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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第2回/全6回)

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第4章 作戦開始

 宮殿へ向う隊は『攻略隊』と呼ばれることになった。
 更に隊は2つに分けられた。ジュリオ・ルリマーレンの解放を最終目的とする『解放班』と、サポートをメインとする『補佐班』だ。
 更に別邸で救護発動に当たっている者達は主にこの攻略隊の救護と援護を担当することになる。
 隊長は先遣調査隊で隊長を務めた樹月 刀真(きづき・とうま)が担当し、主に解放班の指揮をとる。漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は刀真のサポートを行う。
 補佐班は白百合団班長のティリア・イリアーノが班長を務める。
 また、別邸の救護班は宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)に任されていた。
「母様、ここは調査メンバーは少ないですが、待機メンバーは多いですわね。守備を固めることになりそうですわね」
 合流をした祥子のパートナー同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)は祥子のサポートにつくことになる。……ちなみに優子とは顔を合わせていないし、魔道書本体もまだ見られてはいない。
「もう直ぐ出発ですね。皆さん昨晩は良く眠れましたか?」
 準備を整えて、隊長からの指示を待っている白百合団員に、本隊メンバーとして訪れたグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)が話しかける。
 本隊が到着してからまださほど時間は経っていないのだが、もう数日この闇の中の空間にいるような感覚を受けていた。時間がとても長く感じる。
「眠くなったら眠るようにしています。体調は悪くないです」
 先に到着をしていた白百合団員からは、元気ですという返事は返ってこなかった。
「怪我をしなくても、交代でここに戻ってきて休息をとりましょうね」
 そう声をかけているグロリアから、レイラ・リンジー(れいら・りんじー)は強い緊張を感じ取る。
「宮殿に向う者は若干少なめですが……」
 レイラはごく小さな声でグロリアに囁いていく。
「ここの救護班のメンバーは充実しています……。何かの際にも安心して、背中を任せられますから……あまり気負いすぎないで下さい……疲れて、しまいまから……」
 レイラの言葉にグロリアは淡い笑みを浮かべて、大きく息を吸い込んで深呼吸をした後、「ありがとうございます」と礼を言った。
 そんな2人の様子にアンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)は、穏やかな顔で頷いた後、緊張した面持ちの白百合団員と仲間達に声をかけていく。
「そう緊張することはないですよ。私達がいますから」
「はい」
 白百合団員達は返事をしてグロリアと同じように深呼吸をする。
「早く、綺麗な空気が吸いたいです」
「終わったら、自然豊かな場所で、ゆっくりしたいですね」
 グロリアがそう言うと、別の白百合団員も強く頷いた。
「私は温泉に行きたいです」
「私は湖をぼーっと眺められればそれでいいです」
「私は桜井校長にお会いしたいなあ」
 白百合団員達はそれぞれの休息を思い浮かべて共に緊張を解いていく。
 グロリア、レイラ、アンジェリカは、別邸の救護班の護衛として最初はここに残ることとなる。
「意外と重要な役割を任されて、俺も少し緊張してます……」
 リュックを背負った影野 陽太(かげの・ようた)は僅かに青ざめていた。
 たまたまヴァイシャリーに訪れていたところ、百合園の知り合いにスカウトされて、なんだかよく分からないうちに本隊のメンバーに入り、なんだかよくわからないうちに、暗闇の中にいる。
 地味な作業やあまり皆がやりたがらないゴミ処理などの雑用を引き受けていたところ、人手が足りない箇所に回ってくれといわれ、快く応じた結果、最重要ポイントである離宮に向って、眠っている騎士の確保に務めるといった、難しそうな任務を与えられてしまった。
「少しでもお役に立てるのなら……頑張りますよぉ」
 軽く身震いしながら、陽太は気合を入れていく。
 陽太は自他共に認める臆病者だが、一応探索系の技能は持っている。
「騎士ソフィアに話した自分の仮説が正しいかどうかはともかく、騎士ジュリオは離宮封印時に最後まで離宮に残り、鏖殺寺院との戦いを記憶しているであろう重要人物です」
 比島 真紀(ひしま・まき)が、刀真と祥子、ティリアに意見を述べ始める。
「当時のここの状況を最も良く知る人物ですので、早期の開放が望ましいと考えます」
「ソフィアさんの意見では最後が良いとのことでしたよね」
 刀真の言葉に頷いて、真紀は意見を続けていく。
「貴重な情報源になることに間違いない人物を最後にする必要はないと思われます。一緒に彼の離宮の封印を解くことになってしまっても、地上で行っている封印解除を一つ遅らせればいいだけではないでしょうか」
「そうですね、確認してみます」
 刀真は通信機を使って、神楽崎優子に確認をとる。
 通信機から流れてきた優子の返答はこうだった。
『構わない。可能そうならジュリオ・ルリマーレンの封印解除を優先してくれ。ただ、封印されていた者は、過去の記憶が曖昧であったり、混乱している可能性がある。敵とみなされたりしないよう、十分注意してくれ。地上には私から連絡を入れておく』
「では、可能そうであれば、解放を優先しましょう」
 刀真が言い、真紀は頷いて続いて隊列についての提案を始める。
「「トラッパー」や「殺気看破」「禁猟区」「女王の加護」「超感覚」といったスキルを保有している人を隊の先頭と末尾に配置しましょう。目に見える罠なら「トラッパー」で、目に見えないものには「殺気看破」や「禁猟区」等で危険を察知し対応できますので。「ディテクトエビル」を保有するウィザードは隊の中心に。歩みは遅くても安全に進めることが肝心です」
 提案に刀真は少し考え込む。
「その通りだけれど……難しい」
 月夜が皆を見回して言う。
「ご提案は最もだと思いますが、そこまで纏まった行動は即席部隊であるこの隊には難しいかと思います」
「補佐班の方はそのご提案を参考に、隊列を組ませていただきます」
 刀真とティリアはそれぞれそう答えた。
「まあ……そうですね」
 真紀は軽く息をつく。準備を進めているメンバーは直立不動で指示を待っていたりはしない。各々雑談や警戒をしながら、出発の時を待っている。教導団のように統制はとれていないのだ。
 白百合団員中心の補佐班の方はある程度纏まった行動が出来そうだが、攻略班の方は大まかな作戦を決めておき、あとは個々の判断で臨機応変に動くしかないのかもしれない。
「あとは、その後のことだけど」
 続いてサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が意見を出す。
「遺骸をそのままにしておきたくはない……。優先順位は低いが、調査の終盤で余力が出来た際に、回収できるよう発見時に地図に記録をつけるようにしたい」
「それは行っていただいて構いませんが……。やはりそれも、他の調査に比べて優先度の低い作業になりますので、他の調査に支障のない範囲でお願いします」
 刀真の言葉に、サイモンは頷いた。
 調査終了後に改めて遺骸のための墓所を作り、慰霊のための祭事を行いたいとサイモンは思っていた。
「ここでまた、命が失われることがありませんように……。怪我人も、出ませんように……」
 部屋の隅で、グロリアと皆を見守りながら、小さな小さな声でレイラが祈っていた。

○    ○    ○    ○


 地下から宝物庫を目指す隊は『魔法隊』と呼ばれることになった。
 主な目的は宝物庫の中にあると思われる女王器の回収だ。更に敵に地下道を利用されないよう地下通路の封鎖などの役割も担うことになった。
 本隊と共に訪れたイルミンスールの教師であり魔法考古学者のグレイス・マラリィンという獣人の青年が同行することになる。
 隊長は白百合団班長の御堂晴海が務める。
「さーってと、じゃあそろそろ参りますかぁ? グレイスせんせー?」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は、早く出発したくうずうずし通しだった。
 西の塔での雑用も積極的に行い、準備に務めていた。水を作るための氷術連発などでは、作りすぎて塔内が冷えて大変なことになったり、張り切りすぎてつい大きな声を出しては諌められてもいた。
「はは、元気だなぁ」
 グレイスは軽く笑みを浮かべながら、ウィルネストが差し出した手を握り、握手をする。
「ガッコーでは会ったことねーよな?」
「そうか? 僕はキミのこと知ってるけど。って、痛っ!」
「ごめんー。力入れすぎた」
 グレイス・マラリィンは人のよさそうな青年だった。
 目立つ教師ではないが、悪い噂はない。
 数ヶ月前の十二星華がらみの事件で重傷を負い、その際に百合園の世話にもなっているらしい。
 百合園側としても、信用のできる人物ということだ。