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栄光は誰のために~英雄の条件~(第3回/全4回)

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栄光は誰のために~英雄の条件~(第3回/全4回)

リアクション

 『クレア・シュミット、そっちに高速飛空艇が行くよ!』
『光龍』漆号機のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)に、ミーナから指示が飛ぶ。
 「了解した。ハンス、パティ、エイミー、来るぞ!」
 クレアの声に、砲手を務める剣の花嫁エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)が照準器を覗き込む。機晶姫パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)は、敵が爆発物を落として来た時に備えて、いつでも六連ミサイルポッドを発射出来るように身構える。
 「……うわ、あれ、ヴォルフガングさんですよねぇ。凄いなあ」
 そのパティが呟いた。ヒポグリフに乗った生徒が、高速飛空艇の機銃掃射を避けながら稲妻を纏った矢を放っている。弓を扱っているのだから、両手を手綱から離しているということだ。
 「味方に見とれている場合ではないのだよ、パティ」
 クレアはパティに釘を刺すと、発射ボタンにかけた指に神経を集中した。
 「ヴォルフガング、エルダ、上手く避けなよ? ……撃(て)ッ!」
 エイミーの声と同時に、クレアはボタンを押す。幾つかの光の弾丸が扇型に上空へ向け射出される。ヴォルフガングとエルダが、左右に分かれてそれを避ける。高速飛空艇はヴォルフガングを追おうとしたが、旋回に移ったところに『光龍』の砲撃が命中した。ドン!という衝撃音と共に、機体がバラバラになる。
 「最強でなくても充分ダメージは与えられるな」
 むしろ強すぎるくらいではないか、とクレアは呟く。
 「ハンス、普通に一発撃つのと広角射撃とじゃ、やっぱり広角射撃の方が疲れるかい? もし消耗が激しいようなら、広角射撃はやめて精密射撃に切り替えるけどさ」
 「いいえ。どうやら、どのくらい消耗するかはクレア様のコントロールだけに依存するようです」
 だからまだまだ大丈夫ですよ、とクレアの隣に座って手をつないでいる守護天使のハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)は微笑した。
 「回復手段もあるし、最高出力でなくても良いようだし、かなり戦えそうだ」
 どの程度『光龍』が戦力になるか心配していたクレアは、ほっと息をつく。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 そして、ヒポグリフ隊所属の蒼空学園生久多 隆光(くた・たかみつ)とパートナーの童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)は、教導団のウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)とチームを組んで戦っていた。
 「くそっ、武器の選択を間違えた!」
 アーミーショットガンを抱えて、隆光は舌打ちをした。一般的に、両手持ちの銃は片手で持てる銃より攻撃力が高い。強敵を相手にすることを考えて両手持ちの銃を選択した隆光だったが、ショルダーストラップを使っても、片手に手綱片手に銃、おまけに飛び回るヒポグリフの背中からではでは狙いが定まらない。ヴォルフガングがヒポグリフに乗りながら弓を使えるのは、武器が軽量である上に、本人も乗馬に長けているからなのだ。パ^トナーの洪忠の方も、ヒポグリフ隊に所属して日が浅く、乗っているのが精一杯だ。ウォーレンは二人と息をあわせたいのだが、相手がこういう状況で、なかなか難しい。
 「とにかく、三人で飛龍の後ろか横について、手近な『光龍』の射程に押し込もう!」
 作戦とか攻撃方法とかいう以前の問題で苦戦している隆光と洪忠を見て、ウォーレンはリターニングダガーでちくちくと敵を攻撃しながら言った。本当は隆光が前に出て、攻撃しながら少しずつ後退して誘導する作戦だったのだが、贅沢は言っていられない。
 「でしたら、横からが良いかも知れません。私は脇から攻撃されたら嫌だと思います。ならば敵も同じように思うのでは?」
 洪忠が言う。
 「そうだな。とにかく、いったん上空へ出て、体勢を整えよう」
 隆光がうなずき、三人は上空へ離脱した。
 「こちら『空弐組』。現在大講堂上空なんだが、一番近い『光龍』はどこに居る?」
 『ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)が大講堂前の広場のあたりに居るはずだよ! 広角射撃を主体にするらしいから、あまり粘りすぎないように、早めに離脱して!』
 ミーナの指示を聞いて、ウォーレンは素早く下を見た。広場の端に、一台の『光龍』が待機している。
 「よし、皆で向こうへ向かって押し込むぞ!」
 ウォーレンは近くに居た一匹の飛龍にヒポグリフを向かわせた。隆光と洪忠と協力し、斜め後方から敵の側面を攻める形で敵を追い込んで行った。鏖殺寺院の兵士も銃を撃って応戦して来る。人間の方はヘルメットとプロテクターがある程度防いでくれるが、ヒポグリフたちは当たれば無事では済まない。
 「サーブル、当たるなよ!」
 ウォーレンは乗騎に声をかける。

 「アリシア、来るぞ」
 『光龍』拾号機のロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)は、隣に座るパートナーのアリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)を見た。
 「はい」
 アリシアは目を閉じ、ロブと繋いだ手に意識を集中した。
 (皆のためにも、アリシアのためにも、本校は守り抜いてみせる!)
 決意を込めて、ロブは発射ボタンを押した。上空でヒポグリフ隊が離脱した直後の空間を、光の弾丸が薙ぐ。翼がずたずたになった飛龍が、広場目掛けて落下して来た。
 「魔力が切れそうになったら、すぐに言ってくれ。こちらでも計算はしているが、なにしろ実戦は初めてだ。不測の事態もあるかも知れないからな」
 「はい、気をつけます」
 ロブの言葉にアリシアはうなずき、繋いだ手にきゅっと力を込めた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 「えいっ、えいっ、あっちへ行くのですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の三人は、本校の外周に近いあたりで、飛龍を高射砲が待機する場所へ追いやろうと頑張っていた。
 しかし、三人ともヒポグリフの操縦に今ひとつ自信がない上に、無茶をしないで行こうという態度を敵に見抜かれてしまったらしく、逆に二匹の飛龍に突っ込まれて慌てて逃げる始末だ。
 「あーあ、見てらんねえな。こうすんだよ!」
 「ようやく手に入れたヒポグリフも自身の身も大事なのはわかるが、敵になめられるようでは少々情けないぞえ」
 そこへ、イルミンスール魔法学校の緋桜 ケイ(ひおう・けい)とパートナーの魔女悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が駆けつけた。二人で氷術で作った氷を飛龍にぶつけて注意を引く。鬱陶しい相手を先に倒そうと考えたのか、飛龍は反転してケイとカナタに襲いかかる。
 「片方引き受けましょう」
 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)とパートナーの魔女イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)が助太刀を申し出る。
 「頼む!」
 ケイはうなずいた。
 「ほらほら、こちらですよー」
 イルマが離れたところから火術を放って、片方の飛龍を挑発する。鼻先を焦がされた飛龍はわめき声を上げながらイルマの方へ向かう。その後方から、玲はヒポグリフで肉弾戦を挑んだ。ヒポグリフに攻撃を任せ、自分は周囲の状況の把握に専念することは出来ないかと考えたのだ。
 しかし、玲の考えは少々無謀だった。好き放題にしても良いと考えたヒポグリフは、玲が背中に乗っていることを考慮に入れずに飛び始めたのだ。馬より賢いとは言え、人を乗せて戦うのは初めてなのだから、仕方がないことではあるのだが、
 「く、うわ、ちょ、ちょっとっ!」
 左右に大きく身体を傾けながら飛龍の横腹に蹴りを入れようとしたり、下から急上昇で喉元を狙おうとしたり、命綱がなければ振り落とされない動きをされては、乗っている玲はたまったものではない。
 「こ、これは、無理ですね」
 イルマが魔法攻撃で飛龍の気を引く間に、玲は慌てて手綱を締めて、ヒポグリフを落ち着かせる。
 「よーし、そろそろかな」
 一方、ケイたちは無事に飛龍を高射砲の射程に誘導してきた。
 「さて、反撃するか。高射砲と空中と、両方に敵が居れば、敵も注意散漫になるだろ」
 ケイはそう思ったのだが、
 『ケイさん、高射砲の射程から離脱してください! でないと高射砲が撃てません!』
 と、地上から注意されてしまった。高射砲の弾はただの鉛弾ではなく、空中で炸裂するように出来ている。なので、射程内に居ると味方であっても損害を受けてしまう可能性があるのだ。
 「えーっ、これからいいところを見せようと思ってたのに!」
 ケイはむくれたが、
 「弾そのものならまだ避けようがあるが、炸裂した破片までとなると難しかろう。ましてや、我らだけではなくヒポグリフも居る。距離を取っても、攻撃する方法はあろう」
 とカナタに諭されて、しぶしぶと、魔法で敵を牽制しながら離れて行く。どうにかヒポグリフを落ち着かせた玲とイルマも、目標の場所まで飛龍を誘導して退避に移った。その機を逃さず、地上から高射砲が射撃に移る。飛龍は二匹とも墜落して行った。
 「ふぅ……やれやれ。現状では、ヒポグリフはあくまで乗り物と考えた方が良さそうですね」
 それを眺めながら、大きく息を吐き出して玲は呟く。

 そして、ルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)とパートナーのサクラ・フォースター(さくら・ふぉーすたー)も、本校の外周付近で飛龍と戦っていた。
 「……さて、鎖はどこまで通じますかね?」
 サクラは『奈落の鉄鎖』を使った。エアポケットに入ったように、目測で2メートルほど、かくんと飛龍の体が落ちる。
 「む、さすがに完全に落とすことは出来ませんか……。ですが、動きを止めるにはこれで充分!」
 「上手く絡めよー!」
 ルイスは、ベルトにつけていた紐状のものを外し、投げ縄を投げる時のようにくるくると何度か回すと、飛龍に向かって投げつけた。実はこの紐には両側におもりがつけてあり、上手く投げつけると相手を絡め取ることが出来る。ボーラと呼ばれる、古くから使われる武器だ。ルイスが投げたボーラは、上手く飛龍の翼に絡みついた。絡まった紐を嫌がった飛龍が、空中でもがく。その隙を、高射砲が狙った。翼を傷つけられた飛龍は、ギャアギャアと鳴き声を上げながら飛び去って行く。
 「なかなか上手く行きましたね」
 「ただ、数が持てないし、投げる前に絡まって上手く行かないことも多いのが難点だけどな」
 サクラの言葉に、ルイスは苦笑してうなずいた。
 「味方の上に落ちると怖いことになりかねませんしね」
 サクラは足元を見る。二人は他の生徒たちより低空に居るが、この高さから落ちたおもりが当たったら、当たり所が悪ければ怪我をするだろう。地上で味方が密集しているような場所では使えない。
 「進入は防げなかったけど、一匹ずつ減らして行けば、いつかはゼロになるだろう」
 ルイスは次の敵を探して周囲を見る。確かにルイスの言う通り、飛龍は少しずつ数が減って来ているようだ。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 「飛龍は、だいぶ減って来たみたいですね……」
 ヒポグリフ隊が誘導して来た飛龍を一匹撃墜し、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)はほっと息をついてパートナーのエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)に言った。二人は既に何匹かの飛龍を撃墜しており、そろそろ残りの魔力が厳しくなって来ているところだ。
 「ねえ、『光龍』のエネルギー源に《冠》を使っているっていうこと、敵にバレてるかな……」
 レジーヌとつないでいるのとは反対側の手を《冠》にやって、エリーズは心配そうに言う。
 『光龍』は小型の戦闘車両(いわゆるJeep)を改造して砲を載せているが、砲手の視界を確保するためと突貫作業での製作でそこまで作る時間gなかったために戦車のような砲塔はなく、ただのターンテーブルに砲と砲手及び搭乗者の座席を据え付けてある。つまり、上空からは搭乗者の頭は丸見えなのだ。
 「《冠》があれば、いつか《工場》にあった人型機械を元に作られたロボットに乗れるかも知れないよね? だから絶対!に《冠》を敵に渡したくないの」
 今からほっかむりとかしても遅いかなぁ、とエリーズは真剣な表情で言う。
 「使ってることを知ってたら、集中して『光龍』を狙うと思うから、多分、まだ知られてはいないと思うんですけど……」
 自信なさそうに、レジーヌはぼそぼそと答える。
 「でも、ロボットに乗るためじゃなくても、《冠》を敵に渡しちゃダメです。万一のことがあったら、ワタシは身を挺してでも、エリーズさんと《冠》を守ります」
 決して大きくはない声で、それでもきっぱりとレジーヌは言った。
 「そんなことになる前に敵をやっつけちゃいたいけど、地上部隊も迫ってるみたいだしね……。とにかく、二人で頑張ろうね!」
 エリーズの言葉に、レジーヌはうなずいた。