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君を待ってる~剣を掲げて~(第1回/全3回)

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第7章 実力伯仲(校庭)
「……見世物になるのはいい気分じゃないが……繭螺達や猫華の面々が見ている手前、無様な真似はできん、か……」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)はフィールドの隅で、じっと繰り広げられる戦いを見ていた。
「おりゃあ!」
 時折襲いかかってくる者は。
「……すまない、それは……幻だ」
 『幻惑の霧』にて作った自分の幻でもってかわし、蹴り倒すという方法で撃退していた。
 とはいえ、盛り上がりに欠ける戦法だと、アシャンテ自身理解はしていた。
「がんばれ〜! ア〜ちゃ〜〜〜ん!!!!」
 更に、飛んでくる御陰 繭螺(みかげ・まゆら)の声援と満面の笑み。
 そもそもは、
「かっこいいアーちゃんを見たい!」
 という主張の元、繭螺が勝手に申し込んだのではあるが、
「主様〜、ファイトですわよ〜」
 繭螺やエレーナ・レイクレディ(えれーな・れいくれでぃ)からそんな風に応援されれば応えたくなるもので。
「……さて……行こうか」
 アシャンテは呟くと、熱気うずまる中へと踏み出した。
「あらあら、主様とうとうやる気を出されたようですわ」
「そうでなくっちゃ!」
 興奮する繭螺やエレーナとは対照的に、ラズ・シュバイセン(らず・しゅばいせん)はこっそり溜め息をついた。
(「やれやれ……目立つ行動はしてほしくないのが本音なんだがねぇ……」)
 多分アシャンテには自覚はないが、彼女は鏖殺寺院にとってはお尋ね者である。
 とはいえ、最早止める手立てはないが。
 とすればやる事は一つ!……観戦である。
「ラズ様、あちら朔さんが戦ってらっしゃいますわ」
「ん〜、いつ見ても鬼気迫る戦い方だね。あぁ、だからそんな無防備に近づいたら朔君の思うツボだって」
 気持ちを切り替えてしまえば、実力者揃いの戦いは、ラズにとっても随分と楽しいものだった。
「環菜会長の考えなど、どうでもいい。自分は、自分の悲願のための証明のため、この大会で優勝したい」
目に付いた者を叩き伏せつつ洩らす、鬼崎 朔(きざき・さく)
朔はその為に、この大会にエントリーした。
家族の仇であるドージェへの復讐……だが、神と称されるほどに、奴は強い。
 だからこそ、朔はこんな所で簡単に負けるわけにはいかないのだ。
 アルティマ・トゥーレでの冷気をまとわせた攻撃を軸に、パートナーたるスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)尼崎 里也(あまがさき・りや)と共に。
「……朔」
 威圧で怯ませた相手を朔が戦闘不能に追い込むのを確認した里也はふと、視線で合図した。
 その、視線の先には。
「……だから、しつこいって!」
「気を抜かないで下さい!」
志位 大地(しい・だいち)は涼司に追いすがっていた剣士に、奈落の鉄鎖を放った。
「悪ぃ、助かった……って、何でこんなハードなんだよ?!」
「仕方ないですよ、山葉さんや観世院はどうしても狙われますから」
 とりあえず事無きを得たが、と大地が息つく暇はなかった。
 朔が涼司をロックオンしたからだ。
「逃げられない……みたいですね」
 義彦の優勝を阻む為、涼司をサポートしてきた大地は諦めに似た苦笑を浮かべつつ武器を握りなおし。
「……申し訳ないが、手合わせを頼みたい」
 だが、その前にアシャンテが立ちふさがる。
 息を呑む暇もなかった。
「……『疾駆(はやがけ)』」
 低い体勢からの高速の踏み込み、そこから流れるような居合い。
「……くっ!?」
 切っ先を何とかいなしつつ、大地は光条兵器を呼び出しかけ……飛び退った。
 刹那、頬を薄く走る赤……微かな痛み。
 アシャンテが左手で繰る刀とは違う角度……下方より、右手持ちの短剣が繰りだされたのだと気付いたのは、数泊後息を整えてからだった。
「すみません、山葉さん。フォローは出来ないようです」
 大地は涼司に詫びつつ、頬の血を手の甲で拭った。
「……朔!」
朔が寄こした視線、その意味を悟り、セコンドとして応援していたブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)が、光条兵器を投げ渡した。
 正直、復讐を固持する朔を不安に思う。
 だけど、強く在りたいと。
 復讐を果たしたとしても、その後で紗月や自分達の元に帰ってきたいと、その為に強くあろうとする朔をカリンは否定できない。
 応援したいと、そう思うから。
 そして、これもまたその強さの為の一歩ならば。
「やっちゃえ朔! ボクがついてる!」
 カリンに朔は小さく頷き、倒すべき超えるべき者へと駆けた。
「目つきが悪いというのはそなたの専売特許ではないのだよ」
「ほらほら、気が散っているであります!」
その涼司は里也に釘付けにされスカサハに撹乱され、防戦一方に追い込まれていた。
大地のサポートがあったとはいえ、かなり集中的に戦いを挑まれていた事。
何より、朔達のコンビネーションに翻弄され。
だから、気付かなかった。
アルティマ・トゥーレで冷気をまとわせた攻撃は、朔の周辺を凍らせ。
援護と称するスカサハの火術がそれを自然と解凍していた事に。
それはガートルードはハマらなかった、罠。
「轟雷閃!」
「しまっ……!?」
 全身に走る痺れに棒立ちになった涼司を、
「……落ちろ」
 朔の一撃が、粉砕した。
「涼司さん!」
「……あ〜」
 花音の悲鳴に、大地は胸中で溜め息を一つ。
「負け犬はぁ、とっとと出てけ〜」
 そして、大会スタッフである雪華は涼司の襟首を引っつかむと、笑顔でフィールドの外に投げ出し。
「とりあえず、ヒールいっとく?」
 カリンは茫然としたままの涼司の顔の前で手をヒラヒラさせた後、可愛らしく尋ねた。

「戦闘不能おめっとさん♪ どや、今の感想は?」
「……油断した、わけじゃないな。まだまだ力不足って事かよ」
「いやぁ、感電でノックアウトはおいしいで」
 戦死者であるし念のため救護所に連れて行かれる涼司は、楽しそうな雪華にガックリ肩を落とす。
「あの、気を落とさないで下さい。お疲れ様です、涼司さん」
「すまん、負けちまった」
「手を抜かず頑張りましたし……盛り上がったから、良いです」
「はいはい、イチャつくのは余所でな。ほい、活きのいいケガ人追加やで」
「活きのいいケガ人って何だ。……元気なら、どっかに行け。ここはケガ人の為のスペースだ」
甲斐甲斐しく手当を手伝っていたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)のパートナーである、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だった。
小さなケガからグレートヒールが必要な重傷者まで、幅広く面倒をみている。
「楽しんで戦って来い」
と送りだしたルカルカと、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)はこの場所には送られていない……ダリルにとっては当然だが。
「それにしても随分と数は減ってきたようだな」
 参加者と運ばれてきた者達とをざっと比べ、手は動かしたまま、ダリルは呟いた。
「どこまでやれるかは判りませんが、やれるだけやってきます」
 ダリルに送りだされる時そう告げたザカコとルカルカは、熱気と闘気に彩られたフィールドで、じっと身をひそめていた。
「ダリルさんの代わり……とまではいかないかもしれませんが、背中は自分に任せて下さい」
 隠れ身と光学迷彩を駆使しながら、気付いた者は手早くあしらいつつ、参加者の数が減るのを待つ。
「でも、なぜ勝抜き戦じゃなくバトロワ方式なのかしら? 例えば、時間がない、とか?」
 胸に宿る微かな不安。
 その瞳が、ある一人の剣士を……華麗に剣を振るう義彦を捉えた。
「……」
神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)もまた、防御に徹しつつ時を待っていた。
「とはいえ、いつまでも見逃してはくれないか」
 けれど、目が遭った。
 軽く頷く義彦に「よろしくね」とにっこり笑み、ジュジュは剣を構えた。
「ジュジュ! 頑張って下さい!」
 気付いたエマ・ルビィ(えま・るびぃ)が、ボンボンを振りつつ声援を飛ばす。
 赤いチアガール服にポンポン、正しい応援スタイルである。
 ヒラヒラする短いスカートはエマとしては恥ずかしいが、ジュジュの為である。
 ジュジュに負けないくらい必死に応援する。
 その声を思いを背に受け。
「ヒナとのこと聞いたけど……裏を返せば、優勝できなかったら付き合わなくてもいいってこと? その程度の気持ちなの?」
 距離を図りつつ、ジュジュは問いかけた。
 揺さぶり半分、心配半分で。
「もし中途半端な気持ちなら、ヒナは傷つくかもしれない。もう一度よぉく、考えてみてほしいわね、女の立場からするとっ!」
一瞬の隙を突いての、ツインスラッシュの衝撃波。
だがそれは義彦に止められる。
正確には、彼の手にした剣によって。
渦巻く風が、剣に宿り。
空気が急速に凍えていく。
「まったく、誰も彼も。俺は彼女を守りたい……それが、全てだ」
 掲げられた剣が、透明な刀身が、日に輝く。
「舞って、散らせ……スノゥティア」
「……イエス、マスター」
 否。
 輝きは、剣自身のもの。
「……何?」
 ゾクリ、と。
 背筋に走った悪寒。
 自分の感覚に従い、理沙は地を蹴った。
 同じくルカルカとザカコも回避を試みる。
 一瞬後、今まで自分達がいた場所に氷の花弁が突き刺さった。
 いや、そこだけではない。
 ジュジュがいた場所を中心に舞い踊る、氷の花弁。
 キラキラ、キラキラと。
 透明な鋭い、雪の花弁。
「……義彦の剣、あれってもしかして」
 力ある剣を目にし、理沙の表情が険しさを増した。
「きゃー! 優勝したら結婚してー! 優勝しなくても結婚してー!」
 そんな義彦にリリーの声援が飛ぶ。
 その瞳はハートマーク……ではなくて、お金マークだ。
 バリバリ玉の輿狙いである。
「……」
 義彦は微かな笑みをリリーに向けつつ、視線を戻した。
「……魔剣、使い」
 傷つき、それでも未だそこに立つ、ジュジュに。
「カンナ会長はだから、義彦達を呼んだってわけ」
 静かに自分を見つめる義彦を、熱く睨み返す。
「ジュジュ!」
「だけどきっと、カンナ会長が求めてる人物は剣の実力だけあればいいってモンじゃないのよ」
 エマの悲鳴。
口を開くたびに軋む身体を叱責し、ジュジュは吼えた。
「剣の実力と、皆を率いて行ける、カリスマを持つ者――あたしはだから、そうなれるようがんばる……あんたには、負けない!」

 そしてそこに、『声』が響く。

「いいね、いいよキミ。ボク、そういう貪欲な人間ってスキだなぁ」
 鏖殺寺院の制服を着た少年はそうして、手にした漆黒の刃持つ剣を高く掲げ。
 振り下ろされた剣と共に、黒い風が……嵐が、全てをなぎ倒した。