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神楽崎春のパン…まつり 2024

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神楽崎春のパン…まつり 2024
神楽崎春のパン…まつり 2024 神楽崎春のパン…まつり 2024

リアクション

「サンキュ、ちゃんと衣装持ってきてくれたんだな」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、試着室から姿を現したミルザムに笑みを向けた。
「ええ、シリウスさんからのお誘いで、場所がこういったところなら……必ず、踊らせていただける機会があるだろうと思いまして」
「ん。稀にじゃなくて、もっと頻繁にこういう機会を持てたらいいんだけどな」
 シリウスは変身!して、魔法少女シリウス・リリカルコスチュームを纏い、大型の竪琴を手にする。
「お互いに、すべきことがまだありますからね。……百合園女学院の教師になられたのですよね? おめでとうございます」
「ありがと! そうなんだよな。就職しちゃったんだ、オレ。
 ミルザムは再選してまだしばらく忙しそうだし」
 都知事のミルザムの任期が切れたら、組んで活動しようと誘ってあった。
 でもそれは当分先になりそうだった。
「けどまぁ、オレはまだ諦めてないぜ?
 教職たって一生ものとは限らないし、兼業でバンドやってる連中なんてそれこそ星の数ほどいるしな」
「お互い、責任ある立場ですから。今は都民や生徒、地球やパラミタで生きるすべての人々の為に、身を粉にして尽くす時期なのかもしれません」
「その方法が、知事だったり、教師だったりするだけで、それが音楽や踊りに変わる日も来るかもしれねえよな」
 シリウスのその言葉に、ミルザムは少し間を置いて「そうですね」と答えた。
「うん、つーわけで、いつか組む日もくるさ……いや、別に寂しいとかじゃないからな!」
 とは言っているが、就職してから大切なパートナーの1人と離れて暮らしているため、シリウスは日々寂しさを感じていた。
「ふふ、はい」
 それを感じ取ってか、ミルザムは優しげな笑みを浮かべて頷いた。
「ほら、一曲いこうぜ!」
 竪琴に顔を向けて照れた顔を隠し、シリウスは演奏を始めた。
 小さなステージにあがって、ミルザムは踊り始める。
 煌びやかな衣装で、美しく艶やかに。
 若者達の歓声が上がり、会場が沸いていった。

「踊り子さんといい、隅の席のパラ実校長達といい、随分と豪華なゲストね……。
 ティセラも来れれば良かったのだけれど」
 祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)はステージ近くの席で催しやパンを堪能していた。
 今日は一人で訪れたのだが、会場には知り合いが沢山いて、このテーブルにも百合園の生徒や、仕事や行事で顔を合わせた子達ばかりだった。
「こんなにおいしいパン…が食べられるのなら、ホント皆と一緒に来れればよかったですー。もぐもぐ♪」
 百合園生のミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は、小さなパンをさらに小さく切って、口に運んで味わって食べていく。
 パートナーや友達みんなと来たかったのだけれど、皆の都合がつかなかったため、今日はミーナだけ百合園のクラスメイトにくっついて訪れていた。
「コレすごくかわいいです」
 手に取ったのは、パンダの形をしたパン。
「おうちでも作れないのかなぁ?」
「ちょっと時間かかるけど、お家でも作れると思うよ♪」
 その隣にある、うさぎの形のパンをもったいなさそうに食べながら、秋月 葵(あきづき・あおい)が言った。
「作り方知ってます? ええっと、主催者さんは、元百合園生の神楽崎優子さんなんですよね? レシピ聞いたら教えてもらえるかなぁ」
「うん、教えてもらえると思う。ただ、作ったのは優子隊長じゃないかも……優子隊長はこういう可愛いのはあんまり作らなそうだから」
 葵は可愛いパン…を硬い表情で作っている優子の姿を思い浮かべ、ちょっと笑みを漏らす。
「そっか、それならパートナーのアレナさんが作ったのかな。あとで聞いてみよっと」
「あたしもこっちのうさぎのパン…に挑戦してみたいな。猫ちゃんのパン…も可愛いけど、難しそうだし、猫はやめた方がいいかな、アハハ……」
 優子を猫化した時の事。その後の説教を思いだし、葵は苦笑した。
「皆、楽しんでるようだなァ!」
 ビールとオレンジジュースの瓶を持ち、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が近づいてきた。
「どうだ、増築した若葉分校は」
 祥子にビールを、葵とミーナ、それから未成年の分校生のグラスに竜司はオレンジジュースを注いでいく。
「増築したんですか? なんだか楽しそうな場所ですよね」
 ミーナは頭を下げてお礼を言い、オレンジジュースを注いでもらったグラスに、口を付ける。
「ああ、そうだ。去年までは、喫茶店とホールしかなかったんだぜェ」
 優子と農家から許可を貰ってから、竜司は分校生達や業者の力を借りて、急ピッチで作業を進めてきた。
 若葉分校には生活できるほどの設備は整っていない。
 飲み水は、喫茶店の近くの小さな井戸を利用しており、その他の水は川の水を利用していた。
 分校生達がトイレやシャワールームを欲していたこともあり、竜司はそのあたりの設備も業者の手をかりて整えていった。
 現在は、ソーラーパネルや風車を利用した発電が行えており、携帯電話の充電くらいは行えるようになっていた。
「ま、喫茶店に頼らなくても、ここで生活できるくらいにはなったと思うぜ。何せカラオケが出来るからな!」
「……どこで?」
 自慢げに言う竜司の側に、優子が心配げな顔で近づいてきた。
「ここだ!」
 竜司は下を指差した。
「地下か?」
「そうだ。ちっちぇえ個室を幾つか作ったぜ。ここで舎弟達に歌の素晴らしさを教えてやるぜェ!」
「……そうか。ただ地下とはいえ、深夜には利用しないようにな。特にキミは」
「おう! 電気もそう使えねぇし、上で寝てる奴もいるだろうから、当分深夜の使用は禁止しとくぜ」
 竜司がそう約束をすると、優子はほっとした表情になった。
「あ、よかったらこれも食べてくれ」
 優子が焼きたての大麦若葉パンを竜司へと差し出す。
(オレ用の特別なパン…か、優子の奴堂々と渡しやがって、照れるぜ)
 ※皆のと同じパンです。
 竜司は通常通り勘違いをしながら、優子のパンを受け取ってそのまま口に運んだ。
「うめぇ、美味いぞー♪
 彼の叫び声はびりびりと皆の耳に響いた。
「あ、ありがとう」
「いたたたたた」
 ミーナが耳を押さえて笑う。
「そんなに美味しパン…なんですか? ミーナも貰ってもいいですか」
「どうぞ」
 優子はミーナの皿に、大麦若葉パンを一切れ乗せた。
 それから、祥子、葵の皿にも乗せていく。
「バターやジャム、お好みで使ってくださいね。サンドイッチにしても美味しいですよ」
 アレナがテーブルの上のトッピングを指差して皆に案内する。
「うん、美味しい」
 まずは何もつけずにパンを食べ、祥子は首を縦に振った。
「美味しいです。苦みもないですー」
「うん、青臭い匂いもなくて、子供でも食べやすいと思います」
 ミーナと葵も美味しく食べられる味だった。
「少しバターを加えてあるんだ。キミ達は大丈夫だと思うけれど、ダイエット中の女性にはお勧めできないかな。
 さて」
 優子は別のテーブルに向かう前に、葵の耳に顔を近づけた。
「もし、竜司が歌い出そうとしたら、教えてくれ。外に連れ出すから……」
 優子の囁きに葵はこくこく頷き『任せてください』と目で伝えた。
「それじゃ、楽しんでいってくれ」
 パン…を乗せたトレーを手に、優子は別のテーブルへと向かっていった。
「しかし、善は急げとか、思い立ったが吉日って言うけれど。何時もながらやることが早いわね」
 続いてジャムを塗りながら、祥子は竜司、それから隣のテーブルにいるブラヌに目を向けた。
「この分校ができてどのくらいになったんだっけ?」
「んーと、10年くらい?」
「いや、20年は経ってるだろう」
「20年前は、パラミタと地球、繋がってないって」
 祥子は苦笑しながら、パンを口へと運ぶ。
「今、5年目くらいかしら? 出来た当時、私は空京大学にいたんだったかしら……?」
「いや、空京大より若葉分校の設立が先じゃね? 3年くらいは」
「…………」
 ブラヌの言葉に、祥子はちょっと考え込む。
「なんというか、濃すぎて時間間隔が狂うわね」
 そして、ブラヌ達と笑い合った。
 それから、パン…類を配って回っている優子とアレナを見て、友人と楽しそうに話をしているゼスタの方も見て、微笑みを浮かべる。
「ゼスタやアレナは優子さんの養子になるって噂があるし、人生って不思議よねー」
 自分がここにいることも、理子やジークリンデがここにいることも、不思議だなと感じる。
 不思議な巡り合せで、今、自分達はここにいる。
 そしてこれから、どれだけ不思議な巡り合せが訪れるのだろうか。
「私にとって一番のめぐり合わせは言うまでもなくお嫁様なのだけど。
 ゼスタやあなた達、アレナにとて一番のめぐり合わせってなにかしらね?」
「お、俺は……」
 ブラヌはちらりと、彼女の姿を見て「へへへへ」と笑う。
 ブラヌの彼女――佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)は、優子を手伝い、装飾パン…を作ったり、配ったりしている。ブラヌには本当にもったいない素敵な女性だ。
「一番は決められねェな。優子にとっては、オレだろうがなァ!」
 竜司はホールにいる仲間や舎弟達を見てそう言った。
 くすっと祥子は笑って。
「お土産用のパン…も貰ってこようかしら。アレナが焼いたパン…もあるみたいだし」
 ティセラへのお土産にしようと思い、祥子は立ち上がった。
「あたしも、アレナちゃんのパン…食べたいな♪」
「ミーナも、皆へのお土産用、欲しいですー」
 葵とミーナも笑顔で立ち上がって、一緒にパン…置き場へと向かうのだった。