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リアクション
第4章 死闘
結局、教導団の生徒と義勇隊の間の壁が取り払われることがないまま、生徒たちは鏖殺寺院の襲撃を受けることになった。
攻撃は前回同様、火炎瓶による遠距離攻撃から始まった。補給担当の沙 鈴(しゃ・りん)らによって、前回の攻撃の後、弾薬など引火して困るものは防火を考えて置き場所を変更したり、防火布をかける、消火用の水を近くに用意するなどの対策を施しており、火炎瓶の攻撃で引火誘爆する危険性は大幅に減っている。しかし、人間に当たるようなことがあれば、やはる無事では済まない。
「始まったな……。黒い面の奴、早く出て来ないかなぁ」
教導団側の部隊では、数日前にここに着いたばかりのラッキー・スター(らっきー・すたー)は、戦う気まんまんでアサルトカービンを構え、パートナーの機晶姫コーデリア・ナイツ(こーでりあ・ないつ)と共に、バリケードに身を寄せて身構えている。
一方、義勇隊が配置されている遺跡正面中央では、久多 隆光(くた・たかみつ)が、冷静に双眼鏡で敵の様子を観察していた。火炎瓶は遺跡の中から発射されるので、発射している敵の姿をとらえることはなかなか難しかったが、発射地点の周辺を根気良く探すと、立ち木を使って作った大型のスリングを使って、オークが火炎瓶を発射しているのが見つかった。
「そこかっ!」
隆光は、アサルトカービンでオークを狙い撃った。一瞬飛んで来る火炎瓶の数が少なくなったが、すぐにまた他のオークが倒れたオークに取って代わったのだろう、火炎瓶が飛び始める。
「あのスリングを破壊出来ればいいが、ここからアサルトカービンだと難しいか……。だが、蛮族の数にも限りはあるよな?」
ここでしっかり働いて、教導団の信頼を勝ち取ってやる、と隆光は攻撃を続ける。
やがて、拠点の上空にセスナが飛んで来た。航空科の早瀬 咲希(はやせ・さき)とギルバート・グラフトン(ぎるばーと・ぐらふとん)だ。樹海から出てきて突撃を開始した蛮族に、機銃掃射を食らわせる。7.7ミリ機銃とは言え、連射は可能なので威力はなかなかのもので、蛮族たちはばたばたと倒れて行った。しかし、
『セスナだと基本一撃離脱になりますから、こういった狭い戦場をピンポイントに攻撃する場合、効率的にはどうでしょうか……』
今回はどちらかと言うと、戦果を上げるよりセスナの運用方法を考えてみたいと思っているギルバートは、コクピットで首を傾げている。
『そうね、広い戦場で大規模に戦う場合なら、もっと効果的に使えるんだろうけど、ここだと、攻撃して反転して来る間に戦況が変わってるし。速度が遅くてもホバリングができるオートジャイロなんかの方が、こういう場所での総合的な使い勝手はいいのかもね』
セスナを旋回させながら、咲希は答えた。反転して戻って来ると、機銃掃射で倒れなかった蛮族たちは、既に障害物を乗り越えながらバリケードに迫っている。
「結局、車両の類は出て来なかったか」
地上で、見張り台から敵の様子を観察していた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は呟いた。
(貴重な車両を使い捨てにしてまで攻撃する価値がない、ということなのか、それとももともと持っていないのか……)
遺跡の入口を振り返る。遺跡に入った部隊からは、まだ目的を完遂したという連絡は来ていない。果たして何が出て来るのか……。
小次郎が思っている間に、高度を下げてきた咲希のセスナが、蛮族をもう一度機銃掃射で攻撃した。これで蛮族の数はかなり減ったが、残った蛮族が壕の間を通り抜けてバリケードに迫って来る。それと同時に、
「来たであります!!」
金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が叫んだ。黒い影がばらばらと樹海から出て来る。今回は正面からではなく、左右から突入して来る。一応、イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)の発案で、バリケード前の空き地を側面まで広げてあったのだが、それでも、正面からよりも距離は短い。しかし、その動きは前回襲撃して来た時よりも不安定で、遅いように見える。デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)が敷いた丸太に、足を取られているのだ。
「お、結構効いてるな」
「地道に作業した甲斐があったじゃないか」
嬉しそうなデゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)の背中を、パートナーのルケト・ツーレ(るけと・つーれ)が平手で叩く。
「これなら、僕でも当てることが出来るかも!」
ラッキーは黒い影めがけて引金を引いた。しかし、弾丸が狙った場所に届く頃には、『黒面』は残像を残してそこから消えている。足元が不安定になったと言っても、さすがに、数日前に教導団に入ったばかりの新兵に倒される相手ではなかったようだ。
コーデリアが、近付いて来る『黒面』を牽制しようとバリケードの外へ出ようとする。
「おい、勝手に出るな!」
林がコーデリアを止めた。
「いいか、お前たちだけで戦ってるんじゃないんだ。入学したばかりで他の生徒と連携を取るのは難しいかも知れんが、他の生徒たちが居ることは意識して戦わんと、味方の射撃や魔法に巻き込まれるぞ」
「す、すいません!」
無言のコーデリアのかわりに、ラッキーが謝る。
「距離があるうちは、自分が牽制するであります。広角射撃で進路を塞ぐので、そこを狙うであります!」
「は、はいっ」
健勝の言葉に、ラッキーはうなずいた。
「狙う時はバリケードから頭を出しすぎないように。蛮族に狙われるでありますよ」
「はいっ」
健勝はラッキーにアドバイスをすると、広角射撃で『黒面』の一歩先を狙った。『黒面』がたたらを踏んで一瞬動きを止める、そこを狙ってラッキーは引金を引く。『黒面』は身体を逸らしてラッキーの弾を避けたが、確実にさっきよりも『黒面』をとらえて攻撃できている。
「その調子であります! もう一度!」
健勝はもう一度広角射撃をしようとしたが、今度は蛮族が彼らを狙って撃って来たので、慌ててバリケードの下に身を隠した。
「自分は貴殿より少し先輩でありますが、やはり自分一人で『黒面』を倒すことは出来ないと思うであります。でも、皆の力を合わせれば、きっとどんなことでも乗り越えて行けるでありますよ」
パートナーとだけではなく、皆と。それが、林の言っていた『連携』ということなのだろうなとラッキーは思った。
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