リアクション
「凄いトラップだったね。みんな、大丈夫?」
1時間かけて更衣室にたどり着いたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は共に訪れたパラ実生を気遣う。
「大丈夫じゃねえ……。命懸けでたどり着いたってのに……着替え中女子がいないとは……」
「わかっちゃいたけど……けど、更衣室っていうからには……期待させやがって!!」
今更衣室にいる女の子といったら、外見7歳のネージュだけだ。
「まあ、夏には水着に着替えたい女子も出てくると思うから、その時また挑戦してね」
沢山仕掛けられていたロザリンドのトラップに、殺傷能力のあるものはなかった。
トラップについて、パラ実生が学ぶ良い機会にもなりそうなので、解除しなくてもいいかなとネージュは思う。
「シャワー室や、トイレもあるんだよ。トイレはホールにも作ってもらったけどね!」
皆で計画をして作った設備を、ネージュはパラ実生に見せていく。
ネージュからの提案は、落書きや破損に強い器具、素材を取り入れることだった。
「トイレとか、汚しそうだもんね。でも、汚れも落書きも落ちやすい壁にしてもらったから」
ぴかぴかのトイレをネージュは皆に紹介する。
やや大き目なトイレだ。高い位置にある窓から、光が射し込んできておりとても明るい。
「便器をカバーで隠したら、カラオケルームって言ってもわかんなくね?」
「誰か騙して連れてくるか、トイカラシーンを激写してアップだ!」
「そりゃいーや」
パラ実生はトイレの壁を確かめたり、天井を見上げて眩しそうに目を細めながら笑い合っている。
「窓は強化ガラスで、曇りガラスだから覗かれる心配はないよ。あと、シャワー室の方も、強固な素材を使ってるから、安心して使ってもらえるよー」
「いやいや、俺ら覗きたい方なんだけど」
「逆に安心できねー。薄い素材に代えてくれ〜」
「実は覗けるポイント作ってあるんだろ? 教えろ〜」
「ふふ、どうかな? あたしにはわかんないなー」
にこっと可愛らしくネージュは笑う。
「しらばっくれんなよ〜、教えろ〜」
「よし、キャンディをあげよう。それともガムがいいかな?」
パラ実生は遊び半分でネージュを買収しようと、持っていた駄菓子を出していく。
「それよりも、そろそろもっと、美味しい物食べに行こっか。
早くいかないと、パーティの料理なくなっちゃうよ〜」
ネージュは駄菓子を受け取らずに言った。
「そうだな〜。ここにたどり着くまでずっげぇ時間かかったしな」
「総長のパン…でも貰いにいくか」
「アレナちゃんのパン…くうぞ!」
バタバタ。パラ実生は外へと出ていく。
「まって、あたしもいく〜」
ネージュもぱたぱた走って、パラ実生達に続いていって。
また時間をかけて、建物から出た後は、皆と一緒にパーティを楽しむのだった。
ネージュにひっついてたパラ実生はともかく。
「なんでこんなに屍が多いの!?」
若葉分校を探索していた及川 翠(おいかわ・みどり)は、倒れている若者達の多さに唖然としていた。
「死んでないようだよ。でも何かにやられたみたい……あーっ、床にぬるぬる液がまかれてる。気を付けてっ」
「ふぐっ」
サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)は、床に撒かれたローションを避けるために、倒れてるパラ実生の上に乗っかる。
「床には直接足を付けない方がいいみたいなの!」
「ふぎゅっ」
「ふげっ」
翠は倒れているパラ実生を足場にして、廊下を進んでいく。
「ええ、トラップが仕掛けられているようです。床には触れずに進みましょう。それにしてもこのトラップの数……この先にはいったい何が!」
「ふぎゃん」
「ふごっ」
徳永 瑠璃(とくなが・るり)は床に落ちているのが何なのか分からなかったことにして、ぴょんぴょん踏みつけながら飛び越えた。
「ええっと、ごめんなさいね。皆悪気はないの……あなた達と同じように、好奇心が強いだけで」
翠たちの保護者のような存在であるミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は、しゃがんでパラ実生達に詫びて、皆を諌めようとした、が。
「ん? あっちの方から動物の気配を感じます。もふもふ的な何かなようです」
瑠璃が超感覚の能力で気配を感じ取った途端。
「も、もふもふ? もふもふ!?」
「ふぎゃ」
「ほごっ」
「ほべっ」
ミリアはパラ実生を踏みまくってもふもふの部屋へと1人突き進んでいった。
「もふもふはお姉ちゃんに任せて、私達は探検を続けるの!」
「はい!」
「うん!」
翠、瑠璃、サリアは、頷き合って、トラップに注意しながら探索を続ける。
「ここ……更衣室なの! 今までのトラップはここを守るためのものだったの」
翠はプレートに『更衣室』と書かれている部屋の前に辿りつき、ゆっくりドアを開けてみる。
「失礼します」
体の小さな瑠璃が先にそおっと中に入った。
「……まだ何もないです。ただ、着替える場所より、棚の方が大きいような」
「器具を使う部室の更衣室なのかな?」
続いてサリアが入り込んで、中をきょろきょろと見回していく。
「さっきの視聴覚室といい、変わったお部屋が多いの。普通の教室が見当たらないの……不思議なの」
「喫茶店で授業をしてるのでしょうか」
翠と瑠璃は首を傾げながら、部屋の中を歩き回る。
「奥のお部屋にあるかも?」
ドアを見つけたサリアはそろりと開けてみるが、その先に合ったのはトイレだった。
「ん〜。若葉分校さんの生徒さん、どこでお勉強してるんだろうね?」
サリアが小首を傾げたその時。
「それは〜この建物が〜勉強棟になるのさ〜ぐふふ」
アルコールの匂いと共に、パンツいっちょで恍惚とした笑みを浮かべたパラ実生が更衣室に入ってきた。
体中に赤い筋状の痣がついている。
「うひゃひゃ、一緒に遊ぼうぜぇ〜」
向かいの女王様の部屋で存分に楽しんだ若葉分校生だ。
「うひゃー!」
千鳥足で駆けてきた彼らに。
「変態さんせいばいっ!」
サリアは左腕を銃に変形させ、朱の飛沫で全力狙撃!
「ぎょええええええっ」
「あちちちあちちちち」
彼等のパンツが炎で焼かれて丸裸に……。
「ぎゃーっ、変態なの変態なの変態なのー!!」
翠はデビルハンマーを振りかぶってぇ、突撃!
「ほぎゃーーーーー!」
「ぐぎゃーーーーー!」
上部の窓を突き破り、変態達はすっぽんぽんではるか彼方へと飛んで行った。
「………………ええっと、次のお部屋いきましょうか。この先はトラップもなさそうですし! スムーズに探索できますよ」
瑠璃は何も見なかったことにした。
「若葉分校さん、変態さん出ることあって可哀相だねっ」
「うん、変態さんホイホイ作って成敗しないとなの」
サリアと翠も武器をしまって、気を取り直して楽しい探索を続けることにした。
一方、ミリアは……。
「ああ、もふもふだわ。もふもふ」
たどり着いたのは、猫にゃんが住み着いている部屋だった。
「野生のもふもふちゃん、警戒しなくていいのよ、もふもふ〜」
もふもふもふもふと可愛がると、猫達もにゃんにゃんと可愛い声をあげて、ミリアになついていく。
そうして、ひとり、変態と遭遇することもなく、皆と合流するまで、もふもふ至福の時を過ごしたのだった。
○ ○ ○
パートナー達と共に訪れた
ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)が、馬車から降り立った途端。
「いっえーい! ミルミちゃん、遊びに来たよー」
むぎゅーっと、
牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が抱きしめてきた。
「わーい、アルちゃーん」
抱きしめ返してくるミルミをより強くむぎゅーして、すりすりして。
「無人島に何か持って行くならミルミちゃんで決まり!」
「ん?」
「そして、そのまま死ぬ人の役します、無人島サバイバルモノなら」
そう言ったかと思うとアルコリアはミルミに抱き着いたまま脱力した。
「アルちゃん?」
「……」
「アルちゃーん」
「…………」
不思議そうにミルミは声をかけるが、アルコリアは無反応でぐったりしている。
「ええっと、こういう時は……『へんじがない、ただのしばかねのようだ』だね!」
「……いや、違うよ、ミルミちゃん、それをいうならしかばね……じゃなくて、ここは」
突然アルコリアはぱっちり目を開いた。
「『ここはわかば分校です。武器や農具、スキルは装備しないと意味がありませんよ』
……と、話しかけられたら返す感じでいいかな?」
「ん?」
「ほら、あーるぴーじー的に考えて、女の子同士でハグしてる人物とか重要人物っぽくないので、モブっぽい台詞で十分ですよね」
「んん? ミルミ難しいことわかんない……」
「大丈夫、ミルミちゃんむぎゅーっしてれば、それで満足なので、内容とか意味とかそういうのはどうでもいいんです!」
むぎゅーっとミルミをもう一抱きした後、体を起こしてアルコリアは辺りを見回す。
「で、何のイベントですか?」
喫茶店の方から若者たちが食べ物や飲み物をホールへと運んでいる。
「パン…パーティをやるみたいよ。でね、ミルミには特別な招待状が届いたの。
可愛い可愛いミルミに、若葉分校のユニフォームを試着してほしいんだって!」
ミルミはユニフォームがどんなものか知らなかった。
だけどちょい前に到着していたアルコリアは、若葉分校生の噂話から、パンツであることを察していた。
「なるほど、パンを試着しながらパンツを食べる集まりですね。パンは頭装備ってところまで理解しました」
胸を張って、胸をミルミに押し付けドヤ顔をするアルコリア。
「ふにゃん。窒息しちゃう」
「で、ミルミちゃん試着するの? 手伝うよ。勿論下心アリよ、いぇーい」
アルコリアはぐっと親指立てて、それから親指でミルミのほっぺをうにうにする。
「へへへへ、パンを頭に被るのって変だよね〜。ミルミはパンは食べるもので、パンツ(ズボン)は足に装備するものだと思うよ!」
「そうなの。それでもいいよー。
カワイイので見てます、触れます、愛でます。いぇーい! ミルミちゃんに触れたければ私を倒してからにするのだー、いぇーい!」
アルコリアは笑いながら、近づいてくる人を、いぇーい、いぇーいと払いのける。
「ミルミとしては、試着よりパン…が食べたいな。で、どうしてもっていうのなら、パン被るよ」
「ミルミちゃんがそうしたいのなら、それでいいよ。ばっちり、協力します。行こう行こうミルミちゃんー」
アルコリアはミルミの背後に回ってぎゅっと抱きしめて歩き出す。
「うきゃっ。あははは、アルちゃん二人羽織みたい〜。美味しいの食べさせてね」
「後ろからでもみるみちゃんかわいい」
すりすりしながら、アルコリアはホールへと歩いて行く。
パンとか試着とか、どうでもよいのだ。
「好きな季節はミルミちゃんで
好きな食べ物はミルミちゃん
血液型はミルミちゃんで
趣味はミルミちゃんです。
ラッキーアイテムはミルミちゃんで
好きな映画はミルミちゃんです」
「ミルミがいっぱい!? アルちゃんおもしろい〜」
けらけら笑うミルミをむぎゅーっと抱きしめ、頬を摺り寄せながら。
「ミルミちゃんミルミちゃん……うふふふふふ」
アルコリアはパーティ……いえいえ、いつものようにミルミを楽しむために、会場へと入っていく。
で、ずっとアルコリアがミルミにくっついていたことが護りとなって。
ミルミは若葉パンツの試着をさせられずにすんだ。
……何故か、大麦若葉パンを頭に乗せてたけど。
ホールの前方、花壇脇にはプールが作られていた。
分校生達の大半は泳ぎたくなったり、水泳の授業は川でやればいいという考えだが……。
女子とわきゃわきゃ楽しむ為には、やっぱりプールは必要だろうということになり、
キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)の提案通り、規模は大きくはないがプールが設けられていた。
「大きくはないけど、深さはそれなりにあるのヨ」
キャンディスはそのまだ水の入っていないプールに、
イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)を連れてきていた。
着手前にキャンディスはイングリットに連絡を入れてあった。イングリットは特に協力的ではなかったが、共同制作者として若葉分校側には説明してある。
「予算が贅沢なら、ここをろくりんピックのシンクロナイズドスイミングの会場にしたいワヨネ〜」
「キマクは治安が気になりますけれど、ここでしたら比較的安定していますしね」
「デショ? バリツさん、一緒にろくりんピックに向けて頑張りマショ」
「バリツが競技として認められたら……わたくしも本気で臨ませていただきますわ」
「ソウソウ、その生きで、シンクロナイズドスイミング頑張るノヨ」
「はい、訓練を怠らず、格闘家として精進いたしますわ」
多少会話がかみ合ってないが、2人はろくりんピックに向けて互いに努力をしようと、握手を交わしたのだった。
「ん? アレナさん、コッチコッチ」
料理を運んでホールから出てきたアレナを、キャンディスが呼び止めた。
「アレナさんは泳げるカシラ?」
「得意というほどじゃないですけれど、泳げなくはないです。キャンディスさんは……泳げますか?」
『ろくりんくん』のゆる族、であるキャンディスはどう見ても泳げる体型ではない。
「防水加工の着ぐるみもあるから大丈夫ヨ。それじゃ、決定ネ!」
キャンディスの中で、アレナも選手として決定したのだった。