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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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「おっぱい大好きさん」
「いきなりそれですか」
 高根沢 理子(たかねざわ・りこ)を誘いに行った朱 黎明(しゅ・れいめい)は思わずガクッとした。
「私の名前は黎明。夜明けと同じ意味があるんですよ」
「夜明け?」
「そうです。……と、そんなわけで、夜明けを見に行きませんか?」
 夜明けと言う言葉に、どう反応していいのか理子は迷った。
 しかし、恋愛感情があるわけではない黎明は分かりやすく説明した。
「夜からと言うわけではなく、パラミタ内海までツーリングに行って、夜明けを見せたいというだけですよ。これくらいの季節なら、日の出は6時半ごろでしょうから、朝にお迎えに行けば間に合いますね」
「そういうことなら」
 夜を一緒に過ごすのではなく、早朝からのお出かけと分かり、理子は了承した。

 パラミタ内海に日が登る。
「明けない夜はない……ね」
 世界を明るく照らしていく太陽を見て、理子が呟く。
「そうですね、永遠の夜などありません。時にはこのままずっと夜が続けばいいのにと思うこともありますが」
 少し冗談めかして言った後、黎明は理子に尋ねた。
「どうしてあなたは正義感に溢れる行動を取るのですか?」
「正義感?」
 理子は首を傾げた。
 多分、彼女自身はそう思って行動していないのかもしれない。
 ああ、そうか、自分とは根本から違うのか、と黎明は思った。
「なるほど、それも育ちですかね」
 黎明の言葉に理子はピクッとする。
「ふむ……あなたは家のことを言われるのは嫌いでしたか。しかし、なぜですか? それが大きな家ならば権力という力になるでしょうし。力は何も戦闘的なものだけではないはずです」
「そうかもしれないけれど、『あたし個人』の力は剣技だけなのよ」
「なるほど。でも、上手く使うことが出来れば魔剣の力に頼るよりももっと多くの人を救っていくことが出来るかもしれませんよ」
「…………」
 その言葉に理子は黙り、ぼそっと呟いた。
「そんな使い方……わからないわ」

 夜明けを見終えた2人は、黎明のバイクで一緒に蒼学まで帰った。
「わざわざありがとう」
 お礼を言う理子に、黎明はバレンタインと言うことでみたらし団子と真っ赤な薔薇の花束をプレゼントした。
「綺麗ね」
 理子は素直に喜ぶ。
 真っ赤な薔薇は愛の告白なのだが、そういう意味ではなく黎明は常に女性に渡す花は薔薇と……妻が大好きだった花と決めていたのだ。
「わざわざ遠いところまで付き合ってくれていありがとうございました」
 理子の頭を優しく撫で、黎明は去っていった。