リアクション
「ようちゃん、あたしたちもあれ乗ろう!」 ○ ○ ○ 「うう……」 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、自分の両手を見ながら眉間に皺を寄せていた。 「さー、早速あのコースから行ってみよ〜♪」 共にここ、森林公園へと訪れたルカルカ・ルー(るかるか・るー)はとっても元気だった。 「だれの手だこれは。しせんはひくいし……あたまのなかにきりがかかったみたいで、かんがえがまとまらない……おっ」 「さー、ダリルも行こー!」 5歳児と化したルカルカが、同じく幼児と化したダリルの小さな手を引っ張って、アスレチックの方へと連れて行く。 配られたジュースが、何らかの作用のある薬だとダリルは気付いていたが、不意にルカルカに飲まされてしまい、幼児になってしまったのだ。 「よし、どっちが上まではやくいけるか、きょーそーしよっ」 「子供かっ!」 ダリルはルカルカの手を振り払って両腕を組んだ。 「ふーん、じゃルカのかちだね! よーい、どんっ」 ルカルカがスタートの丸太をぴょんぴょんと飛んで越えていく。 「まて。……負けるのは……ん……しゅみ、に、あわない」 言葉を考え出しながらダリルも走っていき、丸太を飛び越える。 「ははは、ダリルやっぱりきたねー。でもルカ負けないよ♪ ほいほいっと」 両手を広げてバランスをとって、ルカルカは丸太を渡り、ロープを掴んで、網に足をかけて壁を登った。 「負けん、ぞ……っ」 ダリルが物凄い速さで近づいてくる。 「さいしょからちからいっぱいがんばっちゃうと、ゴールまえにへばっちゃうよー」 ルカルカは少し焦りながら、丸太渡りへと進んだ。 吊り橋よりもずっとぐらぐらと揺れる。小さな手でロープに捕まりながらルカルカは先を急ぐ。 「おねーさんぜんぜんとおんねーじゃん。つまんねー」 「ズボンはいたガキばっか〜!」 「えっ!?」 突如、下から声が響いた。 いじめっ子ブラヌと仲間たちが丸太渡りの下から上を見上げている。 「こら〜。そういうことしてると、つまかえてけいさつにつれてくよー」 「うるせー」 ブラヌ達がゆさゆさ丸太を揺する。 「あっ」 ルカルカは足を踏み外してしまう。 「……っと」 間一髪。落ちそうになったルカルカを、ダリルが右手で綱を掴んだまま、左手でルカルカの腕を掴んで助けてくれた。 「ほうっておけ。いくぞ」 そして、すたすたと先に行ってしまう。 「……あっ、まってまけないんだからー!」 ルカルカは悪戯をしてくる悪ガキを無視して、急いでダリルの後を追った。 「ゴール! やったね」 「ついたか」 ゴールへの到着は、同時だった。 競争していたけれど……互いに、相手を気遣っていたから。 「ダリル、ありがとね。つなわたりの時とか、助けてくれてっ!」 お礼を言うと、ルカルカはぎゅっとダリルに抱き着いた。 「いつも、ありがとう。大好きよダリル」 「……気にするな。かまわんよ」 ダリルはルカルカの頭を撫でてあげた。 途端、ルカルカの顔が満面の笑顔になる。 「……」 ダリルの口元に笑みが浮かぶ。言葉には出さない――出来ない幸せという感情を、ダリルはじんわりと感じていた。 ○ ○ ○ いじめっ子ブラヌと、仲間達は一生懸命何かを書いている小さな男の子に近づいた。 「なんだこいつ、ラブレターなんかかいてるぜ」 「どれどれ〜」 「あっ!」 男の子――幼児化した風馬 弾(ふうま・だん)の手から、手紙を奪うと、ブラヌ達は声を出して読みあげていく。 「らぶ…なんとかじゃないのぉ〜、おてがみなのぉ」 とっても大切な手紙だったので、弾は体当たりをして手紙を奪い返した。 「こいつ、なまいきー」 「よぉし、おれたちとすいじょうこーす行こうぜ〜」 「おまえがおちないように、おれたちがうしろからついていってやるぜ」 後ろから突き飛ばす気満々で、ブラヌ達は弾を水上コースへ連れて行こうとする。 「こら〜。嫌がってる子を連れて行ったらダメだよ。それに、その子はボクの大切な子だから連れてはいかせないよ」 教師やスタッフと、弾や子供達見守っていたアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が駆けてきた。 「おねえちゃーん、ぼく、すいじょうこーすいきたくないよぉ」 「はいはい、行かなくていいよ。好きなように遊んで過ごしていいんだよ」 泣きながら抱き着いてきた弾の頭をアゾートは優しく撫でた。 「女か」 「それなら、パンツ、とらせてもらうぜー!」 ブラヌたちはカメラを手にアゾートの元に駆けてきた。 「……魔法で追い払いたいところだけど、我慢だね」 「わわっ」 アゾートは弾を抱っこすると、水上コースへと向かって巧みにアスレチックをこなして、悪ガキ達を退けた。 「おねえちゃん、すごい〜」 「ま、子供用だから簡単だったしね。……ところで弾くん、何書いているの?」 「んーと、かえるときまでひみつ〜。もうちょっとひみつなんだよぉ」 「そっか、“おねえさん”に書いてくれてるのかな?」 「うん」 にこっと弾はアゾートに笑みを見せた。 そして、ベンチの上に紙を置いて、手紙の続きを書いていくのだった。 悪ガキ達に追い回されたり、からかわれたりして、そのたびべそをかきながらも、弾はアゾートへの手紙を一生懸命書いていた。 理由はよくわからないのだけれど、何故かアゾートにお礼の手紙を今かかなければいけない気がして。 お昼を食べた後も、眠気を我慢して続きを書いていた。 「できたぁ」 ようやく書きあがった手紙を大切にポケットにしまい。 「おねえちゃん、ちょっとここでおやすみしててねぇ。ぼく、おはなみたいから〜」 アゾートをレジャーシートの上に残して、弾は花畑に駆けて行った。 帰りの新幹線の中。 弾は森林公園で書き上げた手紙と、摘んだお花をアゾートに渡したのだった。 『おねえちゃん、きょうはありがとー。 6がつ2かは、おねえちゃんのおたんじょうびだよねぇ。 おめでとうー。 こうえんであつめた、おはなをあげるー。 ぼくは、みんなのしあわせのために、けんじゃのいしをつくるおねえちゃんがすごいとおもいます。 そんなおねえちゃんがだいすきです。 ぼくも、もっとつよくなって、みんなや、おねえちゃんをまもれるようになりたいです。 ふうまだん』 |
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