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リアクション
彼らを発見したとき、シャンバラ教導団大尉水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)とマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)はシャンバラ大荒野において教導団情報科としての任務を終えての帰還途中だった。
装輪装甲通信車後部で機器を操っていたマリエッタが、外部モニターの端にチラと映ったそれに気づく。
「カーリー、ちょっとこれ見て」
「んん?」
マリエッタはモニターの角度を調整し、彼らを中心に収めた映像を運転席にいるゆかりのモニターへと転送する。
映像には2人の男女が後方を気にしながら逃げている様子が映っていた。
「パラ実生たちの仲間割れ、もしくはヒャッハーカツアゲってとこ?」
「どうかしら? あたしにはもうちょっと深刻そうに見えるんだけど」
マリエッタの言葉にゆかりは装輪装甲通信車を停車させ、あらためてモニターの映像を注視した。女の方はイブニングドレス姿、男は白いコートの下に蒼空学園制服を着ている。女の姿が異様で浮いていたが、誘拐されて逃走中ということも考えられるだろう。どちらにも見覚えはなかった。そして彼らを追う男たちは約20人……ちょっとした分隊だ。全員重武装している。その服装や装備の統一感から――大荒野を根城とする不良たちで、全員統一した装備などまずあり得ないために――軍人、傭兵であることが想定された。
「これは穏やかじゃないわね」
ほかにも気づくことはあった。サブマシンガンにロケットランチャー、その予備弾。腰には手りゅう弾のような物が下がり、胸部や腕につけられた装甲も何か仕掛けがありそうに見える。追跡者たちの装備重量は軽く100キロは超えていた。なのに、足場の悪い大荒野でよろめくことなく軽快なフットワークを見せ、さらには2人との距離を着実に縮めている。強化人間かそれに類するものとしか思えない。まだ相当開いていたが、このままでは追いつかれるのは時間の問題のようだった。
もっとも、追いつかれる前に銃撃で死亡、というのが確率が高そうだ。
「どうする? カーリー」
ゆかりはただちにエンジンをかけ、動き出すと同時にハンドルをそちらへきった。
マリエッタとしては、自分たちは帰還途中とはいえ任務中なのだし、いったん本部へ連絡をとって判断をあおぐべきなのではないかという意味での「どうする?」発言だったのだが。
車が反転し、正規のルートからはずれてしまったのはもうモニターしている本部の方に知れてしまっているだろう。今さら修正してもこの件について叱責を食らうのは一緒だ。それなら民間人救出という功績があった方がまだマシなのではないか。そう結論したマリエッタは、立ち上がって後部のハッチドアへ向かった。
「あなたたち、こっちよ!」
ゆかりが銃撃から盾となって2人を隠すように車体を割り入れた直後、マリエッタがドアを開いた。
銃弾を弾く装甲車の突然の登場にアストー01は驚き、目を瞠る。そしてどうするか問うようにルドラを見た。
ルドラは息切れしながらも無表情で、マリエッタというよりも、彼女が着ている教導団制服を見つめていたが、すぐにアストー01をすくい上げるようにして抱き上げると、装甲車へ飛び乗った。
「出して、カーリー!」
「了解! みんな掴まってて! 少々あらっぽく行くわよ!」
銃では効かないと見た男が肩からロケットランチャーを下ろすのを見て、ゆかりはアクセルを踏み込むとすばやくギアチェンジをする。ギュルギュル音を立て、土煙を上げながらタイヤは地面を噛み、スイッチターンした。そしてそのままトップスピードで走り出す。
「あたしはシャンバラ教導団のマリエッタ・シュヴァール。向こうは水原ゆかり大尉よ。
さあ腕を見せて。治療するわ」
大波に揺れる船内のような揺れがある程度おさまったところでマリエッタは、血でぐっしょり濡れたルドラの右腕に手を差し出した。
巻かれているのはアストー01のドレスの一部らしかった。真っ赤に濡れているのは布自体吸水性が悪いせいだろう。マリエッタは車内に備えつけの医療キットからハサミを取り出して切ると傷口の洗浄から始めた。
相当痛みがあるはずだが、ルドラは顔色ひとつ変えない。
「あなたたちはだれか、教えてくれない?」
「あ……すみません。わたしは……アストー、01です。こちらは――」
「ルドラ」
「そう。よろしくね、アストー01、ルドラ。
それで、一体何があったの? なぜあなたたちはこんな所で追われているの?」
「あ……」
アストー01は何か言おうと口を開いたが、迷っているうちにルドラが視線で制した。
マリエッタはすぐ彼らの主導権はルドラが握っており、ルドラはこちらを警戒しているのだと気付いた。さっきもそうだった。追われていて、窮地を救われたはずなのに、彼女の登場をありがたがる素振りはまったく見られなかった。
そのときの様子を思い出し、彼が警戒しているのは「マリエッタ」ではなく「教導団」であると察する。
(何かあったのかしら)
追っているのが国軍であれば、彼らの方に問題ありとみなすことができるのだが……。
傷の手当てを受けるルドラを一心不乱に見つめているアストー01の健気な様子からして、悪人には見えなかった。
「これで終わり」
止血帯を巻き終わった腕を軽くはたき、手を放す。もう少し突っ込んで訊いてみようとしたときだった。
突然ドンッ!! という重い音がして車体が上下に振動した直後大きく左に振れ、傾いた。
装甲通信車のタイヤの横スレスレに対戦車弾が着弾したのだ。ゆかりは回避しようとしたが到底避けきれるものではなかった。直撃はしなかったが、装甲通信車は爆風に吹き飛ばされ、地面を転がったあと横倒しで止まった。カラカラと前輪が空転している。
頭上のドアを蹴っ飛ばし、ゆかりは運転席から外へ這い出した。
「みんな無事!?」
地面へ下りたと同時にリアハッチがボンッとはじけ飛ぶ。そこからルドラを中心とした球体のバリヤに保護されたマリエッタとアストー01が現れた。
無事着地を果たしたとたん、バリヤは消える。
「よかった、マリー。けがはない?」
「ええ」
マリエッタは少し考えた末、止血は終わっても回復しきれていないルドラに向け、命のうねりをそそぎ込んだ。
「あなたたちは逃げなさい。あたしとカーリーで、できるだけ彼らの足止めをするから」
「――2人を逃がすのには同意するけど。ちょっと荷が勝ちすぎない?」
何度も何度も振り返ってはぺこぺこ頭を下げるアストー01と、彼女の手を引っ張って走るルドラ。2人の姿を見送りながら、ゆかりは【シュヴァルツ】【ヴァイス】を抜く。
「相手は教導の装甲通信車に砲撃してくるようなやつらよ? 対してこっちにあるのは豆鉄砲みたいなハンドガン」
「民間人を守るのがあたしたちの役目よ」
マリエッタもまた自分の武装のヘビーマシンピストルを見て苦笑しつつ答える。敵が使用している110ミリ個人携帯対戦車弾に比べれば、これもゆかりいわく「豆鉄砲」と大差ない。
「そうね」
「やりましょうか」
2人は装甲通信車を盾とし、射撃を開始した。
もちろん2人とてここを死守する気など毛頭ない。こんな武器ではほんの数分でも稼げれば御の字だろう。
思ったとおり、すぐ強化人間たちも2人が大した武器を持ち合わせていないことに気づいた。
「アストー01をこちらへ渡せ」
先頭の男が機械音声で言葉を発した。
ほかの強化人間たちより頭2つ分抜きん出ており、全身鋼の塊のような筋肉でおおわれている。クルーカットの髪は銀。浅黒い肌。ミラーサングラスをかけていて、目の色は分からない。間違いなく彼がリーダーだろう。
ゆかりはマリエッタと顔を合わせた。
「彼女は渡せないわ!」
彼らはアストー01を欲しがっている。装甲通信車を砲撃した荒っぽさからして生きてかどうかは不明だが、少なくともこちらにアストー01がいると思い込んでいれば、車体に砲弾を撃ち込んで爆発させたりはしないだろう。
ゆかりの返答に、リーダーの男はほかの強化人間たちに合図を出した。全員がサブマシンガンを手に突撃をかけてくる。
2人が戦略的撤退に移ったときだった。
突然上空から力強い女性の歌声が振ってくる。
それとほぼ同時にキラリと何かが光って、無数の槍が穂先を下にして垂直に降りそそいだ。
槍は強化人間たちの足元近く、進行をふさぐように地面へ突き刺さる。そして一瞬後、エクスプレス・ザ・ワールドで生み出された槍は跡形もなく消えたが、強化人間たちは新たな敵の出現を警戒し、前進をやめていた。
アエーシュマを先頭に円陣を組み、前後左右を目視するなか、何人かが竜の形の影に気づいて頭上をふり仰ぐ。
「アストーさんを破壊しには行かせません!」
彼らが自分に気づくのを十分待って、聖邪龍ケイオスブレードドラゴンの上に仁王立ちした遠野 歌菜(とおの・かな)が高らかと宣告した。
強化人間たちはサブマシンガンで銃撃をかけるが、そうなると読んでいた歌菜の方が早い。すぐさまトリップ・ザ・ワールドを用いて防御フィールドを張る。
この防御フィールドは、たしかに防御力は高かった。歌菜を中心とし、半径1メートルは鉄壁の防御力で守られる。しかし彼女を乗せた聖邪龍ケイオスブレードドラゴンの細部まで防御するには至らなかった。
被膜に銃弾を受け、聖邪龍ケイオスブレードドラゴンは大きく傾いた。
「きゃあっ!」
「歌菜!」
宙に放り出された歌菜を、奇襲攻撃に出ようとしたのを中止して下に走り込んだ月崎 羽純(つきざき・はすみ)が受け止めた。
ドサリと歌菜本来の重さに加え、落下の衝撃荷重が加わった。一瞬よろけた無防備な羽純と歌菜に対して強化人間たちの銃口が向けられ、一斉射撃が行われる。
しかしその銃弾は、発射直前別方向から走り込んできた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)の刀によってことごとく軌道を変えられ、あらぬ方向へ飛んでいった。
これは甚五郎自身の能力に加え、魔鎧化してまとっているホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)の能力潜在解放や相棒ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)のゴッドスピードなどを併用した結果のスピードだったが、強化人間たちはそれを為したのが1人の人間であることに驚愕の表情らしきものを浮かべてとまどっていた。強化された彼らの探知能力、動体視力でも完全には追いきれない、それだけ驚異的な速度だったのだ。
追撃が止んでいるのを見た羽純は、歌菜を連れていったんその場を離れる。
「やめろと言って、おとなしくやめるような者どもではなさそうだな」
甚五郎はまっすぐ巨躯の強化人間を見て言う。
「ぬしの相手はわしとブリジットがしよう」
霊断・黒ノ水とロイヤルソード、二刀を手に、ひと目で達人と分かる隙のないかまえをとる甚五郎を見て、強化人間はフッと口端をわずかに吊り上げて笑った。
彼は自分の外見が他者に与える影響を知っていた。彼と戦おうとする者は同じ強化人間にすらいない。それを、彼より50センチは低い生身の人間が苦もなく選択したことがふとおかしく思えたのだ。
アエーシュマは背側に止めていたマチェットを抜いた。黒刃の直刀は刃渡り60センチはゆうにあったが、3メートル近いアエーシュマが持つとまるでナイフのように見える。
手首で軽く回す、それだけで相当の使い手なのが見てとれる。
「名を聞いておこうか」
「夜刀神 甚五郎」
「ジンゴロウ。わたしはアエーシュマだ」
ぴく、と甚五郎の眉が反応した。無意識的な筋肉の震えだった。
「来い、ジンゴロウ!」
「おお!!」
咆哮すると同時にインビンシブルの光が甚五郎を包んだ。
「甚五郎〜気をつけてくださいよ〜」
ホリイが少々情けなく聞こえる声で小さくつぶやく。彼女もまた、2年近く前の出来事を思い出しているに違いなかった。
アエーシュマ。かつて彼らはこの名前を冠した古代兵器と戦った。彼らが出会ったとき、すでにアエーシュマは手の施しようがないほど狂っており、彼を救うには倒すしかなかった。
同じ存在ではない。彼は甚五郎たちとの戦いで力を使い果たし、石と化した。
しかしあのアエーシュマを思い出してもう一度見てみると、とても似ている気がした。あのミラーサングラスの下が赤い目ならば、本人ではないかと疑うところだ。
(――それともまさか。もしかして……?)
そんなことがあり得るだろうか?
甚五郎とアエーシュマが全力でぶつかり合っているさなか、ふと差し込んだ疑問にホリイはブリジットを見た。ブリジットはリターニングナイブズを使い、甚五郎と息の合ったコンビネーションで効果的にアエーシュマの攻撃の邪魔をしたり、タイミングをずらさせたりしている。また隙あらば魔障覆滅や霞斬りを放って退け、アエーシュマからの攻撃は分身の術や疾風迅雷で瞬時に距離をとることでかわした。
ブリジットは機晶姫で、その面は人間と違っているため人のように表情は読めない。しかし思うところがあるのだろう、戦いの合間にぼそっと
「今回こそ自爆の承認を」
と甚五郎に向かってつぶやいていた。
甚五郎は荒い息を吐き出しながらじろりと見るだけで言葉では返さなかったが、彼の答えが却下であるのは間違いなかった。
(ブリジットも感じ取っているのですよ〜)
このアエーシュマはあのアエーシュマではないが、似た存在であると。
ホリイははっきりとそれをさとる。しかし。
アエーシュマを創造した博士たちは5000年も前に死んで、もうこの世にいないはずではなかったか?
「甚五郎〜……」
「あとだ、ホリイ」
彼女の思考を読んだように甚五郎が独白する。目はアエーシュマのマチェットを握る手に固定され、わずかの変化も見逃すまいとしている。
「すべてはこれが終わってからだ」
「……はいっ」
ホリイは以後、考えることをやめた。ブリジットもまた、甚五郎の言葉を聞いてそうすることを決めたようだった。動きからためらいが消えた。
3人はアエーシュマとの戦闘に集中し、没入する。
彼らがそれをできたのは、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)や歌菜、羽純、そしてゆかりやマリエッタのおかげだった。
アエーシュマの加勢に向かおうとする強化人間たちを、そうはさせまいと食い止めてくれていたのだ。
「甚五郎たちの邪魔はさせぬ!」
草薙羽純の刻印眼が光った。人数差を少しでも埋めるため、ウェンディゴやフェニックスを召喚する。そして彼女の足元で地面が割れ、裂け目から現れたヤドリギが強化人間たちへと襲いかかっていった。ヤドリギは二重三重と手足に巻きついて締め上げる。
ヤドリギは柔軟性がある。多少の力では切れないはずだったが、残念ながら強化人間たちの力の方が上回っていた。ぐいと腕を引き上げられただけでブチブチ切れて、自由になった片腕でナイフを抜き、次々と拘束を解いていく。
「うぬぅ。ではこれはどうじゃ!」
完全にヤドリギが断ち切られる前に、草薙羽純は天の炎を放った。巨大な炎が落下して、強化人間たちを火柱へと変えていった。
彼女からそう遠くない位置では、歌菜がハーモニックレインを放っていた。歌に集中し、攻撃する傍らで、彼女のパートナーであり夫の月崎 羽純が聖槍ジャガーナートの2槍を駆使して強化人間たちから歌菜を守っている。敵のサブマシンガンのほとんどが甚五郎の初撃で銃身を破壊され、使えなくなっていることが幸いした。残っている分はゆかりとマリエッタの援護射撃で封じ込められたし、ナイフだけならばいかに相手が多人数であろうと防ぎようがある。
「おまえたちのねらいはアストー01の破壊か、それとも彼女の持つマスターデータチップか」
わざと接近戦で刃をまじえながら羽純は訊いた。
「両方だ!」
強化人間はアストー01の名前を耳にして、憎悪の表情を浮かべながらたたきつけるように言葉を発する。
「あの魔物の機械め……! 貴重な聖遺物を穢すとは、八つ裂きにしても足りん! 地獄の業火に永遠に焼かれるがいい!」
その言葉に、攻撃に集中していた歌菜が反応した。歌を止め、カッとなって思わず叫ぶ。
「じゃああなたはそれをしてないっていうんですか!? こうしてわたしたちと戦えるっていうことは、あなたもその聖遺物というのを取り込んで、強化しているからでしょう? アストーさんの存在や歌は否定するクセに、自分たちは兵器として利用する……自分勝手すぎますッ!!」
「だまれ!! われわれは自分たちのためにしているのではない! 金のために利用している、あのような金の亡者たちから守るために戦っているのだ! わたしはベラトーだ! あのような者どもと一緒にするな!!」
「そうだ!!」
「われらは聖戦士なり!!」
「歌菜、言っても無駄だ。狂信者に俺たちの言葉は届かない」
強化人間たちが怒りに結束を強め、闘志を燃やしているのを見て、羽純が言う。歌菜は強化人間たちの押し出す迫力に気圧されつつうなずき、以後歌うことに集中する。
コントラクターと強化人間たちによる戦闘は今のところほぼ拮抗していた。
個々の力で見ればコントラクターの方が強いのだろうが、強化人間たちは彼らの3倍はいる上、互いを補う結束力があった。しかも彼らに疲労という消耗はない。
長引く戦いは速度の鈍化、集中力の弛緩、読み違いといったところに表れる。
「しまった!」
甚五郎はアエーシュマの強烈な蹴りをまともに受け、後方へ飛ばされた。踏みとどまろうとせず、わざと後転することでダメージを最小限に抑えるが、腹部の重い痛みが呼吸の邪魔をする。
「大丈夫か、甚五郎!」
「……撤退するぞ」
攻撃を受け止め続けてきた腕が限界を訴えるようにしびれて震えているのを見て、甚五郎は決断した。
ホリイから常闇の帳が吹き出して、追撃をかけようとしたアエーシュマの視界をふさぐ。それを見て、彼の意図をさとったゆかりが撤退を叫んだ。
全員異論はなかった。これ以上戦闘が長引けば自分たちが不利とさとっていた。各人思い思いの方法でその場を離脱する。
強化人間たちは漆黒の闇に包まれ視界をふさがれながらも彼らの位置を正確に探知していたが、追おうとはしなかった。彼らのなかにアストー01がいないことをすでに見抜いていたからだ。
甚五郎が吹っ飛ばされる際、カウンターでかすめたつま先が飛ばしたミラーサングラスを拾い上げ、かけ直す。
「各自点検だ。稼働能力が75%以下に落ちた者は今のうちに名乗り出ろ」
19名の強化人間たちは黙々と被害の有無、武装の確認をすると、放り出してあった荷袋からハンドガンや予備のナイフを取り出して装着し、使えなくなったサブマシンガンやナイフといった物を1か所に集めた。アエーシュマがバックパックから親指サイズのスティックを取り出す。キャップをはずして突起を押し込み、それらの上に放った。コンコンと武器に当たり、スティックは武器の山にまぎれ込む。直後、スティックから黒い光が放出され、一瞬で武器は爆縮し、元が何であったか分からない鉄の塊と化した。
アエーシュマは部下たちを見た。手足等体の一部を砕かれ、吹き飛ばされた5名が前に出ていた。
「おまえたちはすみやかに後続部隊と連絡をとり、帰還しろ」
アエーシュマの視線が、槍に突かれて胸部の強化外骨格にクモの巣状のひびを入れた男で止まる。
「まだやれます!」
「――よし。ではアストー01を追うぞ」
再武装を完了した14名の強化人間たちはアエーシュマを先頭に、再び追跡を開始したのだった。
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