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リアクション
元はといえばブラヌの下心が設置した女子専用テーブル。
そこに、ブラヌも遠慮するテーブルがあった。
黒タイツ着て尻にゴボウを刺す仕事人がいるテーブルだ。
わざわざ尻からゴボウを生やしたくはない。
そういうわけで平和な時間を満喫するレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)。
隣にはイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)。
「イングリットちゃん、D級四天王昇格おめでとう!」
レオーナは、手にいくつも握ったクラッカーをいっせいに鳴らした。
「ありがとうございます。これで、わたくしも少しは箔がついたでしょうか」
「ついたついた! 美貌と強さで向かうところ敵なしだと思うよ」
「褒めすぎですわ。わたくしはまだまだです」
「まずは第一歩ってとこ? でもお祝いはさせてね。そのためにプレゼントがあるんだから」
その言葉に嬉しそうにするイングリットの前に、レオーナはカットしたクリスマスツリーのケーキを置いた。
「あたしが作ったチョコレート(血世孤霊斗)をトッピングしてみましたーッ」
「ツリーの形なのですね。白いのはホワイトチョコでしょうか。器用ですのね」
「イングリットちゃんへに喜んでもらおうと、一生懸命作ったんだ」
ツリーの形は型を使ったが、ホワイトチョコの部分はレオーナの手による。
他にも血世孤霊斗をケーキに飾りつけてきたが、それらは星型である。
「ありがたくいただきますわ。メリークリスマス、レオーナさん」
「メリークリスマス! イングリットちゃん、あたしが食べさせてあげる」
「え? ……え?」
「今日ぐらい、いいでしょ?」
イングリットは恥ずかしそうに口をあけた。
「おいしいですわ。あなたのチョコもいただきますね」
今度は自分で、血世孤霊斗を食べるイングリット。
レオーナはこれから起こるだろうことを期待して、じっと見つめた。
ケーキはたちまちなくなってしまった。
「おかわり、いっとく?」
「たまにはいいですわね」
いつもなら一定量以上は食べないイングリットも、今日は特別だったようだ。
結局、三回おかわりしてしまった。
先に暑くなったのはレオーナだった。
元より薄着の彼女だ。一枚脱げば下着姿になってしまう。
おおっぴらな性格故かケーキの効果かは謎だが、全裸になってもかまわないという勢いのレオーナを、イングリットは何とか留めていた。
しかし、そのイングリットも暑いのか、ブラウスのボタンを二つほど緩めている。
見えそうで見えないその下が、かえってけしからん想像力に拍車をかける。
「イングリットちゃん……実はあたし、一つ願い事があるの」
レオーナはイングリットの胸元に抱き着きながら言った。
イングリットが背を撫でて先を促す。
「血世孤霊斗を頭からかぶったあたしを食べてほしいの」
「チョコレートを? そんなことして良いんですの?」
「いいよ、イングリットちゃんなら」
「わかりましたわ。今日はクリスマスですもの。わたくしがあなたのサンタクロースになって、願い事を叶えるというプレゼントをしましょう」
二人共、口調はしっかりしていたが、話の中身は滅茶苦茶だった。
だが、どちらもそれに気づいていない。
「チョコレートはありますの?」
「こっちに」
レオーナに連れて行かれたところには樽があり、蓋を開けるとその中にとろりとした血世孤霊斗が満たされていた。用意の良いことに桶まである。
イングリットは何の疑問も持たずに桶を樽の中に突っ込んだ。
「いきますわよ」
──派手なレーザーと電飾が光る巨大なツリーの中ほどに、血世孤霊斗を滴らせたレオーナが吊るされていた。
血世孤霊斗とは、カカオの代わりに種もみを主原料に作られた菓子で、何者かの血と汗と涙が混入されているという。
そんな怪しいものと怪しいケーキが混ざり合った結果の出来事であった。
種もみの塔でクリスマスパーティをやると聞いた時、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、
「いったい誰が?」
と思った。
が、すぐに塔のある場所からパラ実生絡みだと推測できた。
それな間違いはなく、詳細を調べると若葉分校と種もみ学院の合同主催ということがわかった。
「アイリと行くかな」
恭也は、かれこれ一年ほどになる付き合いの女の子を思い浮かべた。
オーナメントを持って来てほしいということだったので、アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)はクリスマスの柄の布を使った匂い袋を持ってきた。
ギンギラに光る機械仕掛けのツリーに圧倒されながらそれを飾ると、
「恭也さんは何を持ってきたんです?」
と、恭也の手元に注目する。
これだ、と見せたのは黄金の種籾戟。
「ツリーもビカビカだし、種もみ繋がりってことでちょうどいいだろ。吊るすのは無理だからここに」
と、幹に立てかける。
「いいんですか? けっこうな武器ですよね」
「いいのいいの」
恭也はあっさりしたものだった。
苦笑して種籾戟を見やったアイリは、ふとツリーにひらひらと舞うものを見つけた。
「何でしょう……。え!?」
それは新品の下着だった。
セコール製のぱんつだ。
「や、やだっ。誰が!?」
「これはまた……」
「恭也さんっ、じっと見つめないでください! もう行きましょう、離れましょう!」
アイリは恭也を引っ張っていかがわしいツリーから離れた。
その後、二人はクリスマスディナーを楽しんだ。
天使姿の給仕にコース料理はないかと聞いたら、シェフに頼んでみると言ったのだ。
そして、要望は叶えられた。
「初めてアイリと会った時には、ここまで長い付き合いになるとは思わなかったな」
シチューを食べる手を止め、恭也はしみじみと言った。
「それは私も同じです。不思議なものですね」
「ああ。パトロールに行ったり、グランツ教と戦ったり、遊んだり……。割とハードな時もあったな」
「そう言われると、波瀾万丈ですね。でも、今思うと楽しかったですよ。辛かったこともだんだん落ち着いて受け止められるようになっていくんです。あなたのおかげでしょうか」
「そんなこと言うと、調子に乗るぞ?」
アイリは楽しそうに笑った。
そんな彼女と、もう少し長く付き合いたいなと恭也は思った。
こんなふうに誰かと仲良くなるのは珍しいことだったからだ。
「来年もよろしく頼むぜ、相棒?」
「ちゃんとついてきてくださいね。お宝に目が眩んでよそに行ったら置いていきますからね」
「安心しろ。そん時は、お宝手に入れた後にちゃんと追いつくから」
「欲張りですねぇ」
来年は二人の間にどんなことが待ち受けているのか、恭也は楽しみで仕方がなかった。
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