝し、もうとても満足しましたわ。ですので、今日はこれで」
「何を言ってるんですか、鈴子さん」
 リナリエッタと鈴子は吹き出して笑う。
「勿論、冗談です。楽しみましょう!」
「ええ」

 簡易更衣室で着替え、2人は水着姿になる。
 鈴子は、清楚なワンピース型の水色の水着を着て、パレオは足に巻いていた。
 リナリエッタも、青色のタンキニを着て、鈴子とお揃いのパレオを足に巻いている。
(胸は大きくはないけれど、やっぱり綺麗だわ、鈴子さん……)
 少し恥ずかしげにしているところが、とてもそそられる。
 清楚で美しくて。
 派手さはないものの、男性の視線を集める存在だった。
「なんだかもったいないですね」
 鈴子がリナリエッタを見ながら苦笑のような笑みを浮かべている。
「ん? 何がですか?」
「リナさんは、モデルさんみたいですから。一緒に過ごせるのが私だけなんて、世の中の男性や憧れている少女達に、申し訳ないですわ」
「そう言ってもらえると、嬉しいですわあ。でも、いいんです。今日は2人だけでー」
 リナリエッタは鈴子の手を引いて、海へと走り出す。
「まずは、海に入る前に準備体操もかねて……」
 足だけ、海に入るとリナリエッタは水をすくって、散らばすように放った。
 鈴子が小さな悲鳴を上げる。
 髪と白い肌と、新品の水着が僅かに濡れた。
「私も準備運動しませんとね」
 仕返しというように、鈴子も水をすくって、リナリエッタにかける。ざばっと。
「す、鈴子さん、最初から飛ばし過ぎー」
「ふふっ。リナさん、水も滴るいい女です。写真に収めたくなりますね。素敵な写真集ができそうです」
「いいですよー。でも、鈴子さんのことも撮りますよ?」
「ごめんなさい。写真集はリナさんだけで……」
 うっと顔をしかめた鈴子に、リナリエッタは水をかけて。
(鈴子さんの写真集……見て見たい気も)
 彼女をもっと濡らして、見たこともない鈴子を作りだしていく。

 水辺で遊んだあと、一旦パラソルに戻って。
「合宿、面白かったですわね。まさか鈴子さん自らが後輩の指導にあたるといって突然白い光を発したときはこちらも驚きましたわあ」
「え? そんなことした覚えは……?」
「も、勿論冗談ですよお」
 鈴子が軽く後輩の指導を行ったのは事実だが、後半はリナリエッタの捏造である。
「もう、また変な事をしてしまったかと、驚きましたわ」
 咎めるような目で鈴子はリナリエッタを見る。
 1カ月位前、鈴子は深酔いして自分らしからぬことをしてしまったのだ。
 その時のことははっきりとは覚えていないのだが、ちょっと気にしているようだった。
「大丈夫ですよお、合宿中はお酒禁止でしたしー。っと」
 リナリエッタは足踏みポンプで膨らませた浮き輪の栓を閉めた。
「ふふ、こういう可愛いおもちゃって殿方の前では使いにくいんですよねえ」
 鈴子さんもいかがですか? と、まだ膨らませていない浮き輪を鈴子に渡して。
「というわけで、リナリエッタ先にうみにいってきまーす! 揺られてきまーす!」
 そう声を上げると、リナリエッタは海へと向かって行った。

 パラソルの下で。鈴子はパレオから足を覗かせて、足踏みポンプをゆっくり踏みつけていた。
(ああ、なんか凄いものを見てしまった気がする……。なんだかすごく似合ってるというか)
 リナリエッタは、海の上から観察。
 そして、膨らませ終えた鈴子に、手を振って。
「鈴子さんも一緒に泳ぎましょうよー!」
 大きな声で呼んだ。
 パレオを外して浮き輪を持って、鈴子も海へと入り。
「お待たせしました」
 リナリエッタの側へと泳いできた。

○     ○     ○


「訓練、大変だったけど、充実してたね」
「ああ、少し体力がついた気がする」
 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)夫婦も、パラミタ内海に訪れていた。
「どれどれ、筋肉ついたかな?」
 じっと歌菜が羽純を見ると、羽純は腕を自分の後ろに回す。
「何で隠すの?」
「何となく」
(水着になれば全身のチェックできたんだけれど……でも、今日は!)
「じゃーん」
 歌菜が鞄の中から取り出したのは、マスクにシュノーケルにフィン。
 2人はシュノーケリングを楽しみに来たのだ。
 ウェットスーツに着替えて準備を整えて、水の温度を確かめてから。
 2人は一緒に海へと潜った。

 青い海の中に、太陽の光が射し込んでいる。
(綺麗……なんて神秘的なの)
 別世界を旅しているような感覚を受けながら、歌菜は羽純と共にさらに深く、潜っていく。
(美しいな。心をも穏やかにしてくれる)
 羽純も青色の空間と、射し込む光に癒されていく。
 海の水の冷たさと、心地良さ、重力から開放された自由な感覚。
 そして、側にいる歌菜がいることに、安心感と安らぎを覚えていく。
「んーんー!」
 歌菜が手を前に広げる。
 色鮮やかな魚の群れが、2人の前を通過したかと思うと。
 魚たちはぐるっと回って再び、2人の脇を泳いでいった。
(お魚さん達、歓迎してくれてるみたい。一緒に泳いでくれてるよー!)
 歌菜は羽純を見て、身振り手振りで、そう伝える。
 そして楽しそうに魚たちと泳ぎ始めた。
 魚たちに混ざって泳ぐ歌菜を見て、羽純の心が高揚していく。
 羽純も同じように、魚たちと共に泳ぎ――踊り始める。
(羽純くん、気持ちいいね。癒されるー!)
(この一時は、全てのしがらみから開放され、俺達も広大で自由な世界にある、小さな一つの生命として、此処に存在している)
 色とりどりの魚たちと踊り、美しい珊瑚礁をうっとりと観賞して。
 2人は全身で、癒しの一時を楽しんだ。

 体は少し疲れてしまったけれど。
 心のエネルギーはマックスを通り越すほどに、回復していた。
 沢山泳いだ後は、海辺のレストランで美味しい料理を堪能する。
「こういう風に休日を楽しめるのも、合宿で頑張ったからだよね。
 羽純くん、一緒に参加してくれてありがとう!」
 羽純が一緒だったから、心強かったし、寂しくならずにすんだんだと、歌菜は正直な気持ちを語った。
「俺も、歌菜と一緒で色々面白かったよ。一緒に参加してよかった」
 デザートを食べながら、羽純がふっと微笑むと、歌菜はその数倍嬉しそうに微笑んで。
「今夜はお礼に、羽純くんをマッサージしてあげるね! 稽古で鍛えたから、指圧も強くなってると思うの」
「気を遣わなくてもいいんだが……」
「遠慮はいらないよ。私がマッサージしたいんだもん。そういえばほら、筋肉がついたかどうかもチェックしないとね」
「……そういう事なら、遠慮なくお願いしょうか」
 羽純は、一瞬悪戯気な笑みを見せる。
「上手くできたら、俺からご褒美をやろう」
「ご褒美? なになに?」
「それは、上手くできたらな」
「そ、それは楽しみ。なんか……」
 ドキドキするよ。
 その言葉を飲み込んで、歌菜は羽純を眺める。
 彼は既にいつも通りの表情で、美味しそうに抹茶アイスを食べていた。
(この顔はきっと、なんだかすっごいご褒美を考えてくれている……気がする!)
 歌菜はスプーンを握りながら、指の調子を確かめる。
「……なんだ? 超能力でも試してるのか」
「ち、ちがう〜。羽純くんに満足してもらえるよう、指の調子を確かめてるの」
 歌菜も羽純を真似てすまし顔になると、ぱくっと、アイスを口に運ぶ。
「美味しいー」
 でもすぐに、彼女の顔には幸せに包まれてしまう。
 その顔を見て、羽純の心も、幸せに包まれる――。