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第3章 “場”の召喚
 
 
 あらかじめ、その時間を定めておき、あとはHCで連絡を取り合ってタイミングを合わせた。
 時計と、各担当場所から上がる光の帆柱を見て、リネン達も魔法陣を発動させる。
 魔法陣から上がった光の柱は、横に広がって、隣り合わせる魔法陣と繋がる。全てが繋がった瞬間に、“場の召喚”が成る。

 だが、広がる光の勢いが、ぐんと止まった。
「くっ……! 抵抗が……」
 魔法陣の発動に精神を集中させるリネンが、苦痛に表情を歪める。
 ぼや、と上がる光が弱まり、足元の地面が揺れててるような気がする。
 魔法陣の外で、ミュートがハラハラと見守った。
「リネンちゃん、ファイトですぅ〜」
「これしきの圧力に……負けたりしないわ……!」
 重圧に耐えながら、リネンは魔法陣に集中する。


 かつみ、ナオ、エドゥアルトは、三人輪になって指定の区画で手を繋ぎ、一緒に発動の為の精神を集中していた。
「うわぁっ、な、何か、持って行かれちゃいますっ!」
「頑張って!」
 何かの力が、魔法陣に集中する意識を引き千切ろうとしているようだ。
 懸命に頑張るナオを励ましながら、エドゥアルトは、作成される筈の光の円の中心――アトラス火山の中心を見る。
(皆……!)
 そこに浮かび上がろうとしている影を見て、エドゥアルトは待機している仲間達を思う。
 よろしく頼むよ、と心の中で言う。全ては彼等にかかっている。


「出たか……!」
 浮かび上がる巨大な影を見上げて、トオルが呟いた。大きい。
 その影は、ゆっくりと人の形を成そうとしている。
 それに伴って、陣に集中するレキの苦痛も大きくなった。
「くっ……重たい……!」
「しっかりせよ、レキ!」
 ミアがレキと同じ区画に入り、レキの補助をする。二人で集中すれば、苦痛も分け合えるはずだ。
「トオル」
 ぱらみいを抱えたシキが、ぐるりと周囲を見渡して、トオルを呼んだ。
「近づいて来る」
「え、何が?」


 咆哮を上げながら、火のオウガが現れた。
「真由子、ここは任せたぞ!」
 フリーレ・ヴァイスリートが、酒杜陽一と共に、それに対峙する。
「うんっ……う、お兄ちゃん達が外れると、集中がきつい……でもっ」
 従者やペットの皆と作成した魔法陣の一角で、美由子は魔法陣の発動に集中するが、何か強い力が、それを阻む。
 何か――言うまでもない、現れようとしている、巨大な影だ。
「あれが術の反発の原因よね……。皆、早く何とかして!」
 必死に耐えながら、真由子は念じる。

「待ってくれ、俺達に害意は無い。暫くこの場所を使わせて欲しいだけだ!」
 陽一が、向かって来る火のオウガに向かって叫ぶが、止まる様子は無かった。
 ビリビリと感じる攻撃性が薄れる様子も無い。
「説得は無駄のようだな」
 フリーレの判断に頷いて、陽一は、連れていた夏のお嬢さんに氷結属性を付与して貰って下がらせる。
 ソード・オブ・リコを構え持ち、オウガの振り下ろした拳を躱して応戦した。
 ズシン、と地にめり込んだ火の拳が、ブスブスと地面を焦がす。
「注意を怠るな。あれに殴られれば、焼かれて顔の形が変わるぞ」
「……それは困るな」
 フリーレの指示に、陽一は苦笑した。


 ニーナが叫んだ。
「来るわ。火のオウガ! こっちに向かって来る!」
「召喚した途端に出て来るとか……何か引き付けられるものがあるのか?」
 信が、弾丸に氷を纏わせ、備えながら呟く。
「あれに反応してるのかも」
 ハイコドが、アトラス火山の中心に現れようとしている、巨大な影を見て言った。
「アトラスの影は凶暴状態だって話だよな。てことは、漏れなくアレも、か」
「北東の光が弱まった……。向こうにも現れたのかしら?」
 ニーナが、各方角の魔法陣から上がる光の様子を見て言う。
「こっちが何とかなったら援護に行くわ! まずはあいつから!」
 ソランが叫び、火のオウガに向かって飛び出す。
「ふう……。
 全員、魔法陣及び仲間を死なない程度に死守せよ!
 一人の人間救うのに、一人でも死んだら意味が無いわ!」
 火のオウガの攻撃性については判断するまでもなく、ソランを止めることを諦めたニーナは、仲間達に指示を出した。
 もうもうと煙を上げ、炎を体内にくすぶらせながら向かって来るオウガに、ニーナはホワイトアウトの魔法で吹雪を起こした。
 視界の悪い吹雪の中で、赤黒い塊が動きを鈍らせているのが見える。
「やっぱ冷気での攻撃はいける……! なら!」
 ハイコドは、その塊に向かって走り、冷気を纏わせた触手をオウガの足に絡めたが、冷気が効果を出す前に、触手の方がじりじりと焼かれ始めて、慌てて引っ込めた。
「あれを冷やすのはことだぜ!?」
 鈍りながらも、オウガの足は、魔法陣と、それを護るハイコド達に向かう。
「邪魔はさせないわ!」
 ニーナは、アブソリュート・ゼロで氷の壁を展開した。
 阻まれて、オウガはドン、と壁に拳を叩きつける。やった、とハイコドの目が輝く。
「おお! 流石俺達のメイン盾!」


 火のオウガが向かって来る。
 リネンは召喚よりまず、この陣を護る方を優先させた。
「絶対に此処に近付けさせない。こちらから行くわ。ミュート、後は頼んだわ!」
 リネンはミュートに叫びながらネーベルグランツに跨り、火のオウガに向かって行く。
「任されましたぁ」
 と送り出したものの、さて、とミュートは魔法陣を見た。
「これをワタシが維持し続けていないといけないんですねぇ。ま、痛いのは大歓迎ですけどぉ」
 ふふっと笑いながら、ミュートは魔法陣の一角に立つ。
 愛馬のペガサスで一気に火のオウガに向かったリネンは、アーリエの剣を抜き、融合機晶石を用いて、それに氷結属性を加えた。
「今を生かす為に……もう一働きして貰うわよ、アーリエ!」
 リネンは、オウガが突き出して来た手を斬り払う。
 オウガは怯んで手を引いたが、再び振るって来た手に傷は無かった。
「再生能力……? 
 けど、これ以上は進ませない!」
 リネンは攻撃を続ける。


 襲撃に備えて待機していた布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)とパートナーのエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が、火のオウガに向かって駆け出す前に、召喚の妨害に、思わず頭を押さえて座り込んだキャンティ達を振り返った。
「あのオウガには私達が向かうわ! 召喚に集中して!」
「よろしく頼みます」
 キャンティの傍らで、がそう言って送り出す。
「ロックトロールと言うか、岩というより、溶岩の塊なのね」
 火のオウガを見て、エレノアがそう評した。
 そう、火のオウガは、溶岩を人型に固めたような形をしていた。
 高温で燃える岩が、体中から黒い煙を上げている。
「あれじゃ、普通に槍や剣で攻撃しても埒があかないわ」
「目とか口の位置が窪んでる。
 あそこからもぼうぼう炎が溢れてるけど、そこを狙って冷気系統の攻撃を仕掛けるよ」
「そうね」
 佳奈子はハーゲンダーツとエレノアのスピアに氷術を纏わす。
 エレノアは、火のオウガからの攻撃の対策として、ファイアプロテクトの魔法を自分と佳奈子に掛けてある。
 佳奈子が放った氷の矢は、オウガの目の中に吸い込まれて消えた。
 焼け石に水のようにしか見えなかったが、身の丈三メートルはありそうな巨体を相手に、一矢で終わらせられるとは思っていない。
 反応したオウガの意識がこちらに向いたのを見て、佳奈子とエレノアは左右に距離を取った。
「どんどん射って行くよ!」
 佳奈子は、間をおかずに次の矢を放つ。