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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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「上に立つものと言うのはいろいろとあるものだ」
「いろいろデスカ」
「それぞれに立場もある。背景もある。一筋縄ではいかん」
 団長の言葉にサミュエルは考え込んだ。
 ミツエのことなどもそれに関わることもあるのだろうかと。
「立場……まだ士官候補生の俺には分かりマセンガ……」
「そうとも限らん。学生や士官候補生とて、立場がある。何かの組織に属しているならば、上に立つ者はそれに関わりすぎるわけにいかないしな」
「……あ」
 教導団は今、それほど表面的ではないものの、風紀委員と白騎士派に学生たちが分かれている。
「恋愛も……関わるのデショウカ?」
「強く関わるであろうな。例えば私が妲己かエルダとバレンタインを過ごしたと聞いたら……教導団の者たちはどう思う? 何も無くても、恋愛とそういった立場は関係ないなどと言おうと、そうは思わぬだろう」
 金団長は女好きと言う印象も無ければ、不正をしそうな印象もない。
 しかし、風紀委員長の李鵬悠のパートナー・妲己と付き合っていると聞けば、白騎士は心穏やかではないだろうし、ヴォルフガング・シュミットのパートナー・エルダが団長のお気に入りだと分かれば風紀委員は何とかしなければと思うだろう。
 それは士官候補生にも言えるのだ。
 金団長の部屋にフリーで出入りできるような女生徒が現れて、それがどちらかに肩入れしていたら……それは良くは思われないだろう。その子も、団長も。
「……大変デスネ」
 男同士であるサミュエルにはあまり関係の無いことだったが、大変だなとサミュエルは思った。
 だが、同時にそれならそれで良いのかもしれないと思った。
 団長の事を世界中の誰よりも大切に思ってるサミュエルとしては、団長のそばにいる女の子は利益とかでなく『本当に団長を好きな子』であって欲しい。
 立場や所属などすべて捨てて、団長に身も心も捧げられる子であって欲しいのだ。


 次に金団長が会ったのはクエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)だった。
「鹹点心で飲茶などいかがでしょう? サミュエルさんもどうぞ」
 上品なワンピースを着て、胸に小さく赤いコスモスのブローチをつけた姿で、クエスティーナは団長とサミュエルに一礼した。
 丁寧にを心がけていたが、遠くから慕っていたので、なかなかうまく声が出ず、クエスティーナは一生懸命話をする。
「皮肉屋と言われますが、そんなことっ!! ……ないと思います」
「ふむ、私は生徒達の間で皮肉屋とも言われているのか」
 サイアスが用意してくれたちまきを口にしながら、金団長は苦笑混じりに言った。 
 冷笑と冷凍視線が得意技と言われていたのは知っていたが、皮肉屋とまで言われていたとは知らなかったらしい。
「ええと……」
 サミュエルが話題を変えようとすると、団長がサミュエルにちまきの中身を見せた。
「細かくて分かりづらいかもしれないが、高麗人参や冬虫夏草、海馬が入っている。気遣ってくれたようだ」
「あ、はい。お怪我の具合がどうかなと思っておりましたので……」
 クエスティーナは緊張しながら金団長に答える。
(素敵なお声で……凛々しくて……堂々とされて強くて、とても眩しいです)
 憧れの視線で、クエスティーナは金団長を見た。
 そして、クエスティーナはこんな話を始めた。
「百合は……自分達が女王の後衛になると公言しました。そんな百合に団内部から、物議を醸す推測も……。早晩、お言葉が必要になるかも……しれませんね」
 クエスティーナが話すのを、団長は聞いているのか聞いていないのか分からない態度で茶を飲んでいた。
 団長のそばにいたサミュエルはあまり良い気分ではなかった。
(この子は団長から何か探りたいのかな?)
 そんな気がしたからだ。
「このお茶、良いお茶デスネ」
 サミュエルが話を振ると、サイアスが頷いた。
「中国茶の茶葉・六大茶類を一通り揃えました。お気に召したものがございましたら、また入れますので、なんなりと」
「ふむ、では頂くとしよう」
 金団長は同じ茶をまた所望した。
 団長が帰ると、サイアスはクエスティーナに大切だからこそ、釘を刺した。
「ああいう話題はどうかと思うのですが」
「ゆっくりしてもらうのが目的だったのに……ってことかしら?」
 しかし、サイアスは頭を振った。
 クエスティーナは団長の思考を引き出すお手伝いをしようと、自分の考えも織り交ぜて、星華、建国、各戦線等の話をしようとしたのだが、それらはおいそれと団長が口に出来ることではない。
 各校長はもちろんだが、軍事的装備の多い教導団の団長ならばなおさら。
 仮に先ほどの百合園の話で言うならば、もし、団長が百合園の公言したことや、教導団内部での声に対して何かを言ったり、クエスティーナの問いかけに『確かに私の言葉が必要になりそうだ』などと言ったら、それは大きな問題になる。
 ここだけの話、とクエスティーナは思ったのかもしれないが、そういうものはここだけではすまないし、金団長はそんな迂闊なタイプではないし、サミュエルもそういった政治的話題、団長の職務に関わることはちゃんと避けている。
「クエスは頭の回転が速くて知的だが……憧れの人を前に冷静な判断が出来なかったようだな」
 サイアスはクエスティーナをそう慰めた。


「それでは、団長お疲れ様でした」
 団長を送り終えたサミュエルが頭を下げて去っていった。
 金団長が校長室に入ると、そこには薔薇の花束が置いてあった。
 15本の赤い薔薇。
「誕生花か……」
 その薔薇を金団長が見つめる。
 赤は「偽りなき愛」
 15本の意味は 貴方に一生つきそう。
 中国ならではの本数に込められた意味がそこにはあった。
「…………」
 送り主はサミュエルだった。
 団長はその意味に気づいたのか否かは一人で部屋にいたので何とも口にしなかったが……。
「後でサミュエルに礼と、花瓶を持ってきて欲しいと頼むとしよう」
 ふと、団長はそう口にしたのだった。