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リアクション
第2章 大切な今日
“私たち”
2024年に、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は結婚をした。
付き合い初めてから結ばれるまで、様々な障害があり、時間もかかった2人だけれど。
2人で生きていくことを選び、2人ともその選択を後悔していなかった。
それから数年の時を経て……。
今、セレンフィリティの体内には新たな命が宿っていた。
「ああ、本当に未だに不思議な気分……」
自宅のソファーで、大きくなったお腹を不思議そうにセレンフィリティは眺めていた。
「そうね、信じられない気持ちはまだあるわ」
傍で洗濯を畳みながら、セレアナもセレンフィリティのお腹を見つめた。
同性同士なため、子供に恵まれることはないだろうと、互いに思っていた。
だけれどここはパラミタ……その手段はあったのだ。
セレアナはそっと自分の胸に手を当てた。
自分が人の親になるなんて、やっぱりまだ信じられない。
だけれど、確かにこの胸の奥に温かなものが広がっている。
自分の本能は……この子の誕生を待つ親なのだ。
「名前どうしようか? 2人の名前の最初を繋げるとかどう? セレセレ〜。夫婦子供合わせてセレセレセレ〜♪」
「何言ってるの」
「セレママ、セレ母、ちびセレって呼び合うの。楽しそー!」
「周りが混乱するわよ。もう……あなた、もうすぐ母親になるのよ」
子供のようにはしゃいでるセレンフィリティに、セレアナは軽くため息をついた。
「えー、楽しそうなのに。ねー、セレ」
セレンフィリティはお腹に手を置いて、我が子に語りかける。
生まれてきた子を2人で世話する姿や、一緒に公園で遊ぶ姿。買い物をする姿を思い浮かべ、セレンフィリティの顔に微笑が浮かぶ。
それはとても幸せな日々だろう。
……だけど。
その一方で、小さな胸の苦しみをも覚えていた。
セレアナのことが、本当に好きだから。2人で生きていくのだと決めて結ばれたから……。
もし、愛する人との間に子供が産まれたら、自分の愛情はセレアナではなく、生まれてくる子に向けられるだろう。
そして、セレアナの愛情も子供に向けられるのだろう……。
心の片隅にある、そんな恐れが、たまにセレンフィリティを不安な気持ちにさせていた。
「どうしたの、セレン」
セレンフィリティの小さな変化を感じて、セレアナが声をかける。
「え? ううん、なんでもない……わけでもないかな」
へへへっとセレンフィリティは笑う。
ちゃんと話さないと、セレアナを不安にさせてしまうということが、もう良く分かってるから。
大切な彼女と、もうすれ違いたくはない。お互いを想う気持ちは、同じなのだから。
「ええっと……ほら、この子が生まれたら、お互い、この子が一番大切になるのかなって。それが少し不安なの。他に愛情を向ける存在が出来る、のが……」
「セレン……」
セレアナは手を止めて、セレンフィリティの隣に腰かけた。
そして、彼女の手の上に、自分の手を乗せる。
「私たちはこれからもずっと、私たちのままよ。生まれてくるこの子も……“私たち”よ」
「私たち……そう、私たちの一人になるんだね、あなたは」
セレンフィリティはお腹をそっと撫でながら、セレアナに寄り掛かった。
セレアナはセレンフィリティを抱き寄せて、セレンフィリティの手の上に自らの手を重ねた――。
数日後。
セレフィリティは病院で元気な女の子を出産した。
「ああ……ううう……」
髪の色はセレアナと同じ黒。瞳の色は、セレンフィリティと同じ緑色だった。
小さな小さな我が子を抱くセレンフィリティの目に、奥からじんわり湧きあがった涙が浮かんで、ぽろぽろと落ちていった。
「セレン、ありがとう」
2人を覆うように抱きしめるセレアナの目からも涙があふれていた。
「……あたし……セレアナと、この子と出逢えたことが何よりの幸せよ……そして……ずっとこの幸せを……」
最愛の人といられる幸せと、その人と育んだ愛が一つの形になって、3人を結びつける瞬間を迎えたことの幸せと。
これからの人生を皆で紡いでいく幸せに、今はただ、涙するだけだった。
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