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栄光は誰のために~英雄の条件~(第3回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第3回/全4回)

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 「……やーっと来たか」
 『光龍』伍号機で待機していたゆる族猫花 源次郎(ねこばな・げんじろう)は、上空に到達したヒポグリフ部隊を見上げて安堵の息をついた。
 「味方が苦戦してるのをただ見てるのはつらかったぜ。……おい、それにしても、このペイントはどうにかならなかったのかい。目立ちすぎて敵に狙われそうな気がするんだがなぁ」
 「大丈夫だって! きっと、強そうだと思って近寄らないぜ!」
 源次郎のパートナー、パラミタ刑事シャンバランこと神代 正義(かみしろ・まさよし)は胸を張る。
 二人が乗る『光龍』は、正義の手で赤と銀を基調にしたペイントが施され、大きく「SHANBARON」というロゴと、シャンバランのマスクをモチーフにしたマークが描かれていて、周囲の車両がオリーブドラブやダークグリーンやカーキ色で塗装されている中で、一台だけ異彩を放っている。
 「本当かよ……」
 源次郎はうろんそうに正義を見たが、無線の指示が慌しさを増して来たのに気付いて、《冠》を装着し、上空に視線を戻した。
 「作戦会議の時に言ったけど、あんまり回数撃てないんで、一撃必中のつもりで頼むぜ」
 正義が、砲手を務めてくれている機甲科の生徒に声をかける。
 「了解!」
 砲手はぐっと親指を立てて、それに答えた。
 「それにしても、大丈夫なのかね……何でも、ヒポグリフ隊の連中は、ようやっと乗れるようになったばっかりだって言うじゃないか」
 ほら、あれとか、と源次郎が指差した先では、黒乃 音子(くろの・ねこ)が、空中を跳ね回るように飛ぶ乗騎のルージュに手を焼いていた。
 「あっ、こらっ、ルージュ! 遊びじゃないんだよ? はしゃぎすぎると怪我するから!」
 口では乗騎を叱る音子だったが、よく言えば人なつこい、悪く言えば音子を「主」と言うより遊び友達と認識しているルージュは、なかなか音子の言うことに従わない。
 「ルージュ!」
 さすがに、音子は厳しい声で乗騎の名前を呼んだ。ルージュはきょとんとして首をひねり、音子を見た。
 「今日は遊びじゃないんだ。大人しく言うことを聞こうね」
 低い声で言うと、ルージュはようやく跳ね回るのを止めた。
 「ようし、行くよニャイール! ……って、あれ?」
 斜め後方を飛んでいたはずのパートナーに声をかけようと振り向いた音子は、パートナーのニャイール・ド・ヴィニョル(にゃいーる・どびぃにょる)も、違う意味で乗騎に振り回されているのに気付いた。
 「うわああああん、ちょっと、それ獲物じゃないからっ!」
 ニャイールの乗騎ジル・ド・レは、気が強く好戦的な性格だった。訓練中も、人から餌をもらうよりも自分で狩って食べる方を好み、血が滴る獲れたての獲物を、『おすそわけ』とばかりにニャイールに差し出してくれることもたびたびで、隊の皆からは『戦闘向きなのでは?』と思われていた。
 そして、確かに、ジル・ド・レは飛龍を見ても、まったく動じたり臆したりせずに立ち向かっていった。……そう、以前からの、ニャイールを背に乗せていない時と同じ飛び方で、肉弾戦を挑んだのである。
 「肉弾戦やると地上からの攻撃に巻き込まれるってばニャー!! ちょっと落ち着けってばニャ!」
 『ニャイールさん、あまり飛龍に近寄らないでください。「光龍」から撃てないって苦情が来てます!』
 地上から葉月が無線で指示を出すが、
 「そんなことはミーじゃなくってジルに言ってくれへんか、ニャーっ!!」
 背中の自分にはお構いなしでフリーダムな動きをするジルに、ニャイールはしがみついているのが精一杯だ。
 「ニャイール、ネット、ネット!!」
 音子は慌てて叫んだ。
 「はっ、そうやった!」
 ニャイールは、脇に挟み込むように肩から掛けていたアサルトカービンを見た。ライフルグレネード用のソケットがつけてある銃には、ネットを仕込んだ弾が装着してある。銃声にヒポグリフが驚かないように、と考えて選んだその弾を、ニャイールは、飛龍に騎乗している黒装束に向かって撃った。距離不足で満足に開かなかったネットは、しかし、敵の顔面を直撃した。そこへさらにジルの蹴りが決まって、バランスを崩した黒装束が落下する。
 「うわ……」
 パラシュートがあってもおそらく開かないだろう、という高度からそのまま落ちて行く敵を見て、音子は顔をしかめた。操縦者を失った飛龍は、ギャアギャアと鳴きながら襲い掛かって来るジルに嫌気がさしたのか、そのまま逃げて行く。
 「キルマーク、一つ、かニャ……」
 敵を蹴散らして気が済んだのか、ようやく落ち着いたジルの背中で、ニャイールは複雑なため息をついた。
 「よーし、仕切り直しだ!」
 音子はいったんルージュを上昇させて、戦闘空域の上へ抜けた。ニャイールもついて来る。やっとまともな連携が取れるように二人は、一匹の飛龍を交替で追い立てるようにして、下で待ち構えている『光龍』の射程内に誘導する。
 「いよーっし来た来た来たっ!」
 正義はその動きを見上げ、固唾をのんで号令を待つ。
 「撃(て)ッ!」
 砲手の指示でボタンを押すと、光の弾丸が飛龍の翼に命中した。飛龍は空中でのたうち、ふらふらと離脱して行く。
 「やったッ! さすが機甲科、いい仕事するじゃねーか」
 「いや、今のは胴体を狙ったんだ……」
 正義の褒め言葉に、砲手の生徒は決まり悪そうに答えた。やはり、即席のチームなので呼吸は今ひとつらしい。
 「当たったんだからいいんだよ。この調子で行こうぜ!」
 正義は砲手を励ます。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 「フェリックス、エレーナ、トゥルペ、気をつけて行けよ!」
 イリーナは、パートナーの守護天使フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)とゆる族トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)、エレーナ・アシュケナージに声をかけた。
 「みんなー、生きて帰ろうねー」
 フェリックスがこの場にそぐわぬ、のんびりとした口調で言う。
 「当たり前だ!」
 イリーナは一喝すると、ヒポグリフを旋回させてレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)の元へ行った。
 「他の組が皆飛龍を相手にすると言ってるから、出来れば、高速飛空艇を我々で担当したいと思うんだが、どうだ?」
 「軍人ですから、言われればやりますよ」
 やりますけどねぇ、と付け加えたそうな顔で、ルースはため息をつく。
 「敵を選り好み出来る状況ではないように思うが……」
 本校上空を一瞥し、レーゼマンは眉を寄せた。本校上空は飛龍と高速飛空艇とヒポグリフ、それに航空科のオートジャイロで、彼らが見たこともないような混戦状態にあった。ヒポグリフ部隊はなるべく上空に抜けて、上から敵にプレッシャーをかけようとするのだが、飛龍の数が多い上に高速飛空艇の速度について行けず、なかなか有利な位置を取ることが出来ない。
 「だが、高速飛空艇の機動力を何とか削がないと、形勢は逆転できないぞ」
 イリーナの指摘に、レーゼマンは少し考えてからうなずき、ルースはやれやれと肩を竦めた。
 イリーナはにッと笑った。
 空戦ではしばしば、後ろの取り合いになる。特に高速飛空艇は前方と下方にしか攻撃できないため、後方や上に付かれるのを嫌う。それを利用して、イリーナと『白翼』が前に出て高速飛空艇に追いかけさせつつ、レーゼマンとルースで斜め上後方を押さえる。これだと、敵は後方の二頭の後ろを取ろうとすると反転した瞬間に狙い撃たれてしまうので、狙いやすい前方のイリーナたちを追いかけることになる。もっとも、その分イリーナは危険だが。
 「『白翼』、全速で行けよ!」
 後ろからの攻撃に備えて盾を背中に背負ったイリーナは、体がなるべく盾の影になるよう身体を丸め、乗騎に声をかけた。一声鋭く鳴いて、ヒポグリフは全速力で戦場を翔けた。
 「無茶をしますね……。ヒポグリフの速度は、高速飛空艇どころか飛龍にも劣ると言うのに」
 『光龍』陸号機の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、それを見上げて苦笑した。その間にも、見る見るうちに『白翼』と後ろの高速飛空艇の距離は詰まって行く。イリーナは『白翼』を蛇行させて、何とか機銃を避けている。
 「イリーナ殿、高速飛空艇を中庭に向かって誘導して下さい! こちらでも援護します」
 『了解!』
 イリーナの返答を聞くと、小次郎は隣に座るパートナーのリース・バーロット(りーす・ばーろっと)を見た。
 「ここで私たちが負けたら、教導団の生徒全員が帰る場所をなくしてしまいますし、罪もないシャンバラの人たちを守るために、カーラの復活は防がなければなりません。私も頑張りますわ」
 リースは決意を込めてうなずいた。
 「……始まったようじゃの」
 運転手を務めるグスタフ・アドルフ(ぐすたふ・あどるふ)が上空を見上げて言う。小次郎の部下の生徒たちが、高射砲を撃ち始めたのだ。あらかじめ配置は打ち合わせてあり、中庭付近は薄く、その周囲は中庭に敵を誘導するかのように、弾幕が密な場所と薄い場所を作ってある。
 「精密射撃で狙えますか?」
 小次郎は砲手を務めるパートナーのアンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)に尋ねた。
 「難しいけど、ヒポグリフとの距離がないから、広角射撃だと巻き込む恐れがあるし、やってみせるわ」
 アンジェラは厳しい表情で照準器を覗き込む。
 「……撃ッ!」
 合図と共に発射された光の弾は、高速飛空艇の尾翼ぎりぎりをかすめた。
 「イリーナさん、もう一度行けますか?」
 『……厳しいな。だがやってみる!』
 イリーナはヒポグリフを反転させた。
 『あまり無茶をするな!』
 レーゼマンが叫ぶ。時間がかかればかかるほど、高速飛空艇との距離は詰まり、危険は増すのだ。
 『今度は俺が前に出ますよ』
 ルースが先頭を交代する。
 「今度こそ…撃ッ!」
 二発目は、どうにか翼をとらえた。落ちて行く飛空艇を見て、校内のあちこちから歓声が上がる。しかし、空中で高速飛空艇が爆発すると、歓声は悲鳴に変わった。
 「勝者が居れば敗者が居るのは戦争の道理ですが、これはさすがに……」
 ルースも苦い表情をしている。
 一方、イリーナのパートナーたちは、飛龍を相手に戦っていた。
 「ほらほらほら、こっちこっちー!」
 着ぐるみが赤いチューリップで目立つトゥルペが前に立ち、フェリックスは魔法で左右を塞ぎ、エレーナはライトブレードを振り回したり『驚きの歌』や『悲しみの歌』を歌ったりして、飛龍を誘導して行く。
 「よーし、そのままこっちへ追い込め!」
 地上で待ち構えていた佐野 亮司(さの・りょうじ)が、トゥルペが上空へ離脱するのを見て高射砲を撃つ。しっかりと狙いをつけて発射された一撃は見事に飛龍をとらえた。
 「よっしゃ、次来い次! さっさと片付けて、補給を再開させるぞ!」
 墜落して行く飛龍を見て、亮司は吼える。