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ようこそ! リンド・ユング・フートへ 5

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リアクション

 陣、ユピリア、ティエン、義仲たちは、アルサイードをあやす美羽たちから離れた所に座るアナトの姿を見かけて、そちらへやって来ていた。
「アナトさーん」
「あら、あなたたち」
 エルマスが眠るかごから頭を上げて近づいてくる彼らを見たアナトは、歓迎する笑みを見せる。真っ先にたどり着いたユピリアが、赤ん坊用の抱きかごのなかを覗き込んで思わず歓声を上げた。
「きゃー! かわいーっ!」
 直後。
「うるさい。起きるだろ」
 ゴン、と陣のこぶしが落ちる。
「痛いわねっ。そんなこと分かってるわよ」
「分かってなかっただろ」
「それにしても、本当にかわいいわ。美男美女の間に生まれた子どもだものね、きっと美女になるわー」
 陣の言い分の方が正しいことが分かりきっていたので、ごまかすようにまたエルマスに見入って言った。今度は声を落としての言葉に、やれやれというふうに肩をすくめた陣だったが。
「ねぇ、陣。私たちも早く子どもつくりましょうよ」
 という言葉に、つい反応してしまった。
「はぁ?」
 何言ってんだてめェ? との威嚇を込めた返答だったのだが、ユピリアには通用しない。
「やーん、照れちゃってっ」
「照れてなんかねえ! あきれてんだ!」
「よぉーしっ、今度は実際にアガデに行くわ。
 アナトさん、そのときは陣がその気になるように協力してねっ!」
「……え?」
 ティエンと話していたアナトは、いきなり話を振られてとまどう。
「もう! お姉ちゃんってば。アナトお姉ちゃん困ってるじゃないっ」
「気にするな、ティエン。どうせ何を約束したところで、言った本人が忘れる」
 義仲の言葉は正しかった。ここは無意識世界。そこで起きたことは何であれ、意識世界へ持ち帰ることはできない。
「そんなことないわ! だって無意識と意識はつながってるってスウィップも言ってたじゃない。きっと強い強い衝撃的なことは、それとして覚えてなくても感覚として影響をおよぼすはずよ!
 ねえ陣! 私のこと好きだって言って! 愛してるって! きっと現実世界へ持ち帰ってみせるから!」
「おまえ、このことにかこつけて言質取ろうとしてるだろ」
「ええ? そんなぁ」
 などなど。いつもの調子で言い合いをする陣とユピリアは、もうすでに夫婦漫才の領域に入っている。
 毎度のことと見守って、適当に聞き流しているティエンと義仲だったが、アナトはまだ慣れていないせいかかなり困惑している様子だ。それと悟って、ティエンはアナトの気をそらすことにした。
「あの2人は気にしないで。
 あと、僕たちが責任持ってエルのことは見てるから、アナトお姉ちゃんは少し息抜きしてきたらどうかな?」
「……そう?」
 まだ幾分混乱しているようだったが、ティエンが言うことだからとアナトはその場を離れた。そして今はフィリシアに抱っこされているアルサイードの方へ様子見に向かう。それをティエンは手を振って見送り……アナトがもう振り返らず、彼らと合流するのを見て、ゆっくりと手を下ろした。
 そしてあらためてパーティー会場のみならず、周囲に目を巡らせる。
「どうかしたのか?」
 その、あきらかに人待ち顔といった様子に、義仲がかごを揺らす手を止めて訊いた。
「や。うん。何でもないよ」
 首を振って戻る。けれど義仲はそれで納得せず、むしろ視線がますます懐疑的なものになっているのを見て、ティエンは向かい側で苦笑した。
 かごのなかのエルマスを見下ろす。あらためて見ると、微妙な差異はあるが兄のアルサイードにそっくりで、ティエンは初めて双子たちと会ったあの日のことを思い出しながら、ぽつりぽつりとそのときの不思議な体験をについて話した。
「白昼夢というやつか」
「光の中にいたあの人に、もう一度会いたいって思ったの。
 ユピリアお姉ちゃんは僕が恋したって言う。
 そう、なのかな?」
「ユピリアは何でも恋だの愛だのに結びつけるからな。そういうのは話半分で聞き流すのがよい」
 義仲の返答に、ぷっと吹き出してしまった。
「よく分かんないけど、もう一度会えたら分かるのかな、って」
「ふむ。
 つまり、ティエンはそやつに会いたいのだな」
「うん。だって、あのときは本当にほんの一瞬で、あまりに短すぎて……」
「ここでなら会えると考えたか。
 しかし会えたところで、ここでは――」
「もちろん、会っても今日のことは忘れちゃうよ。それでもいいの。あの人がみんなの言う白昼夢とか幻なんかじゃなくて、本当にどこかに存在する人だと分かったら、いつか会えるその日を楽しみに待てるようになると思うから」
「そうか」
 ティエンの健気さに、義仲は感じ入ると同時に不安にも思う。普通に考えて、それは単なる幻だ。幻を追い求めて、ティエンはこれからの年月を無駄に過ごすことになりはしないだろうか。
「大丈夫だよ、義仲くん」
 ティエンはわずかに眉間に寄った眉から義仲の懸念を読み取って言う。
「本当に大丈夫だから」
 きっと、あの人は幻なんかじゃない。絶対にまた会える。
 ここでなくとも、きっとどこかで。
 ティエンはそう思い、人差し指でエルマスの額をなでた。