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リアクション
第7章 虹の間に(プール)
「さっさと……プールの続きをさせろじゃあああああ!!」
セシリア・ファフレータの八つ当たり……正当な怒りの炎が、水蛇にぶち当たる。
ジュウ〜っという音と共に蒸発する水。
「既に再生能力も限界にきている……後、一頑張りね」
織龍とニーズも攻撃の手を緩めない。
「後は核の位置だけだな」
方伯とジュンイーのコンビネーションに、水の蛇がのたうつ。
「ヒット・アンド・アウェイは攻撃の基本よね」
魔法少女めいた可愛いワンピースの裾を翻らせつつ、さゆみもまた執拗に攻撃を仕掛けていた。
「私が倒せなくてもいい。だけど頑張って攻撃してたらきっと、誰かが倒してくれるわ」
他の皆の為にもSAYUMINは負けない!
「マジカルミラクルSAYUMIN、いっきま〜す♪」
口調とは裏腹の正確な攻撃が、徐々に水の蛇を操る力を削いでいく。
「大切な人も守れずに男なんて言えないよ。次こそは守り抜くと、僕自身のためにそう決めたんだ」
あのままアキちゃんに何かあったら……カナンは唇を噛み締めた。
もう二度と大切な人達を失いたくない。
だから。
「蛇さんには悪いけど負けられないからね」
その傍ら。
「災厄として生まれ、ただ悪として語られるのはどれだけ辛いことでしょう」
暴れる水の蛇を見つめ、優菜はポツリと呟いた。
『……っ!』
瞬間、蛇の動きが止まった。構成する水が、ザワリと震え。
もたげた鎌首、優菜の澄んだ青い瞳が、無い筈の瞳を捉えた。
「寂しいのですか? 哀しいのですか?」
感じ取れた気がする微かな感情の色が、胸に痛かった。
「今ここでそうやって力を使うほど悪は悪だと語られていく。悲しい記録が増えていく……そんなの寂しすぎます」
だから。
「もう一度眠って下さい。何も考えずに静かに、穏やかに」
「蛇も…苦しい…思う…。でも…ボク…も……今、の…日々……好き……だか、ら…ごめん…ね…?」
止める七海に無理を言って攻撃しながら、晶は謝った。
身をよじるその姿はどこか哀しく。
それでも、晶は選ぶから。
今の日々を。
パートナーがいて仲間がいるかけがえの無い日々を、守りたいから。
そうして。
「とろすぎじゃのぅ」
ガートルードの【リチャージ】を受けたシルヴェスターが、【轟雷閃】を放つ。
「轟雷閃3連撃!」
三連撃が、水蛇の巨大な肢体にぶち当たる。
それは水蛇に散らばる黒き力を阻害する。
僅かな間だが。
その僅かな間で、充分なのだった。
【スネークイーター】の面々が、いや、さゆみや方伯や陸斗達が、動きを止めた欠片を次々と撃破していく。
「轟雷閃を使って核にダメージを当てる、みんな水から離れてくれ!」
頃合を見計らって、疾風が仲間達に指示する。
核を守っている黒き欠片。
だが、それは仲間達が破壊してくれた。
とすれば、今が好機!
「【轟雷閃】!」
「……今!」
タイミングを合わせ、由香の声に従ったルークが最大級の【雷術】を叩き込んだ。
「怖い……だけどここで逃げちゃダメなんです」
その光景。影野陽太(かげの・ようた)は歯を食いしばり、恐怖と戦っていた。
「これがわたくしの必殺技ですわ……くらいなさい!」
直後、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の炎が、水蛇に襲い掛かる。
グギャァァァァァァッ。
炎と水。高熱の水蒸気が陽太の視界を阻む。
「!? これじゃあ……」
けれどその時、声がした。
「わたくしがつくってさしあげたチャンス、フイにしたら承知しませんわよ!?」
確かに向けられた、不敵な笑み。瞬間、恐怖も震えも吹き飛んだ。
「あそこが、核!」
指先が滑らかにトリガーを引く。【シャープシューター】……それは真っ直ぐ水の蛇の核へと向かう。
最後に残った黒き力の欠片が、バリアのように核を守ろうとし。
確かにそれは役目を果たした。
相打ち。
陽太の一撃は、黒き力の欠片を消し去ったのだから。
そして。
「隠れさせません!……【双龍・爆炎波】!」
ウィングが二刀からの爆炎波を打ち込む。
周囲の水が吹き飛ばされる。
開かれる、核までの道。
それは一本の軌道。
「……止めを差してやる……ユニ!」
「はいっ!」
応えるべく、クルードはユニを呼んだ。剣の花嫁たるユニから取り出されし光条兵器……身の丈ほどもあろう野太刀の形をしたその銘は、銀閃華。
軽々と抜刀し、クルードは吠えた。
「喰らって果てろ! 【銀光我狼撃】!」
銀閃華より放たれる、銀色の狼。否、銀の軌跡を描くそれは牙剥く狼に似たる、衝撃波だった。
核を失った蛇はその形を保つ事は出来なかった。
蛇だったモノは、水風船が破裂するように、呆気なく弾けた。
色とりどりの水。
入り混じるカラーが、空っぽのプールにスコールのように涙のように、降り注いだ。
代わりに。
空には、七色の光が現れた。
虹はキラキラと輝き、戦いの終わりを照明しているかのようだった。
「やったぁ!……って、こんな時くらい良いじゃない」
いつものように恭司に抱きつこうとしたクレアは、これまたいつものように撃墜された。
「自分の格好を思い出して下さいね」
「あっ水着……もしかして意識しちゃったり?」
「違います。そんな格好で抱きつかれたら濡れてしまうでしょう?」
「むぅ〜、もう遅いし気にしなくていいと思うけど」
その突っ込みは、やはり恭司に黙殺されるのだった。
「皆、ケガはない? 師匠は?」
「大丈夫だ」
「どんな小さなケガでも言ってね?」
晶や優菜の間を飛び回る遥のツインテールが、ぴょこぴょこと嬉しそうに跳ねている。
「遥だって疲れてるだろうに……浮かれてすっ転ぶなよ」
仲間の無事を、深刻なケガをした者がいなかった事を喜んでいるのは、疾風も同じだったけれども。
「はい! 僕もケガしてるよ!」
「兄さんはちょっと手を擦りむいただけでしょ? それより井上さんの方が重傷ですよ」
「お〜、いや、とりあえず無事だから……おごぅっ!?」
「アリシアぱ〜んち! あ、やっぱ治療が必要っぽいよ」
「うん、じゃあ早速……大丈夫、痛くしないから」
安堵と達成感とに湧く仲間達。
「お疲れ様でした」
サラリ、ポニーテールにした青い髪を揺らし微笑むユニに、クルードは唇の端をホンの少しだけ持ち上げたのだった。
「ただでさえアルバイトで疲れてたのに避難誘導までやってもうくたくた……早く帰りたいわー」
プールサイド、ぐったりと身体を投げ出した永久は、みつよをじっと見上げた。
「みつよのわがままに付き合ってあげたんだから、帰ってからの晩御飯は奮発してもらわないとねー」
「分かってる。永久にはすごく頑張ってもらったから、寮に戻ってからの晩御飯は美味しいもの作ってあげちゃう」
期待してて、微笑むみつよに、永久の顔にもようやく喜色が浮かんだ。
「何だったのよ! あの水蛇は!?」
ケガ人の治療に当たりながら、ミルディアの口からそんな言葉が出るのは当然と言えば当然の事だった。
「あれは何だったのですか?」
「あぁ。何か災厄って話だ」
小首を傾げた真奈に応えたのは、陸斗だった。
「まぁそれも倒したし、花壇で封印も出来たらしいし、これで全て終わりってわけだ」
「そうですか、なら良かったですわ」
「良かったじゃない! あたしのプールできゃはは♪、な時間はどうしてくれるのよ〜」
「終わり、だよな」
ミルディアと真奈のやり取りに頬を緩めつつ、陸斗の表情はどこか晴れなかった。
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