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葦原の神子 第2回/全3回

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葦原の神子 第2回/全3回

リアクション

5・海

 海が血に染まったわけは、漁船にいる教導団のローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)にも判っている。
 血の中で多くの魚が飛び跳ねる。変化する魚をローザマリアは見た。
「血が災いを呼ぶのかしら」
 鯱に変身する獣人、シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)は超感覚の使用により、海の変化が一時的と感じている。しかし。
「あんな大きな人、どうやって…」
 漁船の警護を行っていたシルヴィアは大太の戦いを見ていた。大きいが獣人ではなく人であった大太がなぜ産まれたのかが気になる。
 そのとき、船内からハールカリッツァ・ビェルナツカ(はーるかりっつぁ・びぇるなつか)がローザマリアを呼ぶ。
 中東から来たテロリストの身柄拘束に成功したローザマリアは、船内で負傷した首謀者の治療をハールカリッツァに頼んでいた。
 船内。
 ハールカリッツァは横たわる首謀者に医学的な応急処置に加えてヒールを併用し、何とか大事に至らないよう治療に勤める。
「死なせません。もう誰の犠牲も、見たくはないんです。勿論、貴方の犠牲もです」
 懸命な治療にテロリストの意識も戻る。
「ローザ、意識を取り戻しました!」
 ローザは船内で、首謀者と対峙する。
「アッサラーム・アライクム。目が覚めた?悪いけれども、時間が無いの。協力してもらうわよ。否やは無しでね。でなくば、最悪――この大陸に死のキノコ雲が立ち昇る事になる。もしかしたら、私たちも無事では済まないかもしれない」
 首謀者は口を噤んでいる。
 甲板では、シルヴィアと共にグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が周囲を警戒している。
「ローザは、祠の方の戦況を憂いておるのだな。無理からぬことだあの、ハイナなる者が準備を進める大量破壊兵器……あれは、非情なる殺戮手段だ。妾が死して四百余年、斯様なエデンの果実を、人間は手にしてしまったのだな」
 イングランド女王エリザベス1世の本霊であるグロリアーナが呟く
「辛いよねー、ローザも。ハイナは同じアメリカ出身で友達になれそうなのに…量破壊兵器なんて…シャンバラが死の大地になるのは、あたしだって厭だよ…」
 シルヴィアは、まだ潜伏しているかもしれないテロリストに警戒をしている。
「阻止する方法はきっとあるはずだ」
 視線を海に陸に向けながら二人は時折祠の方角を気にする。
 ナラカ道人の復活を食い止める戦っている仲間がいる場所だ。
「うん、あたしも皆を信じてる、みんなならきっとと復活を阻止してくれるはずだって」

 船内では尋問が続いている。
 ハールカリッツァは尋問の最中もヒールを施し、敵の痛みを和らげている。
 首謀者の男が重い口を開く。
「…確証があって動いているわけではない」
 その一言が口火となった。
「全ては、我が故郷に伝わる夢と伝承から始まった。不死を手に入れた女の物語が語り継がれている…遥か昔、女の末裔が伝えた話だ。御伽噺と思っていた。しかし、この大地が地球に現れたとき、我々の認識は変わった」
「本当だと思ったのね」
「そうだ」
「あなたの国籍と所属は」
「言えない」
「背後にある組織は」
「それも言えない」
 ローザマリアはアメリカ軍を装い、男を詰問する。
「我が軍の展開能力を甘く見ないで。その矛先は既にあんたの家族の間近にまで迫っている。私がこの電話を鳴らしたら最後、不幸な事態が起こる」
 携帯電話を掲げるローザマリア。
「無駄だ。言えば、組織が家族を殺す、どちらにしてもおなじことだ。私が話せるのは、不死の女についてだけだ。暫くすれば、皆が知る物語だ」
 ローザマリアは、携帯の動画カメラで男の供述を撮影する。
 再び男は口を閉ざす。
「ハイナと連絡を取りたい――私は元US Navy Chief Petty Officer(海軍兵曹長)のローザマリア・クライツァールです。取引をしたい…同じ、自由の御旗を仰ぐ者同士として」
 ハイナにかけた電話に出たのは、側近だ。
「ハイナ総奉行は、現在、電話に出られる状態ではありません」
 電話の先から、戦いの銃声が聞こえる。