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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

リアクション

 ダンスの最後の曲が終わった頃、建国宣言の警備の準備も終わったと李厳正方がミツエに伝えた。
 用意された舞台にのぼり、ミツエはパラ実生始め様々な種族の注目の中、宣言文を読み上げた。

 牙攻裏塞島ではなく『乙(ゼット)』という国になること。
 目標は中原を制覇し、そこに住む誰もが飢えない国を作ること。
 その戦いの時の捕虜の処遇はすべてミツエが決めること。
 よって、乙国においては人身売買は禁止とすること。当然、人体の一部分の売買も認めない。
 国民同士の盗みや殺しは犯罪として処罰する。

 主にこれらのことが盛り込まれていた。
 戦闘により捕虜になった者からは金品は奪い取られるだろうし、国外で乱暴を働き略奪する者もいるだろう。本当はそれらも禁じるべきなのだが、あまり細かいことを言っても理解されないだろうし、かえって反感を招くだけだから今は除外した。
 案の定、これだけでも不満を叫んでいる連中もいる。
「みんなのおかげでここまで来れたわ。これからこの国を大きくしっかりしたものにするためにも、今後もみんなの力が必要なの。よろしく頼むわね」
 拍手と野次の中、式が終了しようとしたが突如群集の一角から下卑た声が上がった。
「おーい、中原制覇のご褒美のアレ、一部前払いされるって聞いたんだけど、ないのかー?」
「あっ、俺も聞いた! 確か、触らせないけど脱ぐんだったよな!?」
 アルツール・ライヘンベルガーとシグルズ・ヴォルスングがばら撒いた噂が、この時おもてに出たのだ。
「またどこかでお調子者が現れたわね」
 鼻息も荒く苛立つミツエだったが、すぐにマイクに向けてピシャリと言った。
「おだまり! 皇帝の素肌をそう簡単に見れると思ってるの? あなた達はあたしと共に中原を制覇する。その功に応えてあたしは約束を果たす。これだけよ!」
 いっそう拍手も野次も大きくなったがミツエは取り合わず、式典は終わったのだった。


「ライバルが出世したことへの妬み……だけじゃなさそうだな」
 遠くから式の様子を眺めていた朱黎明にナガンが声をかけた。
 朱黎明は苦笑だけを返す。
「こんなところでフラフラしてていいのですか?」
「警備中でーす」
「ああ、確かに私は放置できない敵対者ですね。けど、取り引きをして牢から出したのはあなたですよ。──いえね、あの子も両親が生きているなら、地球で平和に暮らしたほうが幸せなのではないか、などと柄にもないことを思ってしまいまして」
 自嘲するような笑いが朱黎明から漏れた。
 それに対し答えを持たないナガンは、ただ黙ってゆるい風に吹かれていた。

卍卍卍


 後片付けの中、白菊珂慧はふと董卓の姿が見えないことに気づいた。
 火口敦はいるかと見回せば、パラ実生と一緒に働いている。
 珂慧は敦に駆け寄り董卓の行方を聞いた。
「トイレにでも行ってんじゃないっスか?」
 呑気な返答にちょっぴりイラッときながらも、顔には出さずに珂慧は言った。
「電話かけてみてよ。すごい食べてたからお腹壊してるとか」
「ああ……確かに。でも俺なら踏ん張ってる時に電話されても困るっスねぇ。まあいいか」
 言いながら董卓の携帯に繋げようとした敦だが、しばらくすると首を傾げながら携帯を閉じた。
「電源が入ってないようっスね。珍しいなぁ」


 その頃、ずっと董卓の見張りでストレスが溜まりに溜まった幻 奘(げん・じょう)が、打ち上げパーティでナンパした可愛い女の子とフォークダンスまでできた喜びを引きずりながら、風間光太郎と大量の布を抱えて本部のあたりを歩いていた。この布はヴァーナーがドレスに使った布だ。
「あの子と踊れたことで二日間のむさくるしさも帳消しアル」
「良かったでござるな、お師匠様」
 二日間、二人はずっと影から董卓を見張っていた。時々、誘惑に負けた幻奘がふらりとナンパに出かけてしまい、光太郎が探し回るはめになったが。
 師匠の機嫌が良いことに光太郎も頬を緩ませていた時、突然腕を引かれて近くのテントの陰に引きずりこまれた。
「お、おししょ」
「黙れサル」
 今までのご機嫌な顔は消え去り、厳しい表情の幻奘の手に口をふさがれる光太郎。
 目を白黒させる光太郎に、幻奘は「あれを見ろ」と視線で促す。
 揺れる篝火の向こう、董卓と共にメニエス・レインと鏖殺寺院の男がいた。
「サル、敦を呼んでくるアル」
 光太郎は小さく頷くと、足音を立てずにその場から消えた。

 まだ来ないのかとイライラと待つ幻奘のもとに、敦を連れて光太郎が戻ってきたのは五分後くらいのことだった。珂慧やクルト、羽高魅世瑠達も付いて来ていた。珂慧が董卓の行方を尋ねた者達だ。
「鏖殺寺院の!」
 魅世瑠が上げた声にメニエスがこちらに気づき、ニヤリとした。
 術の行使のため光太郎がハーフムーンロッドを掲げ、クルトはブロードソードを鞘から抜いた。
 邪魔はさせまいとミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が匕首の刃を光らせる。その後ろでメニエスは呪文の準備を始めた。
 敦が男から禍々しい槍のようなものを受け取っている董卓に向かって叫んだ。
「何やってるっス! 帰ってくるっスよ! その人誰っスか? 変な人から物をもらっちゃダメっスよ!」
 まるで世話の焼ける子供に対するような呼びかけだが、敦と董卓のやり取りはおおむねこんな感じだ。
 しかし、その呼びかけに顔を向けた董卓は、見たこともないような悪い顔になっていた。
 敦が息を飲んだ時、駆け出したクルトの剣とミストラルの匕首が交わり、甲高い金属音を鳴らした。
「ミストラル、行くわよ」
「はい、メニエス様」
 ミストラルが剣を押し返すと、メニエスが敦達にアシッドミストを放った。
 強い酸の霧に咳き込む敦達。
 その隙にメニエスとミストラルは空飛ぶ箒に跨る。董卓はメニエスの後ろに乗せてふわりと浮き上がった。
「あなたが標準体型で助かったわ」
 と、冗談めかして言うメニエスの後ろで、董卓はガラスでできた槍のような形状の武器『メイルシュトローム・オブ・カオス』を掲げ、高らかな笑い声を上げていた。

担当マスターより

▼担当マスター

冷泉みのり

▼マスターコメント

 大変お待たせいたしました。横山ミツエの演義 Part1 第三回をお届けいたします。
 一週間以上の遅れにより、参加者の皆様には多大なご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。

 今回、国名が『乙(ゼット)』と決まりました。
 投稿してくださった楽園探索機 フロンティーガー様、ありがとうございました。
 また、他にも投稿してくださった多くの方へ、お礼を申し上げます。

 次回のシナリオガイド公開は12月18日(金)を予定しております。
 今回のリアクション遅延により、スケジュールのしわ寄せがお客様へ行ってしまうこと、申し訳なく思っております。重ねてお詫び申し上げます。
 Part1最終話でまたお会いできることを心よりお待ちいたしております。