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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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第2章 血路

 《工場》内部に入った探索隊は、まっすぐに、出来る限りの速度で中枢区画へ向かった。前回の探索で黒乃 音子(くろの・ねこ)たちが作った地図に、他の班の情報も書き加えて、探索済みの部分の地図が作られているため、少なくとも道に迷うことはない。光線兵器も潰してあるので、行きは戦いながら数日かかったところを、1日あまりでほぼ踏破してしまった。
 「急いだからちょっと疲れたけど、楽勝だったね!」
 チョコレートをもぐもぐ食べながら言うパートナーの機晶姫エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)の言葉にレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)は青くなった。
 「気を抜いちゃダメですよ! それに、ここまで無事に来られたのは、前回までにここに入った皆さんが頑張って下さったからなんですし……」
 「はぁい……」
 エリーズはちょっと機嫌を損ねたようで、唇を尖らせて返事をした。
 「そうだよ。奥に行けば行くほど、探索してない場所が増えるんだから。どこから敵が出てきてもおかしくないよ」
 地図を見て音子は言う。音子たちは前回、最初から地図を作るつもりでいたので、分岐した通路の先などもある程度どうなっているか調べてある。しかし、風紀委員たちと『白騎士』たちが進んだルートはほぼ一直線で、分岐や十字路を曲がった先はほとんど調べられていない。せいぜい、『ここで横から敵が出て来た』程度の情報があるだけだ。しかも、今回かれらが進むのはその、角一つ曲がるとその先はどうなっているかわからない方のルートなのである。
 「敵の数は減ってるはずだから、空白の部分を通って後ろに回りこまれたとしても、数はそんなに多くないとは思うんだけどなぁ……」
 「私たちがここへ来るまでの間も、攻撃はありませんでしたですよ?」
 物資の集積所を作りつつ皆の後から追いかけてきた皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が、日本茶と『覚醒!総員おこし』と書かれたお菓子の包みを差し出しながら言う。
 「おかげで、安心して物資の集積所を作ることが出来たでござる」
 「はい、少々拍子抜けいたしました」
 伽羅のパートナーのうんちょう タン(うんちょう・たん)皇甫 嵩(こうほ・すう)がうなずく。
 「しかし、前回は遺跡のあちこちに敵が分散していたのに対して、今回は敵も戦力を集中して来るはず。侵入者を察知するシステムが備わっているのだから、当然、我々が居る場所に集まって来ると考えるべきでござる。光線兵器は潰せているが、センサーまでは潰し切れていないでござろうし」
 音子のパートナーの剣の花嫁フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)が言う。
 「そうだね……ボクたちは、念のため一番後ろに回ろうか」
 音子はフランソワと、英霊アルチュール・ド・リッシュモン(あるちゅーる・どりっしゅもん)、ゆる族ニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)を連れて隊列の最後尾、風紀委員たちの後ろに回った。伽羅たちは、明花に同行する。
 (……あそこに居られると邪魔なのだけど……)
 それを見て、香取 翔子(かとり・しょうこ)は、後方に下がった音子たちを見て心の中で舌打ちをした。彼女は今回の作戦で、ある目的をもって、査問委員の腕章を外し、髪型を変えて伊達眼鏡をかけ、風紀委員たちの中ではなく、どの派閥にも属さない生徒たちの集団の中に紛れていた。
 (さて、どうしたものかしら……上手くかれらをあしらって目的を達成し、委員長に褒めて頂くことができるかしら?)
 ちらちらと音子たちの方をうかがいながら、翔子は機会を待つ。

 「ヴォルフガング。我らは懲罰部隊をそれとなく支援する事で、件の扉を誰よりも早くくぐろうと思っているが……貴官たちはどうする?」
 一方、隊列の前の方では、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)ヴォルフガング・シュミットに耳打ちをしていた。
 「先日からそうだが、随分と『白騎士』に協力してくれるのだな」
 ヴォルフガングの言葉に、レオンハルトは笑顔を返した。
 「俺は貴官の、『白騎士』の理念は好ましく思っているよ。人は生まれによって違えられるに非ず、だ」
 「実は、そう褒められたものでもない」
 ヴォルフガングは小さく苦笑した。
 「金鋭峰が風紀委員や査問委員を優遇するように、そして、日本が国費留学生の派遣という形でパラミタの技術や知識を地上へ持ち帰りたいと考えるように、我々もまた、地上の思惑に縛られている」
 「ヴォルフ」
 パートナーのエルダが小さくヴォルフガングを叱責する。だが、ヴォルフガングは仕草でエルダを制した。
 「たまには、本音を出しても良いだろう。……本当に『生まれによって違えられるに非ず』と思っているなら、『白騎士』をヨーロッパ系の生徒の派閥という形にするべきではない、とは思わないか?」
 まっすぐにこちらを見て言ったヴォルフガングの言葉に、レオンハルトは目を見開いた。ヴォルフガングは言葉を続ける。
 「我々の本当の存在意義は、出身による扱いの差異を撤廃することではない。金鋭峰の、……ひいてはその背後にあるものの伸張を牽制することだ。その結果、生徒が平等に公平に扱われるようになることはあるかも知れないが、それはあくまでも結果的にであって、我々の本来の目的ではない。もちろん、個人的に思うところは色々とあるが、そういった思惑のもとに、我々はパラミタに来た。いや、送り込まれたと言うのが正しいな」
 言葉を失っているレオンハルトに、ヴォルフガングは言った。
 「もしも君たちが本気で『風紀委員・査問委員の専横を廃し、教導団に平等を』と思っているのなら、君たちと我々は、いつか袂を分かつ日が来るかも知れない。それが判っていて、黙っているのは卑怯だと思った」
 「……そうか。話してくれてありがとう、ヴォルフガング」
 レオンハルトはやっとそれだけ言った。
 「……『ヴォルフ』で良い」
 ヴォルフガングは微笑した。それは、パートナーであるエルダと、『白騎士』の中でも彼と特に親しい数人だけが使う呼び名だった。
 「では、ヴォルフ。貴官が話してくれたことを考慮に入れても、今我々は協力しあうことが可能だと思うが?」
 今後のことは後でゆっくり考えるべきだ、と判断し、レオンハルトはヴォルフガングに訊ねた。
 「私もそう思う。ここは協力して、風紀委員たちより先に中枢区画に入ろう」
 ヴォルフガングはうなずく。

 「……何か、嫌な感じネ」
 少し後ろから二人が喋る様子を見て、相変わらず李鵬悠や風紀委員たちと行動しているサミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)は舌打ちをした。
 「団長は、生徒がケンカすルことを望んでルわけじゃないと思うネ。でも、団長から命令されてルのは風紀委員なンだから、あいつらがこっちに従えばいいのにネー」
 「いつの時代でも、人間は権力争いをするのだな」
 口元を袖で覆って、パートナーの英霊賈 クが鼻で笑う。
 「俺は権力争いしてルわけジャないヨ? ただ、団長に心も身体も捧げてるだけヨー」
 サミュエルは胸を張る。
 「誤解を招くような表現は止めんか!」
 クはぺし、とサミュエルの腕を叩く。
 「……そろそろだぞ」
 二人の後ろから、李鵬悠が低い声で言った。前回風紀委員たちが激闘を繰り広げた、中枢区画手間の通路が近付いて来たのだ。
 「……やはり、敵の残骸はきれいに片付けられていますな」
 隊列の、先頭からやや下がったあたりで、壁や床に焦げ跡や傷は残っているものの、きれいさっぱり片付けられた通路を見回して青 野武(せい・やぶ)は明花に言った。
 「多少破損した程度ならともかく、動作しなくなるほど破壊されたものが自力で片付くわけはないでしょうから、量産型機晶姫が残骸を回収しているのかしらね。でなければ、回収専門の機晶姫なりメカなりがいるのかも知れないわ」
 「まだ未調査の区画があるでありますからな。今までに我々が見かけたことのないものがまだ眠っている可能性も高いわけで」
 野武のパートナーである守護天使黒 金烏(こく・きんう)がうなずく。その隣で、もう一人のパートナー、英霊シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)が神妙な面持ちで会話を聞いている。
 「楊教官は、この遺跡には何が眠っているとお考えですか?」
 シラノの問いに、明花はかぶりを振った。
 「それは、まだ判らないわ。でも、円盤や量産型機晶姫だけではない何かがあるのは確かね。でなければ、あんな風に守ろうとはしないでしょう。もっとも、この遺跡自体が、遺失技術の塊のようなものだけれど……」
 「敵来ました!」
 前方から声がした。シラノが反射的に、明花を守るように身構える。